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同性カップルの「事実婚」も婚姻に準じる関係であり法的保護対象となると示す初の高裁判決が下されました

 同性のパートナーとアメリカで結婚し、日本で長期間一緒に暮らし、子育てのための新居の購入までしていた30代女性が、パートナーの不貞行為をきっかけに結婚の解消を余儀なくされ、精神的苦痛を受けたとして、元パートナーとその結婚相手に対して約640万円の損害賠償を求めていた裁判で、昨年9月、同性カップルを事実婚に準ずる関係と認め、法的保護の対象になるとする画期的な判決が宇都宮地裁で示されました。3月4日、その控訴審(高裁)判決が東京高裁(秋吉仁美裁判長)で言い渡され、同性でも事実婚(内縁)と同視できる関係だったとして法的保護の対象と認め、110万円の賠償を命じた一審判決を支持しました。

 秋吉裁判長はまず、同性カップルが法律上の夫婦とどう違うのか、同居の実態、結婚の意思、子どもをもうけ育てる合意という3つの切り口から検討しました。 
 原告女性は2010年から7年間、被告女性と同居し、2014年には米国で結婚式を挙げ、二人は子どもを育てることを計画し、被告女性がMtFトランスジェンダーからの精子提供で人工授精を試みていました。2015年には日本でも結婚式と披露宴を行なっています。原告女性は子育てをすべく、マンションの購入も進めていましたが、2017年に被告女性と第三者の男性の不貞行為が発覚し、二人の関係が破綻しました。
 高裁はこうした経緯を踏まえ、「他人が生活を共にする単なる同居ではなく、同性どうしであるため法律上の婚姻の届出はできないものの、できる限り社会観念上、夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり、男女が協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということができる」と述べて、婚姻に準じる関係であったと認めました。
 判決はさらに、同性カップルの権利を確立させつつある国内外の情勢を前向きに評価し、内縁の法的利益は否定できないとしました。
 海外では2019年5月時点で、欧米を中心に同性婚を認める国や地域が25を超えています。国内でも東京都渋谷区が2015年、同性カップルを「結婚に相当する関係」(パートナーシップ)と認める新条例を制定し、要綱で定めた世田谷区とともに同性パートナーシップ証明制度制をスタートさせ、全国に広がりつつあります。2019年以降は、同性カップルが法律婚できない現行制度は「婚姻の自由」を定めた憲法に違反するとする訴訟を相次いで起こしています。高裁は同性婚の是非にこそ言及しませんでしたが、「世界的にみれば同性婚を認める国が相当数あり、日本国内でもパートナーシップ制度を採用する地方自治体が現れてきている社会情勢を考慮すれば、同性どうしの関係であることだけで法律上保護される利益を持つことを否定はできない」と述べました。 
 被告側は「法の定めが無い、単なるカップルにすぎない」などと主張しましたが、秋吉裁判長は「同性どうしでも合意で貞操義務を負うことは許容される」と退けました。
 
 原告女性は弁護士を通じ、「性別が異なることのみで、実際は異性婚と変わりない状況だったので、認められてほっとしています。自分としては、相手の人(元パートナー女性)には当事者の権利を狭めることはしてほしくないと考えています」とのコメントを出しました。

 原告女性の代理人を務めた白木麗弥弁護士は記者会見で、「今回の判決は同性の事実婚において、具体的にどのような場合に法的保護に値するのか、具体的な条件を示していて、指示していますので、今後ほかの同性カップルにも適用されるように示していると感じました。かなり影響力のある判決を出してくださったと思います。司法判断が立法につながることもあるので一歩進んだことはうれしいです」と評価しました。「同性カップルが暮らしていくなかで、別れもあり、さまざまな不都合を被ることがありますので、やはり立法による解決がないのであれば、司法による解決しかないと思います。それが一歩進んだことが大事です」
 また、白木弁護士は、一審が賠償額の算定にあたり「男女間の法律婚や内縁関係とは差異がある」としたのに対し、高裁が同性だからと差をつけず、「7年間の同居やマンションの購入などの事情から賠償額を算定していた」と語り、その点も評価しました。
 一方、婚姻が両性の合意のみに基づき成立するとした憲法24条の解釈に高裁が触れなかった点は、「憲法論に踏み込まなくても結論を導き出せると考えたとも受け取れる」と分析しました。

 早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、「同性婚を認めることにつながる判決。司法の場で同性カップルや性的少数者への理解が一定程度進んでいることは評価できる」としたうえで、「社会全体で、当事者が自分に正直に生きられる環境が整っているとは必ずしも言えない。当事者への理解を深め、法整備や社会的支援を進めることが不可欠だ」と語りました。

 この日、熊本の男性カップルが「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟に加わることを発表し、原告の同性カップルは全国で合わせて15組となりましたが、今回の判決が、この裁判の判決にもいい影響を与えることが期待されます。ほんのちょっと前まで「日本で同性婚が認められるのは30年後ではないか」「自分たちが生きている間に果たして結婚できるのだろうか」と言われたりしていましたが、今や「数年後には認められるのではないか」との希望を持てるようになってきた感があります。熊本で訴えを起こした方は、法的に同性婚が認められないことで自分は「普通じゃない」と感じる当事者もいる、同性愛者をはじめLGBTの子どもたちの未来のためにも、結婚の平等を、と語っていましたが、その真摯な思いが実を結ぶことを願わずにはいられません。
 
 
 

参考記事:
“同性婚”に事実婚と同じ法的保護認める 東京高裁(TBS)
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3921475.html
同性“事実婚”「男女の婚姻に準ずる関係」 東京高裁が一審支持(FNN)
https://www.fnn.jp/posts/00433276CX/202003050013_CX_CX
同性事実婚、高裁も法的保護対象(共同通信)
https://this.kiji.is/607794815551931489
同性「事実婚」に法的保護 「婚姻に準じる関係」―不貞行為に賠償命令・東京高裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020030400831
同性「事実婚」に法的保護 不貞で賠償、高裁も認める(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56372320U0A300C2CR8000/
同性カップルの事実婚、異性間と同じ権利 二審も認める(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASN344GYBN31UTIL027.html
「同性カップル間でも内縁成立」主張の原告、2審も勝訴 東京高裁判決(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20200304/k00/00m/040/125000c
同性カップル「婚姻に準ずる」 不貞訴訟、2審も法的保護認める(産経新聞)
https://www.sankei.com/affairs/news/200304/afr2003040024-n1.html
同性カップル事実婚、賠償額も異性婚と差なし 高裁判決(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASN344GYBN31UTIL027.html
「制度の外」同性カップル、強い救済の姿勢 「内縁成立」踏み込んだ高裁判決(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20200304/k00/00m/040/316000c?pid=14516
「同性カップルにも異性の事実婚と同じ法的保護」二審も認める、同性婚訴訟にはずみ(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_23/n_10876/

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