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ユヴァル・ノア・ハラリとオードリー・タンが世界の未来について対談しました

 7月15日、『ニューズウィーク』日本版に「ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来」という記事が掲載されました。ゲイのユヴァル・ノア・ハラリとトランスジェンダーのオードリー・タン、世界の注目を集め、現代を代表する知の巨人と言っても過言ではない2人の知の巨人による、夢のようなトークショー、AIや民主主義の未来をめぐる対談を、全文日本語訳したもの(のうちの1/3)です。セクシュアルマイノリティのお二人なので、そういう話がたくさん出てきて、興味深いです。抜粋してご紹介します。
  
 対談はプライド月間(おそらく6月末)に行われたそうで、セクシュアリティやジェンダー・アイデンティティの話から始まっています。
 
 ハラリ氏はまず、「自分がゲイであることに気づき、カミングアウトしたことで、技術だけでなく、科学や歴史全般に対する私の態度が大きく変わりました」と語りはじめます。
「まず最初に、人が自分自身についてほとんど何も知らないということに気づかせてくれました。私がカミングアウトしたのは、21歳の時でした」
「15歳、16歳当時を振り返ってみても、本当によくわかりません。私は男の子に惹かれていて女の子には惹かれていない。そのことは明白なはずでした。私は自分のことを知的な人間だと思います。なので、自分の性的指向については分かっていて当然なのに、当時はわかりませんでした。心の中は分断されていて、自分のことを自分で分かっていませんでした」
「だからこそ、今日、新しい監視技術の発展を見ていると、最も興味をそそられる事の一つは、私が自分自身を知るよりも、誰かが私の事を知っていたらどうなるのか、ということです。私が10代の頃にFacebookやTikTokなどが存在していたとしたら、私がゲイであることが、私自身がそのことに気づくよりもずっと前にFacebookなどが気づいていたことでしょう」

 続いてタン氏が、自身のことについて語りました。
「私の生まれつきのテストステロン(男性ホルモン)のレベルは、おそらく80歳の男性のレベルしかありませんでした。私が13歳か14歳の時には、平均的な男性の思春期のテストステロンのレベルと平均的な女性の思春期のテストステロンのレベルの間のどこかに位置していたと思います。
 インターネットに出会えたことはとても幸運でした。たとえわたしの住んでいる地域に、わたしのような人間がわたし一人だったとしても、世界中の同性愛者やバイセクシャルの人たちから、いろいろ教えてもらうことができたからです。
 たとえ自分の住んでいる街には100人に1人、1000人に1人しかいなくても、インターネット上には同性愛者、バイセクシャルのサポートグループがあって、彼らが自分たちの実体験をシェアしてくれたからです。
 その後、24歳の時にわたしの第二の思春期である、女性としての思春期が2~3年ありました。そのおかげで、政治家としてすべての異なる人々の意見を理解し、共感できるようになりました。
 なぜなら自分の心の中に両方の性を持っているからです。
 台湾が結婚の平等を法制化したとき、この法律は世代間の異なる立場を調和させることにもつながることに気づきました。年配の世代の価値観は、家族やグループを大事にすること。一方、若い世代は、より個人主義です」

 それから、「コード(アルゴリズム)と物理学の比較」について、このような対話がありました。
ハラリ:昔、あなたは役所に行き、いくつかの書類に記入する必要がありました。書類には男性か女性かをチェックしなければならない箇所があります。選択肢はこの2つしかありません。申請書などの書類を書き上げるためには、男女どちらかにチェックマークを入れなければなりません。どこかの役人が、書類にはこの2つの選択肢しか必要ないと決めたからです。これが今の現実です。
タン:ちなみにわたしは男女両方にチェックマークを入れますが(笑)
ハラリ:しかしシステムによっては、両方にチェックを入れることができない場合もあります。紙の場合はできますね。そういう意味で紙の方がまだ自由があるという良い例です。コンピュータ上では、チェックを入れないと次の画面に進まないし、片方にしかチェックを入れられないようにコードで規定されている場合があります。これが今の現実です。
タン:性別のチェックと同じような問題は、絵文字にも見ることができます。絵文字は長い間、すべて男性の図柄でした。女性の絵文字に切り替えるには、ジェンダーセレクターで設定しなおさなければなりませんでした。ちょうどここ1、2年の最近の出来事ですが、Unicodeコンソーシアムが、最もよく使うような絵文字である「歓喜の笑い」「歓喜の涙」の顔はデフォルトでジェンダーニュートラルに見える必要がある、と言い始めました。こういうことが一般的になってきたのだと思います。
 
 また、ハラリ氏は、「私たちの生活を形作る自然法則と、私たちが考案したルールの違い」について、「光の速さよりも速く動けないような、本当の自然法則は、絶対に破れません。でも二人の女性がお互いに愛し合ったり、セックスしたりすることは、生物学的にも物理的にも可能です。人間が作ったルールだけが「ダメだ。間違っている。そんなことは許されない」と言っているだけなのです」と語っています。
「人間の場合、ゲイや黒人に対して偏見を持っている人がいれば、「この人が偏見を持っています。この仕組みに偏見があります」と指摘できます。それに同意してくれる人もいるでしょう。でも、それだけで偏見を変えることはできません。偏見は意識的な知性よりも 、もっと深い潜在意識から来ているからです」
「コンピュータには潜在意識がないと言ってもいいでしょう。コードのどこかに偏見が含まれていれば、それを変えればいいだけです。 コンピュータのコードを同性愛者に優しいものにしたり、LGBTに優しいものにすればいいのです。人間の持つ偏見を変えることよりも、ある意味ずっと簡単です」

 そして、タン氏が台湾でのピンクのマスクの話を、市民テクノロジーのおかげでシスジェンダーの人たちもピンクのマスクをサポートし、偏見を深く掘り下げて考える機会になったケースとして、詳しく話してくれました。

  『ニューズウィーク』では、この後、残りの部分を順次掲載していくそうですが、実は元の記事(全文)がすでにこちらに掲載されています。
 このコロナ禍や気候変動、AIの暴走の懸念など、不安で先行き不透明な現在の世界に生きる私たちにとって、本当の意味で希望を与えてくれるような、素晴らしいお話です。長文ですし、ちょっと難しい内容かもしれませんが、お時間がある方は読んでみてください。
 


参考記事:
ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来(『ニューズウィーク』日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/yukawa/2020/07/post-23.php

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