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米ウォルマート社がLGBT支持に傾いた理由

 ウォルマート・ストアーズは米国南部・アーカンソー州に本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーンですが、その土地柄から、長い間、保守的な企業の代表選手と見なされてきました。

 しかし昨年、ウォルマート・ストアーズのダグ・マクミロンCEOは、LGBT差別を正当化する「表現の自由保護法(別名:宗教の自由法)」(宗教的信念に基づき、同性婚に関するサービス提供を断ったり、LGBTの入店を拒否することを認める州法)がアーカンソー州で提出されたことについて、「われわれは、多様性と一体性が同僚や顧客、社会にもたらす恩恵を日々、店舗で直に感じている」とコメントし、ハッチンソン州知事に法案への署名を拒否するよう求めました。
 
 ロイターは、保守的な傾向の強いアーカンソー州に本社を構えるウォルマートのCEOがLGBTの権利の支持を明確に打ち出したことは「意外とも受け止められるが、CEOの行動は10年以上にわたって変化してきた同社のLGBTに関する方針を反映するもので、いくつかの社会問題においてビジネスの観点から理にかなった立場を表明してきたこれまでの同社の動きと一致する」と報じました。

 米国の人権団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」が米大手企業を対象に実施しているLGBT施策についての格付け調査「企業平等指数」(100点満点)では、ウォルマートの格付けは2002年時点ではわずか14点だったのですが、2003年に社内規程で性的指向に関する差別を禁止し、大きなステップを踏み出しました。2008年には40点、今年は90点にまで上昇しました(なお、TOYOTAやSONYなど米国にある日系企業でも100点を取得しているところがいくつもあります)

 ウォールマートの元幹部で現在同社の顧問を務めるある人物は、LGBTの権利への支持表明は、結局のところビジネスを守ることになると指摘します。この人物は匿名を条件に「そうすることはビジネス的に賢明だ」と述べ、マクミロンCEOの姿勢は、インディアナ州が直面しているような事業ボイコットの回避につながるだろうと語りました。 
 
「インディアナ州が直面しているような事業ボイコット」とは、昨年、「宗教の自由法」を最初に成立させたインディアナ州に対し、同州を拠点とするスバル・オブ・インディアナ・オートモーティブがこの州法を非難し、セールスフォース(クラウドベースの CRM/顧客管理やSFA/営業支援を世界10万社以上に提供する企業)のマーク・ベニオフCEOが同州で開催予定だったインデイズ・ビッグデータ会議をはじめ一切のイベントをボイコットすることを表明、また、サンフランシスコ市長やワシントン州知事、シアトル市長らが職員がインディアナ州に公費で出張することを禁じ、大学生のバスケットボール試合を開催する全米大学体育協会(NCAA)も「選手たちへの影響」に懸念を表明、ロックバンド「ウィルコ」がインディアナポリスでのコンサートを中止するなど、続々とボイコットが相次いだことを指します。ビジネス紙『インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)』は、法案が公になって以来、インディアナ州が4000万ドル(47億8000万円)を失ったと推測しています。

 この法案に署名したのは、次期副大統領となるマイク・ペンス氏(当時州知事)ですが、ボスマ州下院議長ら共和党州幹部の要請で、州法の修正を余儀なくされました。
 
 同様の法案が州議会で可決されていたアーカンソー州でも、ウォルマートCEOの反対もあり、インディアナ州と同様の批判が寄せられたこともあり、法案に賛成だった州知事が態度を変え、可決した内容の法案では署名できないと発表しました。
 
 さらに、同様の法案が州議会で可決されたノースカロライナ州では、ペイパルが同州への事業所の開設を撤回し、ブルース・スプリングスティーンらが同州でのコンサートをキャンセル、国際会議などの大きな行事もキャンセルが相次ぎました。同州の主要都市シャーロットの商工会議所は、「宗教の自由法」の成立によって同市が被った経済的な打撃が約2億8500万ドル(約300億円)に上り、約1300人の雇用が失われたと発表しました。

 日経電子版の記事によると、この経済的な打撃により、ノースカロライナ州の「保守派の共和党員も背に腹は代えられないと思い始めた」といいます。「投資先企業のスムーズな事業に支障を与えるだけでなく、州の株式非公開企業や地方債の資金調達にも打撃を与える」
 公的年金基金や財団、資産運用会社など総額2.1兆ドルの資産を運用する機関投資家約60社は今年の9月下旬、「宗教の自由法」改正を求めて同州に書簡を送りました。その一つ、ニューヨーク市職員年金基金を監督する会計監査官のスコット・ストリンガー氏は「投資先企業の業績向上のためにはLGBT差別の法律を放っておくわけにはいかない」と強調しました。
 ビジネス界がLGBTへの差別的な動きに容赦がないのは、企業イメージが収益を左右するだけでなく、リベラルなミレニアルと呼ばれる若い世代の優秀な人材の確保や投資家の行動にも影響するためです。
 
 フロリダ州オーランドのゲイクラブで6月に起きた米国史上最悪の銃乱射事件、世界に衝撃を与えたこの悲劇に対して、犯人を称賛するコメントがツイッターに流れましたが、メッセージの送り手がウォルマートの従業員だったことがわかり、ウォルマートは24時間後にこの従業員を解雇しました。
 米国を代表するLGBT誌『アドボケート』は、ウォルマートが「約半世紀の社史の中で徐々にLGBTの権利擁護に傾いてきた姿勢は、そのまま米企業のLGBT擁護の姿勢の変遷に重なる」と評しています。
 
参考記事:
米ウォルマートのLGBT支持、ビジネス的に賢明(ロイター 2015.4.3)
米企業LGBTに手厚く 人材確保や投資に期待(日経電子 2016.10.25)

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