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アロマンティック/アセクシュアルの方たちへの調査の結果、約6割が「生きることに不安を感じている」ことが明らかに

 約1700人のアロマンティック/アセクシュアルの方たちへのアンケート調査の結果が発表され、約6割が「生きることに不安を感じる」と回答するなど、当事者が感じる不安や、直面しがちな困り事が明らかになりました。Yahoo!の松岡宗嗣さんの記事「「他者に恋愛的/性的に惹かれない」アロマンティック/アセクシュアル約1700人対象の調査結果が公表」や、調査についての公式サイトからお伝えします。
 
 
 近年、性的マイノリティが多くのメディアで取扱われるようになり、人権課題の一つとして広く認識されるようになりましたが、LGBTの認知度が飛躍的に高まっている一方で、アセクシュアル(無性愛)やアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない人※1)については一般にはあまり知られていないのが現状で、学術研究も少なく(昨年の大阪市の調査では、0.8%の方がアセクシュアルと回答)、基本的な情報が不足していることから、アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム※2の有志メンバーが調査実行委員会を結成、当事者1685人を対象に調査を実施しました。
 
※1 恋愛的指向についてはこちらをご覧ください
※2 アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム(Aro/Ace)についてはこちらをご覧ください

 11月1日、調査実行委員会の一人で「アセクシュアル啓発委員会」のメンバーとして活動してきた三宅大二郎さん(「すこたんソーシャルサービス」現代表でもあります)が、調査結果の速報値を公表しました。

 調査では、他者と「つきあいたい・独占したい」など「恋愛感情を抱くこと」と、「性的に惹かれること」を分けて質問をしていますが、回答者のうち、自身を「アロマンティック」と自認する人の割合が約半数、「アセクシュアル」と自認する人は約6割に上りました。組み合わせを見てみると、「アロマンティック・アセクシュアル(他者に恋愛的にも性的にも惹かれない人)」が約4割で最も多く、「ロマンティック・アセクシュアル(他者に恋愛感情を持つことはあるが、性的には惹かれない人)」がこれに次いで約1割でした。
 特にアセクシュアルの人は「そもそも性欲がないと思われることが多い」と三宅さんは語ります。今回の調査結果を見てみると、アセクシュアルの人の約6割が「性欲がある」と回答した一方で、「他者と性行為をしようと思うことがあるか」を聞くと、約9割が「ない・あまりない」と回答しています。
 アロマンティック/アセクシュアルの人たちは、他者から恋愛感情を向けられることや性的な目で見られることに嫌悪感を覚えることもあります。調査では、アロマンティックの人の約6割が「キスをする行為」に、アセクシュアルの人の約8割が「性的な誘いを受けること」に嫌悪感を抱くと回答しています。三宅さんは「一方で、回答者の1~3割が『どれにも嫌悪感を覚えない』と答えており、必ずしも全ての当事者が特定の行為に嫌悪感を覚えるわけではありません」と語っています。
 また、当事者のなかには、恋愛関係も性的関係もないパートナーやグループを望む人もいます。調査結果を見ると、約半数が「一人(のパートナー)を望む」と回答、約1割が「グループを望む」と回答しています。
 また、恋愛や性的ではない「愛情」を誰に感じるかという質問に、回答者の約7割が「友人」や「家族」に感じると回答しています。この結果について三宅さんは、「よく『愛情がない』『感情がない』など『冷たい人』だと言われてしまうことがあります。もちろん当事者も、いわゆる愛情はあるということが調査からもわかりますが、ただ、もちろん『愛情を感じる対象はない』と答えた約6%の人を否定することがあってはいけないと思います」

 アロマンティック/アセクシュアルの人たちの抱える困難は、まだまだ知られていません。
 調査では、約6割が「生きることに不安を感じる・やや感じる」と回答しています。経験した困り事の割合を見てみると、「パートナー関係」や「パートナー探し」などでの困難が約3割、「不快な質問」による困難が約3割に上りました。
 具体的には、アロマンティック/アセクシュアルであることを伝えた人から「運命の相手に出会えば変わるよ」「人間じゃない、人の心がない」などと言われてしまったというものや、パートナーから「性的な関係を持ちたくないということなら愛してないってことだよ」と言われた、または「病気だ」と言われ治療を勧められた、という声もあったそうです。ほかにも、「友達だと思っていた異性からアプローチを受け、それを拒んだら罵倒・差別された」という声や、アセクシュアルであることを理由に交際を断ったところ「無理やり抱きつかれるなどの身体的な暴力を受けた」というケースもあったそうです。 

 また、アロマンティック/アセクシュアルに特有の声として「自分が恋愛的・性的な関心を持てないということは、死ぬまで証明できないのではないか」との声もありました。家族から「(アロマンティック/アセクシュアルだと)決めつけないで、もしかしたら良い人に出会うかもしれない」と言われるなど、恋愛や性的な関心を持つことを前提に「いつかその時が来る」と諭されると、「自分はおかしい」といったスティグマを付与され、孤独感や不安を覚えることにもつながります。恋愛的・性的な関心を持つことが「当たり前」とされる社会では、当事者は「誰も自分のことをわかってくれないのではないか」と感じてしまいがちです。
 
 三宅さんは、今回の調査が「アロマンティック/アセクシュアルの可視化につながることを期待している」と語ります。
「恋愛的、性的に他者に惹かれない人がいるということをまず知ってほしいと思います。そのうえで、例えば恋愛話や性的な話というのは『誰もが共感する人類共通の話題』ではないという点や、誰にも惹かれないということは『感情がない』ということではないことを知ってほしい」
 さらに、「最近の若い人は性欲がない」とか「草食系」といった偏見にも注意が必要です。
「恋愛が『できない』、性行為が『できない』という表現もありますが、そもそもできることを前提とし、それ以外をネガティブに表現することには注意が必要です」
 
 LGBTQ研修などでは、よく「彼氏/彼女」「旦那さん/奥さん」という言い方を「恋人」「パートナー」といった性別がニュートラルな言葉にしましょう、との呼びかけが行なわれています。これはLGBの人にとっての配慮として大切なことですが、一方で、「彼氏/彼女いないの?」と尋ねることが、相手が恋愛や性的な関心を持つことを前提としてしまっている(アロマンティック/アセクシュアルの可能性への注意が抜け落ちている)ということも指摘されています。
 三宅さんは「職場のセクハラやパワハラ防止の観点で、こうした恋愛や性愛に関する話がハラスメントにつながらないよう対策を徹底してほしい」と語ります。
 また、教育や医療、心理的援助、福祉の領域でも、まだまだ「誰もが恋愛や性的に他者に惹かれる」という前提になってしまっていることが多いため、「専門領域の方々への研修も進んでほしい」とのことです。
 
 三宅さんは「アロマンティック/アセクシュアルという人たちがいるということを知ってもらうだけでなく、これを切り口に私はどうだろう?という視点で、自分自身についてより深く考えてみてほしい」と語ります。
「アロマンティック/アセクシュアルの人たちも実際はとても多様であることがわかってきています。こうした人たちの中には、生きるうえで困難を抱えている人もいるため、社会の環境が改善され、支援が広がるといいなと思います」


 「Aro/Ace調査2020」のオンライン概要報告会のアーカイブ映像はこちら、調査結果の概要報告資料はこちらに掲載されています。
 

参考記事:
「他者に恋愛的/性的に惹かれない」アロマンティック/アセクシュアル約1700人対象の調査結果が公表(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20201101-00205767/

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