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医療におけるトランスジェンダー差別禁止規定を覆そうとしたトランプ政権の決定を、連邦地裁が差し止めました

 8月17日、ニューヨーク連邦地方裁判所のフレデリック・ブロック判事は、医療保険制度改革法に盛り込まれたトランスジェンダー差別禁止規定をトランプ政権が覆す決定をしたことに対し、その決定を差し止める判断を下しました。
 
  
 人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2018年、米国の保健医療におけるLGBT差別の状況に関する報告書をまとめています。「うつ病・依存症からがん・慢性病に至るまで、差別の結果、LGBTの人びとはさまざまな健康問題のさらなるリスクにさらされている」「保健福祉省は、こうした格差を公衆衛生問題と捉えて解決に向かうべきなのに、規則を政治化してどんどん悪い方向に進めている」とHRWのライアン・ソーレソンは述べています。
 もともと保健医療分野における、LGBTの人びとに対する保護規則の現状はばらばらでした。2016年にオバマ政権は、保健医療における性差別を禁じた医療保険制度改革法の第1557項(性差別禁止条項)がLGBT差別も禁止していることを明確にした規制を発付しました。
 一方、州レベルで見ると、2018年7月時点で、37州が性的指向や性自認に基づく医療保険上の差別を明確に禁じておらず、10州では、性別移行関連の保健医療がメディケイドの対象から除外されているため、低所得層のトランスジェンダーの人びとはホルモン治療すら受けられない状況でした。
 メンフィスに住むゲイ男性は、2016年の定期検診でHIV検査を受けたとき、同性愛は過ちであると説教を受けたそうです。
 2017年にアメリカ進歩センターが実施した全国調査では、カウンセリングやセラピー、不妊治療、定期検診などのプライマリーケアを拒否された経験を持つレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは全体の8%、トランスジェンダーでは29%にも上ったそうです。小児科医が、宗教的な信念を理由に同性カップルの子どもの診察を拒否したケースもあります。

 2018年1月に保健福祉省は、医療関係法における既存の「宗教例外」を拡大し、保険業者や医療従事者に対し、道徳的または宗教的信念を理由に、患者への保健医療サービスを拒否する裁量権を広く付与するような修正を提案しました。また、2018年4月には、トランプ政権が、医療保険制度改革法の性差別禁止条項を読み替え、そこからトランスジェンダーを排除する計画を発表しました。
 そして今年6月、保健福祉省が、性差別禁止条項の「性別」を「出生時の性別」に限定する(トランスジェンダーを排除する)決定を下し、8月18日に施行される予定となっていました。これに対し、複数のLGBTQのグループが訴訟を起こしていました。

 ニューヨーク連邦地方裁判所のフレデリック・ブロック判事は、この差別的な決定が施行される前日である8月17日に、差し止めの判断を下し、トランスジェンダーの人々を守りました。
「保健福祉省が決めたルールは、公民権法をLGBTQにも適用する6月の最高裁判決に反するものであり、さらに、保健福祉省は、勝手に、気まぐれな態度で、それを実効化させようとした。それゆえ、原告が延期・猶予を求めた申請を認めるとともに、予備的な裁定としてこのルールの実施を排除するものと結論づけた」
 
 この裁定を受けてヒューマン・ライツ・キャンペーンのアルフォンソ・デヴィッド代表は声明で「これは原告のトランスジェンダーだけでなくLGBTQコミュニティ全体にとっての重要な勝利です。とりわけCOVID-19と人種差別という2つのパンデミックの影響を不当に受け、苦しんでいる複数のマイノリティ性を持っている人々にとって」と述べました。「単純に差別であると言うほかない、不合理なルールだと裁判所が認めてくれたことに感謝します。LGBTQのアメリカ人は恐怖や屈辱、誤診、ハラスメントに遭うことなく必要な医療を受ける権利があります」
 


参考記事:
Judge Blocks Trump's Attempt to End LGBTQ+ Health Care Protections(Advocate)
https://www.advocate.com/health/2020/8/17/judge-blocks-trumps-attempt-end-lgbtq-health-care-protections
米連邦地裁が差し止め、トランプ政権のLGBT医療差別規制(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/usa-court-lgbt-idJPKCN25E0FL

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