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【カタールW杯】カタール当局がLGBTQに暴行を加えていると人権団体が報告

 11月21日からサッカーW杯が行われるカタールについて国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が10月24日、現地の警察がLGBTQ(性的マイノリティ)の人々を拘束し、暴行を加えているとする報告書を発表しました。かねてより同国の人権問題には非常に厳しい目が注がれていましたが、さらに波紋を呼びそうです。
 

 カタールでは同性間の性行為が違法であるだけでなく終身刑が課される可能性があり(難民研究フォーラム「LGBTへの迫害状況一覧」より)、イスラム法の下では死刑になる可能性もあります(ただしまだ適用されたことはないようです)。そのようなカタールでLGBTQの観客が安全に過ごせる保証がないのではないか、大会中にレインボーフラッグを掲げただけで罰せられるのでないかといった懸念の声が上がっていました。
 今年5月には、FIFAが推奨するホテル69軒のうち3軒が同性カップルを宿泊拒否するホテルであることが報じられ、問題視されています。カタールのW杯には国外から100万人超の観客が訪れるとみられていて、その中にどれくらいLGBTQの方がいるのか定かではありませんが(少なくとも1万人に上るのでは?)、彼らが果たして安全に滞在できるのか、もしホテルを追い出されたらどうなるのか…不安が尽きません。
 そんななか、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「2019年から2022年にかけて、警察に拘束されて繰り返し激しく殴打されるケースが6件、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けるケースが5件記録されている」と発表しました。直近では今年9月に起こっています。トランスジェンダー女性4人、バイセクシュアル女性1人、ゲイ男性1人が、カタール内務省の予防保安局の職員によってドーハの地下施設に捕らわれ、「職員が拘束した人々に口頭で嫌がらせを行ない、叩く、蹴る、血が出るまで殴るなどの物理的な暴行をはたらいた」とされています。PinkNewsによると、トランス女性は髪の毛を剃られたそうです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは「カタール政府は、LGBTQへの暴行に対する見て見ぬ振りをやめる必要がある。世界が見ている」「カタールに滞在するすべての人々のSOGIに基づく表現の自由と差別解消が保証されるべきだ。大会期間中だけでなく、今後もずっと」と声明で述べています。
 
 LGBTQだけでなく、移民労働者に対する扱いもひどく、国連との協議資格を持つNGO「アムネスティ」のレポートによると、W杯のためのスタジアム建設やインフラ整備のために働いている移民労働者は休日なしで何年も労働させられ、休みを取れば恣意的な賃金削減で罰せられるそうで、英『ガーディアン』紙の記事によると、インドやパキスタンからの移民労働者6500人がW杯招致以降カタールで死亡しているといいます。
 こうした人権蹂躙の問題に対して、欧州では様々な動きが起こっています。
 イングランドサッカー協会(FA)は9月21日、同国代表のハリー・ケインをはじめとした欧州各国の主将が、W杯カタール大会で「OneLove」というロゴが入ったキャプテンマークを巻くことを発表しました。オランダがLGBTQの包括性の促進を目的として始めた「OneLove」キャンペーンにはイングランド、フランス、ドイツなど欧州の10ヵ国が賛同し、今季終了まで継続するそうです。カタール大会では、8ヵ国のキャプテンが、レインボーカラーのハートが描かれた腕章を巻くことになっています。「OneLove」キャンペーンに賛同しているドイツ代表主将のマヌエル・ノイアーは「サッカーは、世界中で差別や排除を感じている全ての人たちに対して、寄り添う存在でなくてはならない。各国の主将とともにこのメッセージを伝えられることを誇らしく思う」と述べています。
 また、W杯デンマーク代表のユニフォームサプライヤーでもあるスポーツブランド『ヒュンメル』は9月、カタールに抗議する声明を発表し、ごくシンプルなデンマーク代表のユニフォームのデザインについて「何千人もの人々の命を奪ったトーナメント中に我々は目立ちたくありません」「我々は、デンマーク代表チームを全面的にサポートしていますが、それはホスト国としてのカタールをサポートすることと同じではありません」と述べました。
 それから10月5日、フランスのリヨン市が今大会のW杯で街中に巨大スクリーンを設置しないことを宣言しました。リヨン市のグレゴリー・ドゥセ市長は、「リヨン市は、カタールでのW杯を宣伝しないし、試合も放送しない。それは、独裁政権に仕えるために権利が軽視されてきた人間的・生態学的放棄だ。我々は耐え難い罪悪感に満ちた状況の囚人だ。なぜならW杯であるはずのこの祝賀会に参加したいからだ。私は主催者だけでなく、これが起きるのを許した人々も非難する」と述べました。『RMCスポーツ』によると、フランスではサンテティエンヌ、パリ、マルセイユ、ボルドー、リール、ストラスブールなど数多くの都市から放送ボイコット宣言が出ています。
 

 カタールでのW杯開催が決定したのは2010年のことですが(選定の経緯はこちら)、2014年のソチ五輪で、ロシアが制定した同性愛プロパガンダ禁止法(反同性愛法)に対して非難の声が上がり、欧米各国の首脳が開会式をボイコットする事態になり、IOCが五輪憲章に「性的指向による差別の禁止」を盛り込むようになったという流れを受けて、五輪と並ぶメガイベントであるサッカーW杯や他の国際大会も、LGBTQ差別禁止のスタンスを明確にするようになってきました。FIFAは人種や民族、ジェンダー、性的指向などによる差別の禁止を明文化しており、2019年には懲罰規定も厳格化しています(詳細はこちら)。昨年には、サッカーメキシコ代表が同性愛者を差別するチャントを行なっていたとして処分を下しています(詳細はこちら
 今回の大会をきっかけに、カタールでLGBTQが理不尽な暴行を受けることがなくなり、同性間の性行為が非犯罪化され、人権が守られる国へと変わっていくことを期待します。
 
 
  
参考記事:
W杯開催のカタール、性的少数者を連行し暴行か 人権団体が報告(時事通信=AFP)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20221024043657a
サッカー=カタールW杯、一部ホテルが同性愛カップル宿泊拒否か(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/sport-idJPKCN2MZ072
反差別のキャプテンマーク着用へ 欧州勢の主将、カタールW杯で(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3425167
欧州勢の主将がカタールW杯で差別反対を示す「OneLove」のキャプテンマーク着用へ(MIRASUS)
https://mirasus.jp/society/8403
デンマークがカタールに抗議…デンマーク代表のシンプルすぎるユニフォームの理由を『ヒュンメル』が声明(超WORLDサッカー!)
https://web.ultra-soccer.jp/news/view?news_no=427578
フランス、複数都市でカタールW杯の放送ボイコットを宣言 巨大スクリーンでのパブリックビューイングが無くなることに(SOCCER KING)
https://www.soccer-king.jp/news/world/wc/20221005/1694828.html

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