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このサイトについて

『PRIDE JAPAN』は、OUT JAPANが提供し、後藤純一が責任編集を務めるLGBTQ+Allyの方たちに向けたLGBTQ情報サイトです。もともとOUT JAPANのコーポレートサイトにニュースやコラムとして掲載していた記事を、コーポレートサイトとしてはあまりに本格的といいますか、他の記事(企業概要、サービス紹介、活動実績など)とはかけ離れた趣のものになってしまっていたため、社内で「いっそ、独立したサイトにしてはどうか」との話が持ち上がったことから、装いを新たにし、ひとつのLGBTQメディアとして立ち上げました(ニュースとコラムは、2015年以降の記事を受け継いでいます)

 

 このようなLGBTQメディアが存在する意味について、お伝えします。

 私は1996年から『バディ』というゲイ雑誌の編集者・ライターをつとめさせていただき、『バディ』が90年代〜2000年代のゲイシーンのオープン化やコミュニティ運動の盛り上がりにどのように貢献したかということや、同じ出版社から『アニース』というレズビアン&バイセクシュアル女性向けの雑誌や『ファビュラス』という素晴らしくファッショナブルでハイカルチャーなゲイ雑誌が発表されるのも見てきて、LGBTQのメディアがコミュニティにとってどのような役割を果たし、どのような意義を持つものか、ということはよく理解しているつもりです。

 2006年に『バディ』編集部を退き、2008年からはAll About[同性愛]の公式ガイドをつとめ、広く世間一般に向けてLGBTQについての記事を発信してきました。2010年からは「g-lad xx」という、誰もが読めるようなオープンな情報サイトを運営しています。同様の情報サイトがその後、いくつも立ち上がっています。

 2010年代以降はGQ JAPAN、クーリエ・ジャポン、VOGUE JAPAN、HUFFPOST、BuzzFeed、フロントロウなどのWebメディアもLGBTQに関する良質な記事を熱心に配信するようになりました。LGBTQに対して肯定的・支援的なメディはもはや当事者コミュニティの専売特許ではなくなり、一般メディアからLGBTQイシューに関する記事が広く世間に届けられる時代になりました。上記に挙げたような大手メディアにもオープンな当事者の記者の方がいらして、だからこそ当事者目線の良質な記事を発信できているということもあると思います。素晴らしいことです。

 しかし、海外では『Advocate』『Out』『Pink News』などの大手LGBTQメディアが億単位の予算で運営され、何十人もの記者が働いている一方、日本のLGBTQメディアは、惨憺たる状況です。かつてシーンの中心にあった(2000年代のパレードを強力にバックアップしていた)『バディ』や『G-men』といったゲイ雑誌は、紙媒体の存続が難しくなった時代のなかで、いずれも廃刊となってしまいました。LGBTQのWebメディアも(これまでにもいくつも、立ち上がっては消え、を繰り返してきましたが)極めて不安定な状況に置かれています。

 当事者が運営主体となり、当事者が発信するLGBTQメディアは、(かつてのゲイ雑誌やレズビアン雑誌がそうであったように)コミュニティのみなさんに「これは自分たちのために書かれたものだ」と感じさせるような言葉を届け(ある意味「予祝」だと私は思っています)、ホモフォビアスティグマを克服して自分を愛せるように励まし、仲間意識を育み、コミュニティを力づけるような役割を果たしてきました。大手メディアにそのような気持ちがないとは言いませんが、どうしても当事者メディアとは力の入れ方が異なる部分も出てきます(例えばHIVにまつわることが良い例です)

 これまでOUT JAPANのメルマガやニュースを読んできてくださった方々は、もうLGBTQの基本的なことはよく理解してくださっていると思いますが、おそらくみなさんの職場には、まだまだカミングアウトできていない当事者の方がたくさんいらっしゃると思います。私はなかなか職場でカミングアウトできない友人たちの事情や心情をよくわかったうえで、そうした友人たちの顔や声を思い浮かべながら、読者のみなさんをALLYと見込んだうえで、当事者のリアルをお伝えしたり、内外の良い情報をお届けしたり、時には協力を呼びかけていきたいと思っています。このサイトがコミュニティとALLYをつなぐ虹色の架け橋になれたら…と願うものです(それこそがOUT JAPANの目指すところです)
 

 

 ここからは、「PRIDE JAPAN」というサイト名に込めた思いについて、お伝えします。

 OUT JAPANでは2016年から『OUT & PROUD』というメールマガジンを発行しています。その0号で、このように書かせていただきました。

「OUT」というと、アウト! セーフ! の「アウト」を連想される方も多いと思うのですが、LGBT的には「カミングアウト」の「アウト」を意味します。海外では、come outと同じ意味で、単にoutとも言います。
 世界で最も有名なオシャレ系LGBTマガジンの名称も『OUT』です。
 アウト・ジャパンの社名も、そういうところに由来しています。

 そもそもカムアウトとは、クローゼットに閉じこもった同性愛者が扉を開けて出てくるという意味で、だからこそ「confess」とか「announce」ではなく「come out」なのです。

 ショーン・ペンがアカデミー主演男優賞に輝いた『ミルク』という映画をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。歴史上(近代史上)初めてゲイであることをカムアウトしつつ市会議員に当選したハーヴェイ・ミルクが、それまでカムアウトせずにロビーイングなどで社会を変えようとする穏健派が主流だったのに対し、それじゃダメだ! みんな、アウトしよう! 堂々と表に出よう! と呼びかけ、権利を勝ち取っていく様が描かれています(このシーンは、日本のLGBTの間で「カミングアウトを強制してる…」という反感も引き起こしました。今でもミルクのやり方は「過激」と受け止められるようです)

