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「同性カップルは利用不可」としたキャンプ場が批判を受けて謝罪しました

 奈良県曽爾村にあるキャンプ場が先日、「同性カップルは利用不可」と発表して非難を浴びました。経営者は謝罪したうえ新たなルールを発表しましたが、同性パートナーシップ証明書の提出を求める内容だったことから再び批判の声が上がりました…。 
 
 
 問題となったのは、奈良県桜井市の山口裕康商店が運営する「小太郎岩キャンプ場」です。同キャンプ場は3月10日、公式インスタグラムの投稿で、利用できる人についてのルールを発表しました。これによると、ソロ(お一人様)、カップルもしくは夫婦、親子を含む家族のみが利用可能で、カップルや夫婦については「友人同士と区別がつきませんので異性ペアのみの受入れとなります」と書かれていました。(同キャンプ場のインスタグラムを遡ると、大声で騒ぐなどマナーやルールを守らないケースがたくさんあったため、2月末にグループでの利用を禁止するとの発表がありました。「友人同士」と言っているのは、グループのことを指しているようです)
 世の中には同性カップルもいるということを認識しながら、わざわざ「異性ペアのみ」と限定し、公然と同性カップルを排除したことに対し、SNSでは「同性カップルを拒否する姿勢が非常に差別的」「同性パートナーと一緒にキャンプを楽しみにしていたので残念です」といった批判の声が上がりました(大前提として、利用者を家族と異性カップル、お一人様のみに限定することにも問題があるのではないでしょうか。マナーやルールを守るかどうかは利用者の関係性や属性とは関係ないはずです)
 これを受けて12日、同キャンプ場は「LGBTQの方々への配慮が足らずに不快な思いをされた方々に対して深くお詫び申し上げます」と謝罪したうえ、「頂戴したご意見の中で、パートナーシップ宣誓について証明書やカードを発行して頂ける制度があるという事を知りました。これを予約時にスタッフが確認させて頂く事で同性のパートナーであっても、問題なく当キャンプ場をご利用頂けるように変更させて頂きます」との新しいルールを発表しました。
 一見すると誠実な対応に見えるかもしれませんが、SNSでは「なぜ同性のカップルのみが『証明書』の提出を求められるのか」「男女の友人がカップル偽装してるのはいいの?」といった批判が相次ぎました。同性パートナーシップ証明制度はすべての自治体が導入しているわけではなく、奈良県では全39市町村の中で奈良市、大和郡山市、天理市、生駒市の4市でしか証明書を発行してもらえないということも知らなかったようです。
 そして14日、同キャンプ場はインスタグラムで「この度、頂戴したご意見をもとにルールの改正とお詫びをお伝えしておりましたが、その点においても不備がありました事を重ねてお詫び申し上げます」と再び謝罪しました。
「LGBTQに関して、弊社が充分な知識を持ち合わせていない事が原因であり、また週末の出来事であった事もあり、各機関に助言を求める事が出来ない状況でした」と説明し、今後について「弁護士とも協議の上、関係各所から適切な助言を賜りながら、最善のルール作りに取り組んで参る所存でございます。ただ、それには幾分時間を要する事をご理解下さい」としています。新たなルールが定まり次第、インスタグラムで公表する予定だそうです。
 
 J-CASTニュース編集部は15日、なぜ人数ではなく関係性による制限を設けたのか、批判をどう受け止めているか、などについて、運営する山口裕康商店に取材を申し入れました。同社の山口忠弘代表取締役は、「弊社のLGBTQに関する知識の無さから、たくさんの方々に対して配慮が欠けていたと反省しております」「弁護士とも相談の上、皆さまに対して平等となるルールを協議しておりますので、決定しましたら当キャンプ場Instagramアカウントより発信させて頂きたいと考えております。ルール改正が済んだ際には、後程お問い合わせ頂いております内容についても、併せてInstagramにて発信させて頂く予定にしております」と語ったそうです。
 
 ちなみにホテルや旅館などの宿泊施設が同性カップルの宿泊を拒否するのは旅館業法違反であり、そのようなことが起こらないよう、厚労省が2018年に全国の自治体に通達を発しています(詳細はこちら)。このキャンプ場はコテージやバンガローに泊まるのではなく、お客様自身がテントを持ってきて設営し、そこで寝泊まりするタイプですので、旅館業法は適用されません。しかし、基本的にあらゆる店舗は、人種や国籍、性別、性的指向、性自認、身体的特徴などを理由に入店を断ることは認められず、もし入店を拒否すれば、不当な差別であり人権侵害であると見なされます(入店を断ることに正当性が唯一認められるのは、営業妨害や、他の客に迷惑をかける場合だけです。ドレスコードの設定などで「お客を選ぶ」お店もありますが、それでも人種や国籍、性別、性的指向、性自認、身体的特徴などを限定する理由にはなりえません)。今回の問題も、もし奈良県の人権施策課に訴えれば、行政指導が入ることでしょう。実際に利用を断られた方が裁判を起こせば、きっと訴えが認められるはずです。
 
 このキャンプ場の方は特別に差別主義者だったというわけではなく(すぐに謝罪するという真摯な対応。差別発言をしておきながら未だに謝罪も撤回もしていない政治家よりはよほど誠実です)、謝罪のコメントにもあるように、今回の件はLGBTQへの無理解が招いた失敗だったと言えそうです。これを機に経営陣や従業員の方々がLGBTQについて理解を深め、偏見や差別のない公正な運営が実現することを期待します。
(そのためには、弁護士などではなく、LGBTQの専門家に相談するべきではないでしょうか…。たとえこの後「法的に」問題ないようなルールを提示できたとしても、今回の件の何が問題だったのかという本質的なところを経営陣が理解しなければ、また新たな問題が起こる可能性があります。例えば尼崎市職員のように、実際に同性カップルが利用したときに他のファミリーから「不快だ」との苦情が出た場合、同性カップルのほうが問題視されるということになりかねないのでは…と危惧します)
 
 こうした事例は、地域を問わず、おそらく今までもあったでしょうし、今後も出てくるのではないでしょうか。
 この4月からは、中小企業も含めてあらゆる企業にパワハラ防止法が適用され、SOGIハラやアウティングを防ぐための施策を講じることが求められます(措置義務となります)。どういうことがLGBTQ差別に当たるのかということを「知らなかった」では済まされない時代になります。
 中小企業の経営陣の方が早くそれに気づき、LGBTQ研修を受けるなどの対応をしていただけることを願います。

 
参考記事:
「同性カップルは利用不可」ルールに批判 キャンプ場が謝罪...「たくさんの方々に配慮欠けていた」(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2022/03/15433135.html

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