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差別冊子の内容についてキリスト教団体からも抗議の声、続々

 神道政治連盟国会議員懇談会で「同性愛は精神障害で依存症」「回復治療の効果が期待できる」「LGBTの自殺は本人のせい」など非科学的で差別的な主張が並べられた冊子(キリスト教系の楊尚眞(ヤン・サンジン)弘前学院大学教授の講演録)が配布された問題について、キリスト教団体から続々と抗議の声が上がっています。
 
 
 マイノリティ宣教センターは7月7日、楊尚眞氏の講演録に対する意見表明と祈りの言葉を発表しました。
 マイノリティ宣教センターは「日本においてマイノリティに対する差別と憎悪が蔓延する現状をのりこえていくために、国内・海外の諸教会との連携を深め、キリスト者として和解と共生のための実践を共に重ねていく必要性」から2017年に設立されたセンターです。
 同センターは、問題となっている冊子で性的マイノリティを「後天的に生じたもの」「環境によって影響を受ける」などと説明した楊氏の主張が、1950年代、60年代の“研究”に基づいたものだと指摘し、「ここに表されていることとキリスト教信仰理解を同一視し、キリスト教はセクシュアルマイノリティを断罪している宗教であると感じた人びと」「セクシュアルマイノリティが置かれている生きづらい社会環境、差別意識の変革ではなく、マイノリティ側に問題があるとする言説に深く傷つけられた人びと」がいるとして、委員会として意見交換を行ない、「差別を内包するキリスト教信仰理解、表現、解釈、信仰実践を課題としていく覚悟をした」と表明しています。あの悪意すら感じられる差別的な冊子の件で傷ついた人々の心を癒してくれるような、キリスト者でなくても胸に響くような、心に沁みる言葉です。
(全文がこちらに掲載されています)
 
 全国キリスト教学校人権教育研究協議会運営委員会は15日、抗議声明とともに、神道政治連盟の代表者、同懇談会の会員、楊氏、弘前学院大学の藁科勝之学長に宛てた要望書を発表しました。
 声明では、楊氏が同性愛を「回復治療や宗教的信仰」などによって「抜け出すことが可能」な「精神の障害、または依存症」と述べていることについて、「楊尚眞氏が人間よりも、既存の制度や規範を優先しているからだ」と批判。楊氏が「性の多様性、人権や個性の尊重といった聞こえのいい言葉」を主張する人々の「目論見」が「伝統的家族制度の解体、キリスト教等の反同性愛宗教、性規範の解体」であり「アナーキー社会の実現」だなどと述べていることに対し、「私たちは……『伝統的家族制度』や『反同性愛』の立場をとるキリスト者の『性規範』が、性的マイノリティの尊厳を徹底的に踏みにじってきたがゆえに、そうした既存の制度や性規範を作り変えながら、『誰一人取り残さない共生社会』を目指していこうとしている」「人間よりも制度や規範を優先するのは、キリスト教精神に反する」と批判しました。
 そのうえで、「性的指向や性自認等においてマイノリティであるがゆえに偏見や差別にさらされ、さまざまな困難を押し付けられている人々の声を、どんな高名な学者や研究者の講演より優先して聞いてください。なぜなら、それらの人々の声こそが、私たちの社会が進むべき方向を示してくれるからです」と要請しています。
(要望書の全文はこちら
 
 日本キリスト教協議会(NCC)教育部理事会も19日、問題とされる講演録の当人である楊尚眞教授(キリスト教教育学、牧会学)と、所属する弘前学院大学の藁科勝之学長宛に「要望書」を送付しました。
 要望書では、楊氏の著書『同性愛と同性婚の真相─医学・社会科学的な根拠─』(22世紀アート、2021年7月刊)も踏まえたうえで、「同性愛は後天的な影響による性依存症」は誤謬であり、「性的少数者は倫理・道徳の問題があり、公共の福祉に反するという」見解を改めてほしい、性的少数者は全世代にわたって存在し、すぐ隣にいる。苦悩しつつ生きざるを得ない人々の声に耳を傾け、自らの偏見に気づき、寄り添って生きてほしいと述べられています。また、アフリカ諸国での同性愛厳罰(死刑)規定にも触れ、その背景には、植民地時代、欧米の宣教師が聖書の記述を根拠に同性愛を断罪した歴史があり、キリスト教の負うべき責任は大きいとしています。さらに、「私たちにいのちを与え生かす神が、たいせつな存在である人間を断罪し、死を望まれるだろうか」と述べ、同大の学生や職員の中にも当事者はおり、その人たちを断罪することができるだろうかと迫ります。最後に、楊氏のトランスジェンダーへの見識が不十分であることも指摘し、想像を超える多様な性的少数者が存在している事実を知ってほしいと強く訴えかけています。
(要望書の全文はこちら

 日本バプテスト連盟性差別問題特別委員会も26日、この件に関する意思表明を発表しました。楊氏の講演内容に対し、「持論を正当化しながら性的マイノリティの存在を否定し、社会で構造化されてきた性的マイノリティへの偏見と差別の事実をまるでなかったかのように歪曲して伝えるもの」であるとして、深い憤りを表明。「ひとりひとりの性のありようは、人格や生き方と深く結びついた多様なものです。それは侵害されてはならない人間の尊厳です。だからこそ性自認や性指向とは、決して奪うことのできない個々人の生きる権利なのです」と訴えました。
(全文はこちら


 楊尚眞氏がキリスト教について教える大学教授だからといって、キリスト教会全体がアンチ同性愛であるということにはなりません。
 日刊キリスト新聞の記事によると、以前米国に在留していた楊氏の神学的立場は原理主義※であり、これまにもLGBTQをめぐる差別的な言動で糾弾されてきました。たくさんあるキリスト教の宗派が、みな楊尚眞氏と同様だというわけではありません。
 こうして日本でも、マイノリティに寄り添う様々なキリスト教団体が声を上げ、LGBTQ差別言説を批判し、その流布をやめさせようと動いていることは、心強く、信頼に値するものだと言えます。
  
※キリスト教原理主義:聖書に書かれた記述を硬直的に現代に当てはめようとする思想。米国で共和党と結びついて同性婚実現を妨害したり、トランスジェンダーをバッシングしたり、「ゲイと言ってはいけない」法案を作ったりというアンチLGBTQの政策に影響を与えている福音派がその代表で、アンチLGBTQの宗教右派と見なされています。

 

参考記事:
神道政治連盟 弘前学院大学宗教主任によるLGBT断罪の講演録を配布 大学側は「関知しない」(日刊キリスト新聞)
https://christianpress.jp/55004/
神道政治連盟配布の冊子受け マイノリティ宣教センターが意見表明(日刊キリスト新聞)
https://christianpress.jp/55088/
LGBT冊子、NCC教育部と全国キリスト教学校人権教育研究協議会が要望書や抗議声明(クリスチャントゥデイ)
https://www.christiantoday.co.jp/articles/31233/20220727/lgbt-ncc-division-of-education-zen-kiri.htm
神道政治連盟議員懇でのLGBT「差別」 楊尚眞氏らへの抗議・要望相次ぐ(日刊キリスト新聞)
https://christianpress.jp/55405/
NCC教育部 LGBT差別冊子問題で楊尚眞氏に「要望書」送付(日刊キリスト新聞)
https://christianpress.jp/ncc-0726/

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