NEWS

性同一性障害特例法の不妊手術の強制は違憲であるとして、浜松在住のトランス男性が家裁に申立てを行なうことが明らかに

 浜松TG(トランスジェンダー)研究会代表の鈴木げんさんが今秋頃、静岡家裁浜松支部に性同一性障害特例法の違憲性を訴える家事審判の申立てを計画していることが明らかになりました。全国で2例目です。鈴木さんは「誰もが性自認通りの戸籍が与えられる社会にしたい」と訴えます。


 申立てでは、性同一性障害者特例法の要件の一つである、性別適合手術を受けて精巣や卵巣などを除去し、生殖機能をなくすという要件についての違憲性が焦点となります。
 4歳頃から性別違和を抱き始めたというトランス男性の鈴木さんは、戸籍上は女性のままです。約6年前からホルモン治療を受け、現在は男性として女性のパートナーと生活しています(お二人は、浜松市の「パートナーシップ宣誓制度」の宣誓第1号カップルです)
 鈴木さんは、性別適合手術を強いられる現行法の要件を不当とし、未手術のまま戸籍変更を申請する。「体にメスを入れないと戸籍変更が認められないのは、身体的、精神的な負荷が大きすぎる」とし、人権保障を求めていく考えです。
 
 2016年に岡山県在住の戸籍上女性であるトランス男性が起こした同様の家事審判では、2019年1月に最高裁が合憲であるとの判断を下しましたが、「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」とする補足意見も示され、社会状況の変化による判断変更への含みを持たせました(詳細はこちら
 
 弁護団の水谷陽子弁護士(愛知県弁護士会)は、「特例法によりトランスジェンダーの家族形成の権利と平等権が侵害されており、憲法違反と言える。身体の侵襲を受けずに性自認が尊重されるべき」と強調します。憲法における法の下の平等や個人の尊厳、男女平等の観点から、特例法の違憲性を争う構えです。
 鈴木さんは「性の在り方は多様。いろんな選択肢があることは、豊かな社会の大前提。申立てが、未来の子どもたちにとっても生きる糧になると信じている」と語理ました。

 
 2004年7月に施行された性同一性障害者特例法は、戸籍上の性別の変更の審判が可能となる要件として①二十歳以上②現に婚姻していない③現に子供がいない④生殖腺がないまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にある⑤他の性別の性器に近似する外観を備えているの5つを定めています。
 一方、世界の趨勢を見ると、不妊手術の強制は人権侵害であり、医療を不要にすべきであるとの考えが主流になっています。日本と同じ2004年に成立した英国の「性別承認法」は性別適合手術が不要です。2012年にはアルゼンチンで初めて精神科医の診断なしに性別変更を可能とする法律が制定され、以降、デンマーク、アイルランド、マルタ、ノルウェー、ギリシャなどで同様の法律が制定されています。2013年にはアメリカ精神医学会が「障害」という言葉を使わない「性別違和」という名称を採用しました。2014年には世界保健機関(WHO)が、2017年には欧州人権裁判所が「性別を変更するために生殖能力をなくす手術を課すことは人権侵害である」と判断しています。2018年に発表されたWHOの「国際疾病分類」最新版(ICD-11)では、性同一性障害が「精神疾患」から外れ、「性の健康に関連する状態」という分類の中のGender Incongruence(性別不合)という項目に代えられました(非病理化が達成されました)。ICD-11は2022年から発効されます。国際的に「性同一性障害」という概念が不使用となることを受けて、早急に性同一性障害者特例法を見直す必要があるため、2020年、日本学術会議が「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定を提言しました。(性別変更をめぐる諸外国の法制度についてはこちらをご覧ください)
 

 
参考記事:
戸籍性別変更「手術なしに」 浜松・鈴木さん、申し立てへ 特例法要件の違憲性問う(静岡新聞)
https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/926289.html


ジョブレインボー
レインボーグッズ