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幼児教育の場でのジェンダーニュートラルな取組み:保育園の個人マークや絵本など


 保育園や幼稚園では、自分の持ち物を置く場所などを示す「個人マーク」が使われていて、男の子だったらライオン・消防車・カブトムシなどのマーク、女の子だったらウサギ・リボン・チョウなどのマーク(商品化されたシール)を割り振られることが多かったのですが、性的マイノリティの保育士さんがこの男女分けを変えるジェンダーニュートラルな取組みを進めているそうです。
 
 名古屋市の「アイン楽園町保育園」では、食べ物ならクリームソーダ、ソフトクリーム、ドーナツ、お花見団子、動物ならラッコ、クマノミ、イルカ、タコなど、特に男の子っぽい、女の子っぽいという印象を与えない個人マークが使われています。無意識のうちに決めつけている「男の子/女の子のイメージ」を取り払い、ジェンダーニュートラルなイラストを使ったマークにしています。
 これを提案したのは、同園の保育士であり、「にじいろ保育の会」代表の天野諭さん。保育士をしながら、立命館大学の大学院に在籍し、子どもの研究もしています。自身が性的マイノリティでもあることから、「保育の現場をもっとジェンダーニュートラルな環境にしたい」と考え、その第一歩として個人マークの見直しを園長に提案し、採用されたそうです。
「小学校・中学校・高校では、制服が自由に選べるなど、ジェンダーのことはLGBTQの問題と絡めながら、かなり議論が進んできていると思います。しかし保育園ではその議論がなかなか進まないところがあります。そこにいくまでの一段階目として、あえてニュートラルにすることで、大人たちが『ジェンダーの話をもう少ししよう』というふうになればいいかなと思っています」と天野さんは語ります。
「LGBTQの子どもたちを、何とかしたいとか、守りたいということではありません。いわゆる『普通に育っていく』ことが、男の子、女の子にとっても重要な問題。もちろん男の子らしい男の子、女の子らしい女の子、そういうふうに育てたいという親御さんの子育て観は、否定するべきところではないと思います。ただ保育園という公共の場では『あなた女の子だからこうでしょ、男の子がだからこうでしょ』みたいな決めつけがないような状態を目指したいと思っています」
 天野さんは、ジェンダーニュートラルなイラストを増やす活動にも取り組んでいます。2月にクラウドファンディングで、ジェンダーニュートラルな個人マークシールの商品化プロジェクトをスタートしたところ、目標金額をわずか3日で達成し、今も支援の輪が広がっています。
「本当であれば、女の子がライオンを選んでもいいし、男の子がリボンやケーキのマークを選んでもいい。自分のやりたいことができる、自分の個性を自由に発揮できる環境を作るという意味で、ある程度ジェンダーをニュートラルにしていく、なだらかにしていくことが、大事なことではないかと思っています」



 もう一つ、こちらも名古屋なのですが、名古屋市立大学が製作した絵本「あおいくんのかみかざり」をご紹介します。
 主人公は小学1年生で、同級生の男の子が花の髪飾りをつけているのを見て「へんだよ」と言ってしまうのですが、男の子は傷ついて泣いてしまい…その気持ちを考える過程で、出生時に割り当てられたジェンダーと自認するジェンダーが異なる子(トランスジェンダー)もいるということに気付くという内容です。
 名古屋市が2018年に実施した性的マイノリティに関する市民意識調査で、男性の約3/4が「男の子は男らしく、女の子は女らしく育てるべきだ」に賛成し、70歳以上の男性の6割近くが「女性のような男性を見ると不快になる」に賛成しているというデータもありますが(詳細はこちら)、名古屋市立大学経済学部の鵜飼宏成教授のゼミ生は、性の多様性についての人々の理解はまだまだ進んでいないとして、性別にとらわれず「誰もがありのままで生きられる社会にしたい」(4年生の可児七葉さん)との思いから、地元の出版社・三恵社に企画を持ち込み、出版が実現しました。
 学生さんたちが執筆し、絵も描いたそうです。性的マイノリティについての啓発を行なう支援団体に助言を求め、言葉の使い方や男の子の服装などが現実と乖離しないよう気をつけたといいます。
 完成後、市内の保育園や幼稚園で絵本の読み聞かせもしたそうです。名古屋市のひまわり幼稚園の斉藤公彦副園長は、「保育現場の外から性の多様性を教えるアイデアをもらえた。幼児期は多様性を受け入れやすい。絵本を読んでおくことで、将来そのような場面に遭遇したときに理解しやすくなる」と語ったそうです。
 
 性的マイノリティへの理解を促すような絵本は数多く出版されていますが、大学がこうした絵本を製作するケースはたいへん珍しいです(おそらく初めてではないでしょうか)。これまでは海外の作品を翻訳出版したものが多かったのですが、今後は国内のいろんな方たちがこうした絵本をつくっていくのではないでしょうか。全国の保育園や幼稚園、児童館、図書館に、多様な性を描いた素敵な絵本があふれる時代が来るといいですね。
 
 

参考記事:
教育の場での「ジェンダーニュートラル」 男女のイメージは必要? 変化する保育園の個人マーク(CBCテレビ)
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ac01106b622236b3aee60bc3515433e837486a5
乳幼児のジェンダーに切り込んだ保育用品開発プロジェクト、CAMPFIREで目標達成(workmaster)
https://www.work-master.net/2022246482
性の多様性 学べる絵本(名古屋市立大)(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58887560Y2A300C2TCN000/

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