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女子ボクシングのレジェンド・藤岡奈穂子さんが米国で同性婚、都内でウェディングパーティも開催
『Number』によると、女子ボクシングで世界5階級制覇を果たしたレジェンド・藤岡奈穂子さんが、初代シュートボクシング日本女子フライ級チャンピオンの高橋藍さんと5月11日に都内でウェディングパーティを開催しました。お二人は2022年9月にアメリカで結婚し、昨年末には東京都の「パートナーシップ宣誓」も行なっていました。
藤岡奈穂子さんは1975年、宮城県大崎市に生まれました。世間でまだLGBTQへの理解や支援がほとんどない時期に子ども時代を過ごし、制服のスカートに違和感を覚え、男子への恋愛感情もなかった藤岡さんは、“女らしさ”の呪縛から逃れられるスポーツにのめり込みました。藤岡さんは「スポーツをしていれば、息苦しさから遠いところにいられる。そこで成績を残せば評価してもらえる。今思えば、逃げ場のような感じもあったかもしれません」と述懐します。ソフトボールの強豪校の選手としてインターハイに出場し、卒業後は実業団でも活躍しました。24歳の時にボクシングと出会い、転向すると、1年足らずでアマチュア大会にデビューし、破竹の勢いで勝ち進み、国際大会でも活躍するように。それでも「自分は人とは違う」という苦しさからは逃れられなかったといいます。「見合い話をもらったこともありますよ。宮城にいる時は佐川急便で働いていたんですけど、農家に配達に行くと『うちの息子の嫁にどうかな』って3回くらい。ボクシングをやるにしても、男性がやるのとでは見られ方が違う」
2008年に女子ボクシングがプロ化され、藤岡さんは「竹原慎二&畑山隆則ボクサ・フィットネス・ジム」のスカウトを受けて33歳でプロに転向し、上京。そこから数々の偉業を成し遂げる「伝説」が始まりました。2010年、OPBF東洋太平洋女子ミニフライ級王座決定戦で勝利し、2011年、WBC女子世界ストロー級王座を獲得(当時の日本最年長記録)、2013年にはWBA女子世界スーパーフライ級王座を獲得し、2階級を制覇(女子初)、2015年にはWBO女子世界バンタム級王座を獲得し、3階級を制覇。2017年、WBA女子世界フライ級王座を獲得・4階級制覇、また、WBO女子世界ライトフライ級王座も獲得し、世界最多タイ記録となる5階級制覇を果たしました。藤岡さんは2023年(47歳)まで現役を続けました。
2015年夏、高橋藍さんは、女子シュートボクシングの試合を観戦しに来た藤岡さんに、一緒に練習をさせてもらえるようお願いしました。藤岡さんにたくさんのことを学んだ高橋さん。この頃すでに現役引退を見据えていましたが、藤岡さんのおかげで現役最後の試合では、それまで3度の対戦で全て負けていた相手に勝利し、有終の美を飾ったそうです。そして、アスリートとしての尊敬の思いが愛情へと変わっていき、それまで異性としか恋愛していなかったものの、パートナー関係に。藤岡さんの海外での挑戦にも同行し、栄養面の管理や後援会のまとめ役、時には練習相手を務めるなどしてサポートするようになりました。高橋さんは、「二人の関係をポジティブに捉え、周囲に対しても自然に振る舞っていた」一方、小さい頃からずっと「自分は人と違うのかな」という違和感を抱いてきた藤岡さんは、葛藤を抱えていたそうです。
お二人は2022年9月、トレーニング先のカリフォルニア州オレンジカウンティで結婚しました。裁判所で手続きをした後、簡易的な教会で、練習後のTシャツ・短パン姿で挙式し、手続きをした職員がそのまま牧師を務めたそうです。
藤岡さんは、「母は伝えられないまま亡くなってしまったので、父にも言わずにいたら後悔するんじゃないか」という思いから、意を決し、昨年春、お父様にカムアウトしました。お父様は「ずっと支えてきてくれた藍ちゃんなら」という感じで、あっさりと受け止めてくれたそうです。
昨年末には東京都の「パートナーシップ宣誓」を行ないました。そして、この5月11日に都内でウェディングパーティを開き、二人の関係を公にしました。そこには、「自分の人生には家族とか結婚式というものがないだろう」と思って生きてきたであろう藤岡さんに、喜んでくれる人がこんなにたくさんいるのを見てほしいという高橋さんの思いがありました。160人を招待したパーティでは、藤岡さんが現役時代に所属していたジムの会長・竹原慎二さんや畑山隆則さんも「おー、おめでとう!」という感じで、自然に受け止め、祝福してくれたそうです。映画『幸せの黄色いハンカチ』にちなんで黄色をドレスコードにしたパーティには、藤岡さんのお父様も派手な黄色いネクタイで参加していたそうです。
お二人は、日本でも同性婚が法制化されたら、結婚するつもりです。子どもについては長い時間をかけて話し合い、今の段階では迎えることはしないという決断をしましたが、その分、「たくさんの子ども達に何か関われることができたら」と思い、子どもが格闘技やスポーツを通じて学べるアカデミーを作るという夢を持ち、そのために一緒に大学院に通ってスポーツマネジメントを勉強しながら準備を進めているんだそう(素敵です)
女子スポーツ界では、2017年にレズビアンであることをカムアウトした(中学の道徳の教科書にも載った)滝沢ななえさん、現役アスリートとして初めてカムアウトした下山田志帆さん、米国でカミングアウトし(バイデン大統領にも祝福され)結婚した横山久美さん、それから、ラグビー女子日本代表の村上愛梨さん、元日本一女子ボクサーの菊池真琴さんなど、たくさんの方たちがカミングアウトを果たしてきました。今回、藤岡奈穂子さんのようなレジェンドがそのリストに加わったこと、しかも、幸せいっぱいなウェディングパーティを開いたというお知らせとともに公表されたこと、本当に素晴らしいです。心からの拍手とともに、おめでとうございます!と申し上げたい気持ちです。
参考記事:
世界5階級制覇の“レジェンド”藤岡奈穂子がシュートボクシング高橋藍と“結婚式”…出会いと絆「同性婚」を語る「どんな反応が来るか心配でしたが…」
https://number.bunshun.jp/articles/-/865724
「ずっと違和感を抱いて生きてきました…」女子ボクシングのレジェンド・藤岡奈穂子が語った“女らしさ”の葛藤と「同性婚」カミングアウトまでの道(Number Web)
https://number.bunshun.jp/articles/-/865725