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レインボーカラーのソックスでの裁判傍聴を止められた方が裁判所を訴えました

 11月13日、裁判長が傍聴人に対し靴下の柄や上着の文字を隠すように命じたこと、また傍聴人や弁護士に対し服に着けていたバッジを外すように命じたことは違法であるとして、国を相手取り損害賠償を請求する訴訟が東京地裁に提起されました。原告の一人は、「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟の判決を傍聴するために福岡地裁に入ろうとした際、職員に靴下のレインボー柄を隠すよう命じられた鈴木賢明治大教授です。
 

 明治大教授で、北海道大学名誉教授でもあり、著書『台湾同性婚法の誕生──アジアLGBTQ+燈台への歴程』は第1回日本台湾学会学術賞と第35回尾中郁夫家族法学術賞を受賞している鈴木賢さんは2023年6月8日、「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟の判決が福岡地裁で言い渡されるのを傍聴しに行きました。まず、裁判所の建物に入る際、バックパックについていたレインボーカラーの装飾を注意されましたが、その時は「表現の自由がある」と反論し、それ以上は追及されませんでした。しかし、法廷に入ろうとした時に「レインボーの靴下では傍聴できない」と言われました。鈴木教授が理由を聞くと「裁判体(裁判官および裁判員)の指示である」との返答で、鈴木教授は「靴下の柄だし、座れば裁判官からは見えない」と伝えましたが、認められず、納得はいかなかったものの、靴下を曲げてレインボー柄が見えないようにして傍聴しました。
 原告の弁護団によると、これまでの口頭弁論などでレインボーカラーが禁止されることはありませんでした。しかし、この日の判決言い渡しでは、当日朝に書記官から九州弁護団の事務局長に「裁判体の指示で、レインボーのバッジ等や『marriage freedom(結婚の自由)』などと書かれたTシャツは法廷内では着用しないように」という連絡がありました。これまでにない対応に弁護団も驚いたそうです。
 ハフポスト日本版が福岡地裁に理由を尋ねたところ、「法廷という場であることから、はちまき、ゼッケン、たすき、腕章を着用した場合、入廷を禁止される場合があります」「本日の同性婚訴訟に向けて、裁判長の指示により、上記に類するレインボーカラーの装飾品のうち、裁判体および当事者から(目視で)認識できるようなものを、着用しての入廷は許されておりませんでした」との回答でした。
 鈴木教授は、フラッグの持ち込み禁止は理解できるとしたうえで、靴下の柄で傍聴を認められないのは「過剰な制限」ではないかとしています。「はちまき、ゼッケンは文字が書いてあるので規制の対象になるのだと想像します。一方、レインボーは文字ではなく、デザイン、柄です」「これは今後もそうなるのか、全国の他の裁判所はどうなのか、明確に説明すべきです。裁判傍聴に不要な萎縮効果が生じます」と語っていました。
 
 こうした経緯で鈴木教授は、今年4月に袴田事件の再審公判・第14回公判の傍聴のため静岡地裁の法廷に入ろうとした際、裁判所職員から「サポーターズ・クラブのバッジを着けた状態やパーカーに『HAKAMADA』の文字が見える状態では入廷できない」と言われた「袴田サポーターズ・クラブ」代表の清水一人さんと、同じく第14回公判でサポーターズ・クラブのバッジを外すよう命じられた袴田事件の主任弁護人・弁護団事務局長の小川英世弁護士と一緒に、訴えを起こしました。
 この訴訟では、原告の方々が福岡地裁・静岡地裁の各裁判長らの行為によって精神的苦痛を受けたとして、一人につき110万円、合計330万円の慰謝料を国に対し請求しています。請求の法的根拠は、裁判長らの行為は「法廷警察権」の要件を満たさないために違法である、という点です。裁判長は、法廷の秩序を維持するために、職員や警察官などを通じて強制力を行使する権利を持ちますが、その対象は「法廷における裁判所の職務の執行を妨げた者」か「不当な行状をする者」に限られています(裁判所法71条2項)※。原告の方々は裁判所の職務執行を妨げようとする行為を何らしておらず、また、靴下やパーカーを着用したりバッジを身に着けることは日常的に行なわれており、「不当な行状」にはあたりません。したがって裁判長らによる法廷警察権の行使は要件を満たさず、違法であった、との主張です。
 
※裁判所法71条2項(法廷警察権) 
法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。
②裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。