 しかし、後の歴史は、ミルクが正しかったことを証明しています。結婚の平等の達成(同性婚の実現)へと連なる同性愛者の権利の獲得は、彼の「アウトしよう!」という呼びかけに応えた大勢の人たちの勇気あるカミングアウトによって、実現していったからです。
 ちなみに、これも『ミルク』に描かれていますが、ハーヴェイ・ミルクがサンフランシスコ市議に当選して最初のプライドパレード(1978年)において、このパレードをコミュニティのパワーを示せるような盛大なものにしたいと考えた人たちが、性的マイノリティのシンボルとしてレインボーフラッグを生み出したのです。

 パレードといえば、LGBTのパレードはしばしば「プライド」と呼ばれます。ニューヨークのパレードであればニューヨーク・プライド、サンフランシスコのパレードであればサンフランシスコ・プライドといった具合に。LGBTのパレードは(優勝祝賀パレードでもエレクトリカルパレードでもなく)LGBTの「プライド」を示すパレードだからです。

 「プライド」とは何でしょうか? 日本語でプライドというと「プライドが高い」「プライドが傷つけられた」といった、若干ネガティブな意味合いも感じられますよね。「沽券」に近い意味で使われていると思います。本来の「プライド」は「誇り」であり、自らを恥じない、堂々と自信を持っているという意味です。Appleのティム・クックCEOがカムアウトした際に「私はゲイであることを誇りに思っている(I’m proud to be gay)」と述べたように、pride, proudは肯定的な(とてもgoodな)意味で用いられます。

 アメリカでは過去に、赤狩りの急先鋒を務めたロイ・コーン検事(当時)やFBI初代長官のJ・E・フーバーらクローゼット・ゲイの公人が、保身のために(自身がゲイだとバレないように)率先して他の同性愛者を脅したり、破滅させたりしてきたという黒い歴史があります…。今やそうした卑劣さこそ恥ずべきことだと見なされています。自身のジェンダーやセクシュアリティを恥じることなく受け容れ、堂々とアウトしよう、胸を張って生きていこうとする心意気が「プライド」です。

 アウト・ジャパンは、公にアウトし、プライドを胸に活動しているLGBTを中心とした企業です。そこで、このメールマガジンのタイトルとして『OUT & PROUD』以上にふさわしいものはないと考えました。

 OUT JAPANが立ち上げるLGBTQ+Allyのための情報サイトの名称は「PRIDE JAPAN」しかないと思いました(ちなみに「PROUD JAPAN」はすでに同名の会社がありますし、英語的には「PRIDE JAPAN」のほうがしっくりくるということもあり、「PRIDE JAPAN」としました)

 私は企業様のLGBTQ研修や講演でお話させていただく際、「究極の目標は、世の中からホモフォビアやトランスフォビアがなくなることです」と申し上げることがあります。ホモフォビアやトランスフォビアは異性愛者やシスジェンダーだけでなく、当事者もしばしば「内なるフォビア」ゆえに自己肯定できず、苦しみます(中学〜高校時代の私もそうでした)。理解してくれる人がいない、相談できる人がいない以前に、世間のフォビアを内面化し、スティグマに苦しめられ、自身の性的指向や性自認をなかなか受け容れられないのです(精神的に追い詰められ、自ら命を絶ってきた方もたくさんいます)。そうした当事者の苦しみに寄り添い、自尊感情を高め、PRIDEを持つことができるよう支援していくことが最も大切なことだと、私は考えています。LGBTQ支援とは「PRIDEを支援すること」でもあるのです。「PRIDE JAPAN」にはそのような気持ちも込めています。
 
「PRIDE JAPAN」の立ち上げを5月17日(国際反ホモフォビア・バイフォビア・トランスフォビアの日)としたのも、そういう意味です。

「PRIDE JAPAN」のロゴマークの下に示してあるバナーについて、レインボーカラーよりも色数が多いけど何だろう?と思った方もいらっしゃることでしょう。これはプログレス・プライド・フラッグを表しています。LGBTQイシュー(社会的課題)は性にまつわることだけに取り組めばよいというわけではなく、人種的多様性をはじめ、貧困のことや、HIVのこと、障がいなど、様々なテーマとインターセクショナルな関係にあります。2021年の今、これを無視してPRIDEを掲げることはできないのではないか、という気持ちです。



 最後に。当面、後藤が一人で編集・ライティングに携わっていきますので、お伝えできる情報量にも限りがありますし、あらゆる方面に目配りのきいた完璧なサイトとは言えないかもしれませんが(何か問題があればご連絡ください)、もしも欧米のサイトのような潤沢な…とまではいかなくても、もう少し予算があれば、レズビアンやバイセクシュアル、トランスジェンダーの方なども企画やライティングに参加していただき、LGBTQコミュニティの多様性や豊かさ、より深い事柄を表現できるような、理想的な編集部を目指していきたいです。今は難しくても、いつかは…と夢見ています。もし、PRIDE JAPANの趣旨に賛同してくださる方は、応援していただければ幸いです。

 

2021.5.17(日本でIDAHOの運動が始まってから15周年となる日を祝して)
後藤純一

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