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レズビアンを生き生きと描いた記念碑的なブロードウェイミュージカル『The PROM』が来年、日本初上演

 ブロードウェイでは、ゲイを描いた作品はたくさんありましたが、レズビアンを描いた作品はほとんどなく、今回ご紹介する『The PROM』が(『ファン・ホーム』を除けば)ほとんど初めてでした。昨年、ストーンウォール50周年を記念するNYのワールドプライド期間中に上演され、多くのLGBTQの観客たちが歓喜し、絶賛の嵐だった、記念碑的な作品です(昨年のトニー賞にもノミネートされています)
 インディアナ州の小さな町の高校に通う主人公・エマは、レズビアンであることをオープンにしていて、学年の最後に開かれるダンスパーティ「プロム」に彼女同伴で参加したいと申し入れますが、学校側がこれを拒否、さらに、学校側やPTAはレズビアンカップルをプロムに参加させないため、プロム自体を中止にしてしまいます(これは2010年にミシシッピ州で実際にあった話で、訴えを起こした彼女のFacebookには10万人を超えるサポーターがつき、プロムを開催しましょうか?といったオファーも殺到したそうです)
 この学校側の差別対応がニュースになるや、ディーディーやバリーら落ちぶれたブロードウェイ俳優達(ゲイ2人と女性2人)が、かわいそうなエマを救おう、ついでに自分たちも注目されたいと、インディアナ州の高校に乗り込み、すったもんだが起きます。4人の過剰な"応援"にちょっとウンザリしたりもしつつ、エマは、ゲイとして親身になってくれるバリーたちと心を通わせ、頑なに同性愛者を排除しようとするPTA会長と向き合い、なんとか状況をいい方向に変えていこうと奮闘しますが……。というストーリーです。
 主人公のエマが、当事者が観て「これは私だ」と思えるようなリアルなレズビアン像で(なお、エマを演じた方が、のちにカミングアウトしています)、本当に愛すべきキャラクターで、心から応援したくなります。音楽も最高に素敵。そして、本当に素晴らしいのは、この作品が全体としてコメディで(笑わせるのは主にバリーをはじめとする4人の俳優たち)、それでいて、決してセクシュアルマイノリティを嘲笑したりせず、LGBTをリスペクトした上での笑いを追求し、当事者が心から楽しめるような笑いを生み出していたことです。

 今年12月には、Netflixでライアン・マーフィによって映像化されることも決定しています(メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデン、ケリー・ワシントンら豪華出演陣)
 LGBTQを扱おうとする全メディア関係者に、この作品を観ていただきたいです。
 
 前置きが長くなりましたが、このミュージカル『The PROM』が、2021年に東京と大阪の二拠点で日本初上演されることが決定しました。
 日本初上演にあたり、演出を手がけるのは、今年結成25周年を迎えた地球ゴージャス主宰の岸谷五朗さん。「日本公演では作品のテーマを大切にしながら、地球ゴージャスが得意とする華やかなエンタテイメントやコメディを盛り込んでいく」そうです。
 主人公エマを演じるのはミュージカル界期待の新人、葵わかなさん(NHK連続テレビ小説『わろてんか』など)、恋人アリッサの役を、ミュージカル映画『ダンスウィズミー』での主演も記憶に新しい三吉彩花さんが演じます。
 さらに今回が初舞台であり演技初挑戦となる大黒摩季さん、大ベテランの草刈民代さん、ミュージカル界で活躍する保坂知寿さん、元宝塚劇団月組トップスター霧矢大夢さんらの出演も決定しているそうです。
 岸谷五朗さんは、「2019年、実際にBroadwayで観劇してから日本で絶対に公演をしたいと思った作品です。コロナを吹き飛ばすには最高の演目、骨太なテーマに巧みな登場人物。Broadwayならではのコメディセンスと最上級のダンス・ナンバー! ゴージャスがゴージャスにBroadwayを料理する、大ミュージカルになるでしょう!乞うご期待」とコメントしています。

 本当に素晴らしいミュージカルなので、日本で上演されることを、とても楽しみにしています。
 
Broadway Musical『The PROM』(Produced by 地球ゴージャス)
東京公演:2021年3~4月/TBS赤坂ACTシアター
大阪公演:2021年5月/フェスティバルホール




 一方、この件を報道したニュースのタイトルが「LGBTQのカップルを熱演」となっていたり、本文中にレズビアンという言葉が1つも出てこなかったこと、また一部の出演者の方のコメントなどについて、非難の声が上がっています。
「公式がはっきり言わないので何度でも言いますが、『The PROM』はレズビアンの女子高生を描いた物語です」
「なぜNetflixも日本版ミュージカルも誰もレズビアンの物語と言わない? レズビアンの物語であって男女問わずの物語じゃない。決して違う。男女はプロムに反対されない」
「レズビアンが主人公のエンターテインメントは圧倒的に少ないんだよ。性の多様性じゃないんです。レズビアンが人権(プロムに彼女を連れて行く)を迫害されて立ちが上がるミュージカルなの!」
「世界から周回遅れの日本で演じるに当たり、現実の厳しい状況にあるレズビアンに対して少しでもエンパワーメントできれば、とかそういうこと少しくらい触れてもいいんじゃないの?」
などなど。
 『The PROM』はレズビアン・カップルが主人公でアライの(愉快な)仲間たちと一緒に社会のヘテロセクシズム(強制異性愛)と闘うところが感動を呼ぶ作品であり、今までそういう作品がブロードウェイにおいてさえ、ほとんどなかったからこそ、素晴らしいのです。
 ニュース記事は、見出しはメディア側がつけているのでしょうが、本文はおそらく地球ゴージャスさんのプレスリリースに基づくものだと思われます。もし、レズビアンの人々が置かれた状況や、LGBTQの差別との闘いの歴史、不可視化されがちなレズビアンの人たちを応援したいという視点を持っていたら、このような見出しや記事にはならなかったのでは…と思います(なお、地球ゴージャスの岸谷五朗さんは、有名な「Act Against AIDS」を立ち上げ、長年運営し、広くリスペクトを集めるフィランソロピストです。HIV陽性者のアライの方なら、きっとすぐにご理解いただけることと思います)
 

参考記事:
葵わかな&三吉彩花がLGBTQのカップルを熱演 ブロードウェイミュージカル『The PROM』2021年日本初上演決定(ぴあ)
https://lp.p.pia.jp/shared/cnt-s/cnt-s-11-02_2_2eae97e8-1f0a-473e-a8b6-a55a7598c489.html
ブロードウェイ発、地球ゴージャスが贈る『The PROM』に葵わかな、三吉彩花(CINRA)
https://www.cinra.net/news/20201012-chikyugorgeous
葵わかなと三吉彩花がLGBTQの女子高生カップル! 地球ゴージャスがブロードウェイミュージカル(TOKYO HEADLINE)
https://www.tokyoheadline.com/518459/
「The PROM」で葵わかな&三吉彩花がカップルに、プロデュースは地球ゴージャス(ステージナタリー)
https://natalie.mu/stage/news/400205

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