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仏大手広告代理店ピュブリシスが、トランスジェンダー従業員に関する公式ガイドラインを発表

 フランスの大手広告代理企業ピュブリシスグループが2021年11月、より支援的でよりジェンダーインクルーシブな企業を目指す努力の一環として、トランスジェンダー従業員に関する公式ガイドラインを発表しました。トランスジェンダーに関する主要用語集や性別移行計画案のサンプル、追加コンテンツおよびワークショップを含む将来的計画などが28ページにわたって記されていて、当面は米市場が対象となるそうです。
 

 このガイドラインを作成したのはピュブリシスの従業員リソースグループ「エガリテ」で、同グループを牽引するのは、自身もトランス女性であるジェン・ルノイ氏です。米「DIGIDAY」のインタビューで、トイレの男性/女性表示問題を越えて先に進むべき理由や、トランスジェンダーとしての切実な思いが語られています。
 ルノイ氏は「カミングアウトをする誰にとっても安全な場所を創りたい」と語ります。
「家族にカミングアウトするのは怖いけれど、職場にカミングアウトするのは震えるほど恐ろしいという話をよく耳にする。確かにアメリカでは最高裁が、トランスジェンダーであることを理由にした職場での差別を違法とする判決を下した。しかし、だからといって私たち全員の身の安全が、そして絶対に不可欠なセルフケアおよびメンタルヘルスの保護が確約されているわけではない。このガイドラインは、一歩を踏み出し、本当の自分として生きようとしている誰にもその安心を提供するものであり、そこが素晴らしいと思う」
「自分と違う人々に話しかけることに、私たちは神経過敏になっている。その理由は、誰かを不快にさせてしまうことをひどく恐れていることにある。だからこそ、自分と違う人々との適切な交流/エンゲージ方法を従業員が学ぶための一助の提供は、大いに役に立つ。私の場合は常に、「この言動の裏には、好意的/前向きな意図があるに違いない」という地点から、それと向き合うようにしている。誰も他者を不快にしようとしているわけではない。誰もがそれを明確にした上でこれに臨み、すべてを学びのための経験として利用できれば、状況の改善を促す絶好の機会にできると信じている」

 このガイドラインは、主に4つのセクションから成っていて、1つめは人事部や人材担当者に向けた、職場での性別以降を望むトランスジェンダーへの対応に関する指針が記されています。
 2つめは、カミングアウトした時点から、会社/部署がすべての準備を整えられるまでの期間は、個々の従業員にとってどの程度が妥当なのかに関するガイドラインです。マネージャーはこのプロセスにおいて極めて重要な存在であるため、マネージャーに向けたセクションも設けています。マネージャーにどう伝えたいかは、人によってさまざまであり、その幅や柔軟性を従業員側に持たせてあります。性別以降の仕方は千差万別であり、その点はつねに念頭に置いておく必要があります。
 3つめは、性別移行をする従業員に向けたガイドラインで、自身の性別移行プロセスにどのようなことが起きると予想されるか、その一般的事例や基本的な流れが記してあります。また、性別移行する従業員には、その過程を通じてサポートをするエガリテのメンバーを1人つけるようにもしています。これは大変厳しい、困難の多いプロセスになりかねないため、常に自分の味方をしてくれる、支援を探してくれる人がコミュニティ内にいるとわかっているだけでも、その人にとって非常に心強いからです。
 4つめは、出張に関するガイドラインです。世界の国々には、トランスジェンダー(異性装など)が違法行為と見なされたり、さらには死刑といった報復を受ける危険性と隣り合わせになる地域も存在します。米国においても、トランスジェンダーが安心して出張に行けない地域があります。
 
 ルノイ氏は、「他のエージェンシーにもこの姿勢を取り入れてほしい」と語ります。
「あらゆる企業の標準にするべきだと強く思う。トイレの男性/女性表示議論で止まっている場合ではない。それはあくまで議題のひとつであるべきだ。すでに2022年だ。次の次元に進まないといけない。性別移行のガイドライン、インクルーシブヘルスケア、私たちトランスジェンダー従業員の権利の保護について協議していく必要がある」

 日本でも、パワハラ防止法が施行されたことから、職場におけるトランスジェンダー従業員への差別やアウティングの禁止は措置義務となりましたし、PRIDE指標においても当初からトランスジェンダー従業員のための施策が必須項目とされてきたため、トイレや更衣室の利用、健康診断時における配慮などは、かなり浸透してきたと思われますし(いくつかの裁判もこうした流れを後押ししてきたと言えます)、キリンが性別適合手術などのために最大60日の有休を取れるようにすることを発表したり、最近では、セールスフォースが性別適合手術の費用補助などを含む「ジェンダーインクルーシブベネフィット」制度を導入するなど、海外並みの支援策を実施する企業も現れました。性別適合手術の費用補助までは難しいとしても、今回のピュブリシスのガイドラインのように、性別以降を望む従業員に対してどのような支援をしていくべきかという指針を作成しておくことは非常に有効であると言えるでしょう。その際、ルノイ氏のような、社内または社外の信頼できる当事者の方に相談しながら進めていくことが求められます。
(なお、上記の4つめの海外出張に関するガイドラインを作成するうえで参考になるであろう資料として、トランスジェンダーにとって危険な国・地域の情報をこちらに掲載しておりますので、参考になさってください。制度面での先進国の一覧はこちらです)

 
 
参考記事:
「トイレの男性/女性表示議論で止まってる場合ではない」: ジェンダーインクルシーブを目指す、ピュブリシスの取り組み(DIGIDAY)
https://digiday.jp/agencies/we-need-to-get-past-talking-about-pronouns-in-bathrooms-how-publicis-groupe-is-making-a-more-gender-inclusive-workplace/

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