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LGBT、公言と理解が会社の力に 環境どう整備 ゴールドマン・サックス日本法人に学ぶ

米金融大手のゴールドマン・サックスは、いち早くLGBTが働きやすい職場環境づくりを進めてきました。金融サービス業は、多様なお客様に対応できるチームや商品、ソリューションを提供することが大事で、多様なバックグラウンドの社員が求められることから、ゴールドマン・サックスの経営理念としてダイバーシティが重視されています。また社員に対しても、全社員必修のダイバーシティ研修を実施しています。日本法人では2005年、社内に「LGBTネットワーク」が設立され、初めは当事者だけのクローズドな組織でしたが、やがてアライも参加するようになり、外部スピーカーを招いてLGBTに関する講演会を開催するなど、ネットワークの可視化を進めていくなかで、活動を支援してくれるスポンサーもつくようになりました。今では各部門長がネットワークの活動をサポートしています。2011年にはLGBTの学生を対象にしたリクルーティングイベント(会社説明会)もスタート。これに参加した学生が実際に入社し、LGBTネットワークにも参加するようになりました。2016年1月18日の日本経済新聞電子版の記事によると、偏見をなくすための啓発活動が活発になり、会社が歩調を合わせるようになったのは2011年頃だそうです。  

NHKのニュースにも登場していましたが、ゴールドマン・サックス証券法務部のヴァイス・プレジデントである稲場弘樹氏は昨年5月、ゲイであることを職場でカミングアウトしました。「LGBTネットワーク」が設立されてから10年、社内のLGBT支援が本格化してから4年かかってのカミングアウトです。  

稲場氏は契約などを法律面でチェックしたり、新たな規制や制度への対応策を考えたりする業務に携わっています。2002年に入社してから13年間、周囲にはゲイであることを隠していました。知り合いのフランス人の男性が母国で同性婚をしたことや就職活動をしているLGBTの学生のメンター(助言役)を任されたことなどが重なり、「隠し続けるのはよくない」と思うようになっていきました。会社を挙げて偏見をなくそうとする取り組みが稲場氏の決意を後押ししました。   

社内の「LGBTネットワーク」は当初、欧米人の社員を中心に細々と活動していましたが、2010年頃から日本人社員も積極的に参加するようになり、講演会や食事会などのイベントを企画し、交流を図るようになりました。アライ(支援者)であることを示すレインボーカラーの模様が入った卓上カードを社員に配ったりもしました。  

管理業務を主とするゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス、資産運用会社のゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを含む3つの日本法人で働く計1200人中、180人が「LGBTネットワーク」のメンバーで、そのうち10人がオープンリーLGBTです。  

会社側も、採用者の入社時や昇進に伴う研修でLGBTを尊重することを教え、現実的な場面を想定した演習をしてきました。例えば、休暇で旅行に出かけた男性社員に「彼女とですか?」などと聞くことは、彼がゲイだった場合には苦痛を感じさせてしまうことを気づかせます。  

ホールディングスの人事部は、3つの日本法人にいる部長クラス「マネジングディレクター(MD)」のうち各部署に少なくとも1人を「MDアライ」に指名しています。   

稲場氏が所属する法務部には2人のMDアライがいます。2人とも当事者たちが交流のために開く昼食会があれば出かけ、「LGBTネットワーク」が開くトークイベントに参加していました。そうした場で見たり聞いたりしたことを職場のミーティングで報告するなどして、LGBTに寛容な雰囲気作りに努めていた。法務部では大半の社員の机の上にアライのカードが置かれるようになっていました。  

福利厚生の面では、LGBTを差別せず、同性のパートナーと1年以上同居していれば事実婚と見なし、異性の結婚相手と同じに扱っています。事実婚の相手も会社の健康保険に加入でき、病気にかかって看護が必要になれば休暇を取ることもできます。  稲場氏は「時には嘘をついてでも周囲に悟られないようにしていた。自分を偽っていたので、人とのつながりが希薄に感じていた」とこれまでを振り返ります。今は、以前よりも生き生きと働いているように見えるといいます。上司が「後ろから手綱を引っ張っておかないといけない」と冗談を言うほど現場のリーダーとして周りに声をかけ、現場を引っ張っています。  

稲場氏はゲイであることを気づかれるのを恐れ、「LGBTネットワーク」には参加していませんでした。しかし、昨年11月にはネットワークの日本の共同代表に就き、ゲストによるトークやクイズ大会など、精力的にイベントを企画するようになりました。  

多様な人材の活用を進めるホールディングス人事部の住吉緑アソシエイトは、「LGBTということを伏せて働いている人たちは常に辻褄が合うよう、言動に気をつけなければならず、矛盾を悟られないようにしている。精神的な負担は想像以上で、何も隠さずに済むようになれば、負担から解放されて最大のパフォーマンスを発揮できる」と指摘します。  

ゴールドマン・サックスの取り組みは社外からも注目を集めています。稲場氏や住吉氏には民間企業や公的機関からの講演依頼が増えています。LGBTへの偏見をなくす活動の影響は1社の枠を超えて広がりを見せています。

『職場のLGBT読本』(実務教育出版, 2015)には、ゴールドマン・サックス証券の先進的な取り組みのほか、三木さんという社員の方へのインタビューも掲載されています。機会があればぜひ、読んでみてください。

参考: LGBT、公言と理解が会社の力に 環境どう整備 ゴールドマン・サックス日本法人に学ぶ 2016.1.18 日本経済新聞電子版

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