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学校での制服の選択制を求める声や、男女別登校への批判の声が高まっています

 GID(性同一性障害)学会理事長の中塚幹也岡山大学教授が、中学・高校の制服がトランスジェンダー児童・生徒に与える影響や、文科省の方針を示しながら、制服の選択制の早期実現を提言しました。 

 
 中塚教授によると、岡山大学ジェンダークリニックを受診するGID(性同一性障害)当事者約1,000名のうち、半数強が物心ついた頃から、約9割が中学生までに性別違和に直面しています。
「特に小学校に入学すると、持ち物、トイレ、各種の活動などが男女別になることが多くなる。トランスジェンダーの子どもにとって、希望しない性別での学校生活を強いられることも多く、つらい経験となりやすい。実際に、ジェンダークリニックを受診する性同一性障害当事者の約3割が不登校を経験している。また、約6割が自殺願望(自殺念慮)、約3割が自傷・自殺未遂の経験を持っている」
「不登校や自殺願望は小学生から見られるが、中学生の頃には高率となる。これには、自身の身体が希望しない性の特徴を持ち始める二次性徴が起きることに加えて、自身の希望しない制服を着なければならないことが影響している」
 中学生の頃の自殺願望の原因として「制服」を挙げたトランスジェンダー当事者は約25%にも及んでいるといいます。
「特に、トランスジェンダー男性は、スカートをはくことに大きな苦痛を感じるため、不登校の大きな原因となっている。このためトランスジェンダーの子どもが希望する制服を選択できるようにすることは不登校や自殺を防止することにつながる」

 中塚教授の研究室が実施した、トランスジェンダーの児童・生徒の制服についての教員へのアンケート調査の結果によると、トランスジェンダー男子、トランスジェンダー女子ともに、小学生までは5割弱の教員が「希望する服装」での登校を認めている一方、中学生以上になるとその割合が約3割に低下しており、「正規の制服を着るべき」と考えている教員が多いそうです。
 しかし、2015年の文部科学省の通知における「性同一性障害に係る児童生徒に対する学校における支援の事例」においても、服装への対応として「自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める」とされており、学校での早急な改善が求められます。

 近年、LGBTQの社会的課題の認知が進んできたこともあり、トランスジェンダーの児童・生徒が「スカートとスラックス」「ネクタイとリボン」などを選択できる制服、あるいは「右前左前のないジャケット」「ユニセックスなズボン」などを組み合わせた「ジェンダーレス制服」などの開発が続けられています。なかには、学校の教員がトランスジェンダーの児童・生徒をサポートできるよう、相談に乗る体制をとっている制服メーカーもあるそうです(素晴らしい取組みですね)
 
 中塚教授は「制服の選択制は、トランスジェンダーの子どもへの特別な対応ではなく、全児童・生徒が対象となるべきである。「寒いのがイヤ」「パンツスタイルが好き」「足を見せたくない」などの理由でスカートをはきたくない子どもも多いと考えられ、「誰かへの特別な配慮」ではなく、ユニバーサルデザインの概念で、すべての人にやさしい制服の採用、あるいは多様な組み合わせを認めることが求められている」と語っています。

 制服の選択制をめぐっては、2ヵ月前に東京都江戸川区で高校生が区内の学校での制服の選択制を求める署名を立ち上げたのに続き、宮城県でもトランス男性の小野寺真さんが同様の署名を開始しています。
 

 制服の問題だけでなく、新型コロナウイルス感染拡大とともに新たに立ち現れてきた問題もあります。
 教育現場ではソーシャルディスタンスを保って授業を行うために分散登校が行われたところもありますが、東京都や埼玉県など複数の自治体で男女別の分散登校が実施され、専門家から「人権侵害」であるとの批判を受けています。
 埼玉在住で、息子さんが幼稚園に通っている西出博美さんが、男女別の登園について「これが大人だったら? 例えば近所のスーパーで、これから1ヵ月は性別で入れる曜日を分けますって言われたら、誰でもおかしいと思いますよね」と声を上げたことから、賛同の声が広がりました。
 一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは「驚いた。自分の性のあり方に悩む子は辛いだろう。なぜ性別で分けるのか、学年や出席番号で良いのではないか」と投稿しました。「性のあり方に関係なく、ひとりひとり好きなことや得意なことは違う。あえて性別で分けてステレオタイプを助長するような教育をしてしまうことで、子どもたちの可能性を狭めることにつながるのではないかと感じます」
 パナマではロックダウンの最中に男女別の外出日が決められたせいで、トランスジェンダーの方が外出時に逮捕されるという悲劇が起こっています。もし今後、男女別登校に際して、トランスジェンダーの児童・生徒が、勇気を持って自認する性別で登校したとしたら、どうなるのでしょう…周囲の子どもたちや教師からいじめや叱責を受けたり、近所の人たちから「社会的制裁」を受けたりするのではないかと危惧されます。
 ジェンダー平等教育が専門の川村学園女子大学教育学部の内海崎貴子教授は、公立学校は男女共学が原則と教育基本法で定められているため「そもそも男女別登校はその原則に反する」と指摘し、「これは人権の問題」だと述べています。
「性というのは、身体の性、性自認、性的指向などで多様な組み合わせがあり、簡単に男女を分けることが難しくなってきています。基本的人権の尊重という考え方に立てば、全ての人がどんな性自認であっても尊重されるべきです。男女別登園・登校は人権侵害にあたり、見直す必要があるでしょう」
「性別による役割分担が前提だった社会は変わって来ている。教育現場も変わらなければ、立ち行かなくなるでしょう」
 
 中塚教授も、男女別の分散登校の問題に言及し、「トランスジェンダーの子どもにとっては、自身の希望しない性別で扱われることは非常につらいこと」「男女別に登校日を決められることで学校に行くことができなくなる子どももいる」と述べています。
「トランスジェンダーの子どもが学校の中で感じる困難は制服のことだけではない。トランスジェンダーの子どもが生きやすい学校にするために、さらなる議論が広がることを期待する」 
 
 

参考記事:
新型コロナで男女別の分散登校 追いつめられるトランスジェンダーの子どもと制服の選択制(Yahoo!)
https://news。yahoo。co。jp/byline/mikiyanakatsuka/20200728-00190151/
宮城でも制服を選択制に 仙台の理容師、ネットで署名募る(河北新報)
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/202007/20200727_13027.html
男女別登校は「人権侵害」と専門家が指摘。1人の母の疑問に賛同の声(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ee818d4c5b6ddc7bdcaa8fb

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