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エリオット・ペイジやリリー・ウォシャウスキーが、トランスジェンダーの若者の人権を侵害する州法の廃案を求める訴訟に参加しました

 米アーカンソー州が、医師や医療当局に対して、トランスジェンダーの若者にジェンダーアファーメーションケア(第二次性徴抑制剤のためのホルモン治療や性別適合手術など)を受けることを禁じる法案を通そうとしていることに対し、エリオット・ペイジやリリー・ウォシャウスキーが廃案を求める裁判の原告団に加わったことが明らかになりました。

 
 米国では(日本でも)未成年のトランスジェンダーが「puberty blocker」と呼ばれる二次性徴抑制のホルモン治療を受けることができます。思春期に訪れる身体的な変化(二次性徴)を一時的に止めるもので、月経が来ることや、声が低くなること、胸が大きくなることなどを止めることができます。薬を飲むのをやめれば二次性徴が訪れます。
 トランスジェンダーの若者の自殺率の高さが問題になるなか、2020年のハーバード大学医学大学院の研究では、puberty blockerを使った治療を行なったトランスの若者の自殺願望は、行なわなかった若者に比べて著しく低かったことが明らかになっています。そのため、トランスジェンダーの子を持つ親の間では、手術という大きな決断を先延ばししたうえで、我が子のメンタルヘルスを守る方法として二次性徴抑制治療を採用することが有力な選択肢の一つとなっています。
(二次性徴抑制が禁止され、自身の身体が望まない二次性徴を遂げてしまった子どもの絶望を想像してみましょう)
 
 一方、アーカンソー州でトランスの若者へのジェンダーアファーメーションケアの提供を禁止する法案を提出したロビン・ランドストラム下院議員(共和党)は、「大人になってからトランスジェンダーであることを選ぶ人もいます。それはオーケーです。それはその人たちの選択です。しかしそれが18歳以下だった時、まずは成長する必要があるでしょう。それは大きな決断であり、元には戻れないのですから」と述べています。
 アメリカ心理学会をはじめ複数の医学会が、これに反対を表明しています。アメリカ精神医学会は、ケア方針は政治家が決めるものではないと批判。「(ケアに関する)決定をするのは政治家でなく、患者とその医師らが、ともに、どのようなケアが最適かを決めるべきである」としています。
 この悪名高き法案は、2021年3月に州議会を通過し、(米国で初めて)成立する直前までいきましたが、賢明な州知事が法案への署名を拒否し(しかし議会で再び過半数の賛成を得られれば通過します)、また、アメリカ自由人権協会(ACLU)がトランスジェンダーの人権を侵害しているとして提訴したため、判事が施行を差し止め、保留になっていました。エリオットはACLUを支持し、廃案を求める裁判の原告団の一人に加わりました。
 エリオットはACLUを通じてメッセージを発表し、「私のこれまでの人生や作品にポジティブな影響を受けた人たちと繋がれた瞬間を私は一番大切にしている」「自分の身体にまつわる不快感やつらさがなくなったおかげで、私のエネルギーやアイディア、イマジネーションがどれほど花開いたか、自分でも信じられないくらいだ」とコメントし、ジェンダーアファーメーションケア(第二次性徴抑制剤のためのホルモン治療や性別適合手術など)の重要性を説いています。
 また、映画『マトリックス』シリーズの監督として知られるリリー・ウォシャウスキーもACLUに賛同し、原告団に加わりました。監督もトランスジェンダーで、アンディからリリーに改名し、性別適合手術も受けました。彼女は「本当の自分として暮らし始めたとき、歩いたり自転車に乗ったりしているときに窓や車に映る自分の姿をちらっと見ることがあった。太陽に照らされたとき地面に落ちる影は私の気持ちを高揚させ、人生を肯定してくれた。他の誰もそうしなかったとしても、太陽はありのままの私を見てくれた」とのコメントを発表し、ケアを受ける権利を保障するべきだと訴えました。


 米国では現在、このトランスジェンダーの若者へのジェンダーアファーメーションケアの提供を禁じる州法と、トランスジェンダーの生徒が学校で自認性に基づいてスポーツに参加することを禁じる州法など、トランスジェンダーを抑圧する法案が30以上の州で議論され、なかには成立してしまったところもあります。
 テキサス州でも昨年、州議会にたくさんの差別的な法案(なかにはトランスの子どもを支援する親を「虐待する親」とレッテルを貼って犯罪者扱いしようとする法案なども…)が提出され、LGBTQ+Allyコミュニティの闘いのおかげで、98%は成立を免れたそうですが、トランスの生徒が学校で自認性に基づいてスポーツに参加することを禁じる州法は、残念ながら成立してしまったそうです(こちらに詳しく書かれています)

 なお、米国では昨年、1年間に53名ものトランスジェンダーがヘイトクライム(憎悪犯罪)によって殺されました。過去最悪となった2020年を10名以上も上回っています(詳細はこちら
 南部や中西部の保守的な州を中心にアンチ・トランスジェンダーの動きが強まっていることが、こうした状況につながっています。
 
 

参考記事:
エリオット・ペイジ、トランスジェンダーの若者の人権を侵害する法案に反対 廃案を求める訴訟に参加(ELLE DIGITAL)
https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a38859889/eliot-paige-anti-transgender-law-220124/
トランスジェンダーの若者へのヘルスケアを法律で制限、エリオット・ペイジやリリー・ウォシャウスキー監督が反対意見(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17513442
テキサス州で「反トランスジェンダー法案」が可決...権利をめぐって闘う活動家が今考えること(Harper’s BAZAAR)
https://www.harpersbazaar.com/jp/lifestyle/womens-life/a38422959/what-it-takes-to-fight-for-trans-kids-in-texas-211204-lift1/
Two More Trans Americans Reported Killed in 2021(Advocate)
https://www.advocate.com/crime/2022/1/28/two-more-trans-americans-reported-killed-2021

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