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憲法記念日に最高裁長官や有識者が同性婚についてコメントした記事が掲載

 「結婚の自由をすべての人に」訴訟は全国5高裁で違憲判決が出ており、早ければ今年度中にも最高裁で判決が出されるのではないかと言われています。5月3日の憲法記念日に際し、同性婚と憲法というテーマでいくつか新聞記事が掲載されていましたので、ご紹介します。
 
 
 最高裁長官が婚姻平等(同性婚の法制化)についてどのように見ているかというのは、注目されるところです。
 昨年の憲法記念日に向けた記者会見で戸倉三郎長官(当時)は、「国民の価値観や意識の多様化が進んでおり、裁判所は、より適切な紛争解決を追求する使命を帯びている。裁判官一人一人が広い視野を持ち、時代、時代で問題になる社会の動きに知見を深めていくことが求められている」と述べていました(詳細はこちら
 戸倉氏の退任に伴い、昨年8月に最高裁長官に就任した今崎幸彦長官は、憲法記念日を前にした記者会見で、同性婚など多様性についての憲法判断をめぐる裁判に注目が集まることに対し、「当事者の主張にきちんと耳を傾けるべきであることは、ほかの裁判と変わらない。(原告と被告)両方の声を公平にすくい取り、公正な判断をする」「新たな視点や論点をはらむことも多く、裁判官としての総合力が試される。各裁判官が主体的、自律的に識見を高めることが求められる」と述べました。
 最高裁は2023年にはトランス女性の経産省職員に対するトイレ使用制限などの扱いを不当だと判断し、大法廷で性同一性障害特例法の不妊化要件を違憲とする判決を下し、また、昨年3月には同性パートナーも犯罪被害者等給付金支給法の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に含まれると裁定するなど、画期的な判決を相次いで出しています(「人権の最後の砦」としての役割を全うし、少数者の権利を守ってくれていると言えるでしょう)。同性婚についても、きっと、当事者の主張にきちんと耳を傾け、公正な判断をしてくださるに違いありません。
 
 
 共同通信が早稲田大の長谷部恭男教授(憲法学)に行なったインタビューで、同性カップルの結婚を認めない現行の法制度は違憲とする判決が5つの高裁で相次いだことについて長谷部教授は、「憲法24条は『婚姻は両性の合意』と言っているので、憲法をつくった人たちは同性婚を想定していなかった。ただ婚姻は愛する人と生活して助け合い、人生をなるべく長く過ごすための制度だから、同性を愛する人たちが自分たちにも制度を用意してほしいというのは自然なことだ。制度がないのは(法の下の平等を定めた)14条違反というのはよくわかる」「また13条の幸福追求権の否定だというのも理解できる。24条の助けを借りなくても、現行制度は憲法上極めて問題だという結論は出てくる」と語りました。
 また、最高裁がどう判断するか?については、「夫婦別姓を認めない法制度は違憲と判断した場合、新たな立法がないと、役場の窓口は対処できないが、同性婚は異性婚と同じように受け付ければいいので、違憲と言いやすいのではないか。それでも違憲ではないとするときは、立法府が対処すべき問題で、裁判所として同性婚の制度があるべきだとまでは言えないという理屈になるだろうが、最高裁だけ何だと言われるでしょう」とコメントしています。
 

 朝日新聞は全国5高裁で違憲判断が出た同性婚訴訟のうち、昨年12月の福岡高裁判決で唯一、憲法13条で保障される「幸福追求権」に照らしての違憲判断が出たことに鑑み、幸福追求権とはどういうものなのか、九州大の南野森(しげる)教授(憲法学)にインタビューしました。南野教授は「たまたま学生も連れて傍聴に行っていたが、法廷内で思わず「おぉ」と声を上げた。高裁が踏み込んで「婚姻する自由」「婚姻について法制度による保護を受ける権利」を13条から導き出したというのは、非常に画期的だ」と語っています。そのうえで、日本国憲法は硬性で容易には改正できないため、時代に応じて必要となった「新しい人権」を解釈により幸福追求権のなかに読みとろうとするようになった、と解説しています。日本の違憲審査制が2000年代以降、活性化してきているのは、少数者の人権を守るという使命を裁判官が自覚するようになってきたのではないか、とも。たいへん興味深いお話でした。
 

 これも朝日新聞の記事ですが、元最高裁判事で『同性婚と司法』(岩波新書)の著書でもある千葉勝美弁護士が、同性婚を認めていない現行制度が「憲法24条に違反する」という判決が相次いでいることについてコメントし、「国会での審議状況や国民的な議論を待つのではなく、この人権侵害状況を速やかに救済する対応が司法には求められているということを表しています」と述べていました。「24条は戦後の日本国憲法で新たに作られた婚姻制度についての特別な規定です。戦前は「家」制度の下、婚姻は当事者の合意だけでは成立せず、戸主の同意が必要でした。24条1項で「家」制度からの決別を宣言し、2項で、1項の理念を生かした立法をするよう国会に求めたのです」
 千葉さんは、少数者の権利であっても憲法的価値がある場合には社会全体で保障することが法治国家のあるべき姿だが、現状は政治が動こうとしない閉塞的状況にある、だからこそ、司法がマイノリティの人権を保障する判断を示すことに意義があると述べています。


 同性婚を認めない現行法は違憲であるという見方はもはや当然のように共有されていて、憲法24条に違反するのか、14条なのか、はたまた13条なのかといった話や、最高裁はどう判断するかという話、司法の意義とは何か、といったことが語られていました。
 これも5高裁で連続して違憲判決が出たからこそ、と言えるでしょう。「結婚の自由をすべての人に」訴訟が始まる前は、世間では「同性婚に賛成か反対か」「憲法24条に“両性”と書いてあるのはどうするのか」というような声が強かったと思いますが、6年が経って、こんなにも世の中が変わったのです。
 とはいえ、千葉さんも言及している通り、国政は“注視”を繰り返すばかりの閉塞的な状況です。4月23日にはMarriage For All Japanが3万筆の署名と要望書を主要政党に提出し、「最高裁判決を待たずに今すぐ同性婚法制化へ動いてください」と訴えました。
 
 憲法記念日に先立つ4月末、神戸新聞は「同性婚訴訟/法制化の議論進める時だ」との社説を掲載し、「司法のメッセージは明確になったと言える。政府と国会は最高裁の統一判断を待つまでもなく、法制化に向けて制度設計の議論を進める時だ」と訴えています。「大阪高裁は「同性婚を受け入れる社会環境が整い、国民意識も醸成されている」とし、慎重論があっても「法制化しない理由にはならない」と指摘している。もはや動向を注視する段階は過ぎたのではないか。結婚の自由や権利が阻害され苦しむ国民がいる現状を、政治がこれ以上放置してはならない。企業や自治体、そして地域社会も、同性婚の法制化に備えた環境整備に取り組む必要がある」


参考記事:
同性婚訴訟、最高裁は「公平に声をすくい取り、公正な判断をする」 今崎幸彦長官が記者会見 3日は憲法記念日(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/402462

憲法の論点 早稲田大・長谷部恭男教授に聞く 同性婚否定 違憲と言いやすい 「情プラ法」象徴的効果も(共同通信)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/774576

「結婚する自由」認められた背景 南野教授に聞く変化する時代の憲法(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST5203N2T52UEFT005M.html

元最高裁判事が語る同性婚問題「閉塞状況のいま司法が乗り出すとき」(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST511QJQT51UPQJ00KM.html

<社説>同性婚訴訟/法制化の議論進める時だ(神戸新聞)
https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202504/0018921629.shtml

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