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経産省トイレ訴訟控訴審でトランス女性職員、「トイレの利用に限らず、他の女性と同等に接してほしい」と訴え

記事日付:2020/09/04

 トランス女性の経産省職員が女性トイレの使用を制限されたのは違法だとして国に処遇改善や損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が9月1日、東京高裁で行なわれ、原告の女性職員は意見陳述で「LGBTを理由とする差別が続いている。トイレの利用に限らず、他の女性と同等に接してほしい」と訴えました。


 健康上の理由から性別適合手術を受けられず、戸籍の性別は変更できないものの(名前は女性名に改名)、ホルモン治療も受け、自認する女性の服装で勤務しているトランス女性職員(Aさん)は、女性用トイレの使用が認められず、職場から離れたフロアのトイレを使うことを命じられたうえ、上司から「もう男に戻ってはどうか」などと言われ、精神的苦痛から病気休職を余儀なくされました。Aさんは、処遇改善と損害賠償を国に求めて提訴し、昨年12月、東京地裁は経産省の対応は違法であるとの判決を下しました。判決理由として、性別は「個人の人格的な生存と密接かつ不可分のもの」であり、「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは、重要な法的利益であり、国家賠償法上も保護される」と、トイレは日常的に必ず使用しなければいけない施設であり、経産省のAさんへの対応は「重要な法的利益を制約する」ものだと述べられました。
 この一審判決に対し、国も、Aさんも(主張が認められなかった部分があったそうで)判決を不服として控訴していました。
 

 HARBOR BUSINESS Onlineで、Aさんの生い立ちから現在に至るまでのライフヒストリーを追った記事が掲載されていましたので、ご紹介します。
 Aさんが性別違和を抱いたのは小学校のとき。毎晩「明日朝起きたら、女の子になっていますように」とお祈りしていたそう。
 20代後半になってトランスジェンダーや性同一性障害という言葉を知り、自分が長年考えていたことはこれだったのか、と思ったそうです。20代後半から女性ホルモンの投与を開始し、30代後半になってやっとパートタイムで女性の格好ができるようになりました。
 40歳の夏以降、職場でカミングアウトし、女性として働くようになりました。10年以上前に、同じような「在職トランス」をした友人たちの事例が後押しになったといいます。
 しかし、女性として働くことが認められるまでには紆余曲折があり、産業医から「経産省で女性として働くのではなく、タイに行って、とっとと闇の病院で性転換時手術を受ければいいじゃないか」と言われ、ショックを受けたこともあったそうです。一方、当時の人事担当者は、在職トランスの事例がある他社に処遇の状況等をヒアリングするなど、真摯に対応してくれたそうです。省内の根回しもしてくれて、結果、女性としての勤務が認められました。
 しかし、部署内で説明会を開くこと、2階以上離れた女性トイレを使用すること、という条件がありました。
「男性として働いていた自分が、全く説明もないままに、いきなり女性として出勤したらみんなが驚いてしまうから、最初だけは説明が必要だろうと思ったんです。また同じように、いきなり女性用トイレでばったり会ったら驚かれるかもしれないから、当面の間はトイレのことも仕方ないかな、とも思いました」 
 ついに初めて女性職員として出勤した日、周囲は暖かく迎えてくれたそうです。また、他のフロアにいる女性職員の側からも、女性トイレを利用することに関する不安の意見などは出なかったといいます。
 しかし、しばらく経った後、直属の上司であった管理職から「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ったらどうか」
「いつになったら手術を受けるんだ」と言われたそうです。
 新しく替わった秘書課の人事担当者からは「あなたが女性トイレを使うのはセクハラですよ」「性同一性障害の人の権利よりも女性の権利が優先されるんです」「人事異動後に女性トイレを使用するためには、戸籍上男性であることをカミングアウトする必要がある」と言われました。
 これらの発言は、健康上の理由で性別適合手術を受けることのできないAさんに対するハラスメント(SOGIハラ)とも言うべきものですが、ほかにも(実際にはこのケースでは適用されない)法律の根拠をいくつも挙げては、同じ階の女性トイレの利用を許可することはできないという発言が繰り返されたそうです。
 その結果、Aさんは鬱病になり、1年以上休職することになりました。

 Aさんは、人事異動後にカミングアウトをせずに女性トイレ使用を求めること、それが法令違反には当たらないこと、他の女性職員と原則として平等の処遇にすることなどを求めて行政措置要求(国家公務員が人事院に対して勤務条件について行政措置を求める手続き)を訴え出ましたが、却下という判定を下され、その判定を取り消すためには裁判しか残されていません。泣き寝入りだけはしたくなかったAさんは、2015年に東京地裁に訴えることを決意しました。
 裁判では行政措置要求の取消請求と、管理職や産業医によるハラスメント発言に対する国家賠償請求の2つが争われています。
 判決までに4年1ヶ月かかって、結果は、「一部」勝訴でした。トイレ利用制限措置は違法であるとの行政措置要求の判定の一部取消、そして「男に戻ったら」発言も違法と認められ、132万円の国家賠償が命じられました。全面勝訴とは言えませんでしたが、それでもAさんは、トランスジェンダーの方たちの雇用や労働環境の改善の一助にはなったはず、と感じていました。
 Aさんが控訴したのは、一審では他のハラスメント発言についての違法性が認められなかったためです。
 
 「性同一性障害の人の権利よりも女性の権利が優先される」という人事担当者の発言は、まるでトランス女性が性犯罪者であるかのように見なし、排除せよと主張するトランスフォーブ(トランスフォビアに基づく差別主義者。J.K.ローリングもトランスジェンダー差別で批判されています)のようです。
 CNNの記事によれば、2017年3月までにアメリカの19の州でトランスジェンダーが性自認に応じた公共施設を利用できるようにする差別禁止法が定められましたが、その法律の発効以降、トイレにおける性的暴行の報告はありませんでした。性犯罪を言う人たちは妄想に取り憑かれているのではないでしょうか…(仮に性犯罪が起こったとしてもそれはトランス女性一般の非ではなく、その人個人の問題です)
 HARBOR BUSINESS Onlineでも「「女性の権利」と「性同一性障害の人の権利」は別のものではない。なぜならば、トランス女性は、女性の一部だからである。それを対立するもののように捉えている時点で間違いだといえるだろう」と述べられていますが、トランス女性はトランスジェンダーとして世間のシスジェンダーからも差別を受けているだけでなく、女性としても世間の男性から見下され…何重にも苦悩を抱えています(ぜひこちらの記事をご覧ください)

 Aさんは未来のトランスジェンダーの子どもたちへ向けて、こう語ったそうです。
「今は私たちの世代が頑張ります。あなたたちが私たちの歳になる頃には、きっともっとよい世の中になっているはずだから」
 
 


参考記事:
トランス女性へのトイレ利用制限措置は違法。経産省事件の当事者が伝えたかったこと(HARBOR BUSINESS Online)
https://hbol.jp/225997
「経産省はLGBT差別やめて」 トイレ訴訟二審初弁論で原告訴え(共同通信)
https://www.47news.jp/5206485.html

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