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【北京五輪】アダム・リッポンとガス・ケンワージーが人権問題をめぐって中国を批判

 平昌五輪で米国代表として冬季五輪に出場する初めてのオープンリー・ゲイの選手となった(冬季五輪自体としてもゲイの選手の参加は初でした)フィギュアスケートのアダム・リッポン(今回はマライア・ベル選手のコーチとして参加)と、フリースタイルスキーのガス・ケンワージー選手(もともと英国出身で、今回は英国選手として出場)が、人権問題をめぐって中国での五輪開催を批判したことが報じられました。

 
 五輪が他のスポーツイベントと異なる点は、「平和の祭典」や「差別禁止」といった理念の追求にあると言われています。しかし、中国政府によるチベット人やウイグル人に対する人権侵害が国際社会で問題視されており、同地を開催国に決めた国際オリンピック委員会(IOC)も人権団体などから批判を受けてきました。米国やEU、インドなどは政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を決めています(後述のように、LGBTQに対する抑圧も強まっています)
 五輪史の専門家である中京大学の來田享子教授(東京五輪に向けてLGBTQの権利擁護にも尽力してきた方です)は、「人権問題だからこそ物を言うのが、本来IOCがとるべき態度ではないか」「"政治的中立"を理由に何も言わなければ、オリンピックムーブメントが謳う普遍的な価値は誰が守るのか」と述べています(ハフィントンポスト「人権問題に「政治的中立」は通用するのか。IOCの矛盾と“後追い”の歴史【北京オリンピック】」より)
 開催国や参加国で起きた人権問題に対して、IOCも過去に具体的なアクションを起こしています。例えば、2014年のソチ五輪の際は、開催地ロシアの同性愛プロパガンダ禁止法(同性愛について公に語ることを禁止する法)に批判が高まり、欧米各国の首脳が開会式の出席をボイコットしたり、LGBTQコミュニティによる抗議運動も活発に行なわれましたが、そうした批判を受けてIOCは、大会終了後、五輪憲章を改正し、差別禁止を掲げる根本原則に「性的指向」という具体的な文言を盛り込みました。そして、このソチ五輪での教訓から、IOCが開催都市と結ぶ開催都市契約などにも人権に関する項目が記されるようになりました。北京五輪の開催都市契約にも差別禁止条項が加えられています。
 來田教授は「人権に対する懸念がある場所で大会を開くことは理念と矛盾します。懸念がないことを示すよう、スポーツ関係者はIOCに求める必要があります」と述べています。
 
 フィギュアスケート男子の元全米王者であり、平昌五輪では団体戦で米国の銅メダルに貢献したアダム・リッポンはロイターの電話取材に対し、「五輪開催都市を決定する際、IOCはもっと規制をすべきです。彼らは多くの人を巻き込んでいるのだから」と語り、IOCが中国を開催国に決定したことを「不品行に褒美を与えたようなものだと私は思ってしまいます。常に、開催国がより良くなるために(五輪が)役立つことを望むのに、中国での人権侵害を考えると、なぜ大会開催が許されたのか疑問です」と続けました。「全てのアスリートが人権を懸念しており、起きていることが正しくないと考えています」「アスリートが安全に行くことが可能で、危険にさらされない国での五輪開催を保証することが、IOCの責任だと思います」
 また、CNNに対しては、「北京冬季五輪開催に際して望むのは、人権問題に注目が集まることで中国政府としても動かざるをえなくなることです」と語りました。

 ソチ五輪で銀メダルを獲得しているガス・ケンワージー選手はBBCに対し、「私見ですが、人権状況がひどい国に五輪開催を認めるべきではないと思います」と語りました。「中国にとって五輪は非常に重要で、メダル獲得数で常に上位に入っていることは承知しています。だからこそ、目に見える形で反対の姿勢を示すことで、少しは良い変化をもたらせるのではないでしょうか」
(ちなみに五輪公式サイトにはガス・ケンワージー選手の「自分自身のままでいい」というインタビュー動画が掲載されていて、そのなかで「もっとOUTアスリートが活躍できるといい。今はカミングアウトできない選手がたくさんいる。LGBTQにとって安全な環境が必要だ」と語っています)
 

 ちなみに中国のLGBTQに対するスタンスは、決してフレンドリーとは言えないものがあります。
 香港を除き、中国本土ではプライドパレードは開催されておらず、唯一のプライドイベントであった上海プライドフェスティバルも2020年に突然、無期限休止となりました(当局の圧力ではないかと見られています)。過去にLGBTQの映画祭なども開催されたことがありましたが、当局の弾圧で中止を余儀なくされています。
 昨年7月、LGBTQ団体のSNSアカウントが相次いで凍結され、当局の検閲が疑われています。昨年9月には、当局が「耽美(BL)、娘炮(女々しい男)などの不良文化を断固排斥する」と表明し、BLドラマの放送や、"女々しい"男性のアイドルの「推し」行為、BLのオンラインゲームを禁止しています(詳細はこちらこちらをご覧ください)
 そしてこの北京五輪の直前には、中国のiPhoneのApp Storeやアンドロイド向けのアプリストアからGrindr(米国発の、世界中で広く使われているゲイアプリ)が密かに削除されるという出来事がありました。この削除は、中国政府がポルノやギャンブルなどの「不健全な行為」を含む違法コンテンツの取り締まりを強化すると発表した数日後に行なわれました。
 『South China Morning Post』は、中国のLGBTQコミュニティへの締め付けについて、このように記しています。「中国で同性愛は非犯罪化されているが、まだ当局は同性愛に敵対し、異常だと見なしている、当局は人民の行動に伝統的な性規範の適用を強めている」「Grindrの撤去は、不適切だと当局が見なすものの禁止に結び付けられているが、その中に同性愛も含まれているということだ」
 Outsportsは、昨年6月にカミングアウトしたものの、SNSでの誹謗中傷にさらされ、投稿の消去を余儀なくされた李影選手について、「スター選手である彼女が東京五輪に選ばれなかったのは偶然ではない」としています。
 こうした中国のLGBTQに対する様々な締め付けや規制は、五輪憲章に謳われている「性的指向による差別」には当たらないのでしょうか…。ソチ五輪の時のロシア(公にLGBTQについて表明したり、学校で教えたりすることを禁じる法律の施行)ほどではないかもしれませんが、疑問に感じている方は少なくないはず。IOCはこの点についても、特に何も発言していないようです。

 
参考記事:
人権問題に「政治的中立」は通用するのか。IOCの矛盾と“後追い”の歴史【北京オリンピック】(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61e678fae4b0a864b0771a01
英米メダリスト、中国での五輪開催批判 人権問題めぐり(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3388497
五輪=フィギュア元全米王者がIOC批判、中国開催「不品行に褒美」(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/beijing-ioc-idJPKBN2KA00X
Gus Kenworthy and Adam Rippon speak out against China(Outsports)
https://www.outsports.com/2022/2/4/22918052/gus-kenworthy-adam-rippon-china-winter-olympics-beijing-gay
中国で「ゲイ向けアプリ」が削除、五輪前の規制強化との見方(Forbes)
https://forbesjapan.com/articles/detail/45622

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