 提訴後に開かれた記者会見で、加藤雄太郎弁護士は、「本件では『傍聴の自由』と『弁護権』が、法廷警察権の拡大行使によって侵害された」と指摘し、「これらの権利をないがしろにする行為は、個別の裁判のみならず、刑事司法のあり方をゆがめかねない。憲法82条は『裁判の公開』を定めている。はたして日本の司法は、市民が安心して足を運び、弁護士も萎縮せず弁護活動ができる環境になっているのだろうか。日本の司法制度のあり方を、広く問いたい」と語りました。
 今回の主任弁護士である亀石倫子弁護士は、3つの異なる事案を同時に取り上げることにより、法廷警察権の行使にあたっての「基準」を問う点に意義があると説明しました。「例えば、同性婚訴訟では、レインボーの衣服やアクセサリーを身に着けてくる人が多い。それらを隠すように指示するかどうかは、裁判官によって判断が異なっている。今回の訴訟を通じて、ある程度の基準を示してほしい」
 鈴木教授は、「私が傍聴した裁判は判決文を読み上げるもので、レインボー柄の靴下のままで入廷することが法廷の秩序を乱すとは到底思えない。裁判長が不必要な規制をして法廷警察権の行使が恣意的に行なわれている」と述べました。後日、東京地裁で同性婚訴訟を傍聴した際、あえて福岡地裁判決の際と同じ柄の靴下を履いて行ったものの特に裁判所から命令・指示はなく、一方で鈴木教授の同行者は着けていたレインボー柄のピアスを外すように指示されたといいます。「つまり、法廷警察権は『恣意的』に行使されている。裁判が公開される人と公開されない人とが、選択的にふるい分けられている。裁判の公開の原則に反しており、傍聴する権利に対して著しい萎縮効果をもたらす運用だ。そもそも、特定の柄を身に着けてはならないというのなら、裁判所のホームページなどに、基準と理由を公開すべきだ。衣服は裁判所に行く前に自宅内で選んで着るのだから、裁判所に到着してから『特定の柄の着用は禁止』と指示されても困る」「そもそもレインボー柄の着用を禁止すべきではないことが大前提だが、それでも禁止するというのなら、“せめて”理由と基準を明らかにすべきではないか」
 原告の清水さんは、「再審で無罪判決が出たのはよかったが、こういった法廷警察権行使の違法性や、裁判を傍聴する権利を狭めてきたことはやっぱり問題にしていかなくちゃいけない。それで提訴することにした」と語りました。
 
 鈴木教授は名刺にもレインボーカラーをデザインしています。「(レインボーは)重要なアイデンティティの一部であり、その柄の靴下を履いたら裁判を傍聴できないというのは、民主主義国家・日本にふさわしくない」「司法の信頼性は、法廷警察権の行使によってではなく、判決の正確さによって担保すべきだ。ロシア中国など、性的マイノリティを弾圧している国では、レインボーカラーも排斥されている。日本が、これらの国と同じであっていいのか」
(ロシアや中国だけでなく、カタールマレーシアなどもそうですよね。レインボーカラーの規制は、同性愛差別や抑圧と見なされます)
 

 なお、鈴木教授が履いていたのは、ファミリーマートが2022年、TRPの開催に合わせてリリースしたレインボーソックス(以前から販売されていたラインソックスの新しいデザイン)で、全国のファミリーマートで販売され、プライドイベントのときだけでなく普段使いしている方も多い(それこそ、レインボーカラーの意味を知らずに買って履いている方もいるであろう)商品です。これが「法廷における裁判所の職務の執行の妨げ」や「不当な行状」に当たるとして規制されるなんて、いったい誰が想像したでしょうか…。
 このニュースが海外に伝わると、日本もロシアや中国のような抑圧的な国だと見なされてしまいますよね…(せっかく他の分野で多くの方たちが社会をフレンドリーに変えてきたのに、司法がそれを台無しに…)
 裁判所は過剰な(恣意的な)規制をやめていただきたいと、当事者だけでなく多くのアライの方たちも思うことでしょう。公正な裁判が行なわれることを期待します。
 
 

参考記事:
法廷でレインボーの靴下が「禁止」される。はちまき、ゼッケンと一緒?(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/rainbow-socks-ban-in-court_jp_64829ad6e4b048eb910e301e

袴田さん名前入りバッジ排除 「裁判長命令は違法」と提訴―東京地裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024111300837
虹色の靴下、袴田さん支援バッジで入廷認めず 裁判所の対応を提訴(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASSCF2QN2SCFUTIL016M.html
「レインボー靴下」はNG? 裁判所から隠すよう要請、傍聴人ら提訴(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241113/k00/00m/040/184000c
「レインボー柄の靴下」「袴田巌さん支援バッジ」の着用が“禁止”… 「法廷警察権」の違法行使を問う国賠訴訟が開始(弁護士JPニュース)
https://www.ben54.jp/news/1675
袴田さん支援のバッジ、レインボー柄靴下で裁判傍聴できず…「法廷警察権の違法な行使」国を提訴 東京地裁(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_1009/n_18138/

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