事例紹介
vol.9 キャスレーコンサルティング
記事日付:2018/11/08
企業のLGBTの取り組み評価指標である「PRIDE指標 2018」において、2年連続でシルバーを獲得したキャスレーコンサルティングさんは、“お客様のビジネスにITで経済的価値と社会的価値を創り出すCSV x IT カンパニー”です。
LGBTの取り組みとしては、研修の実施や制度の整備に加え、イベントへの出展、映画祭開催など、様々な取り組みをされています。インタビューではCSV企画部 CSV/CSR推進室部長の前田大地さんに、取り組みのきっかけや内容、今後についてお話を伺いしました。
●キャスレーコンサルティングのこれまでの取り組み
・LGBT等の性的マイノリティに関する方針を明文化し、弊社コーポレートサイトで開示
(ダイバーシティ&インクルージョン https://www.casleyconsulting.co.jp/about_casley/vision/)
・社内のコミュニティ(CAP:Casley pride)の活動
・アライの活動をサポート(ダイバーシティ研修を受講した希望者にアライバッチ配布など)
・性的指向または性自認に関連した相談
・採用担当者を含む人事部門への研修の実施
●LGBTの取り組みを始めたきっかけ
-御社がLGBTの取り組みを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
弊社は社員の9割がエンジニアで、一日中デスクに座って集中して仕事をするということもあり、心理的安全性※が保たれていないとパフォーマンスを発揮しづらいのではないかという考えから、社員の多様性(ダイバーシティ)を尊重し、それぞれの長所を活かし、短所を補うインクルーシブな組織を目指しています。LGBTもダイバーシティのひとつとである、として取り組みを始めました。
※心理的安全性とは
チームのメンバーひとりひとりが、チームにおいて、本来の自分を安心してさらけ出し、気兼ねなく発言できる雰囲気や状態を表す心理学用語。
米グーグルが、2012年から行った労働改革プロジェクトの結果、社員の生産性を高める唯一の方法である、として2016年に発表した。
●LGBTの取り組みに対する社内の反応
-LGBTの取り組みを始めるにあたり、社内の反応はいかがでしたか?
弊社のビジョンには「社会課題をITで解決する」という言葉が含まれているので、そこに共感して入社するメンバーが多いです。そのためLGBTなど様々なマイノリティに関する社会課題に関心が高い人が多いので、LGBTを受け入れやすい素地があると思います。
最初は取り組みに対して反対意見も少しはあったのですが、社内の理解が進んでいくうち自然となくなっていきました。
●取り組みを始めて最初に行ったこと タスクチーム発足~LGBT研修
-御社ではLGBTの取り組みに関して、最初はどのようなことをされたのでしょうか?
最初は、社内で有志によるタスクチームを立ち上げ、そういった活動がLGBT研修に繋がっていきました。対象は人事部門、営業部門で、LGBTの基礎知識と、LGBT当事者への配慮として使わない方がよい言葉や、アウティング(本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露すること)などについて1時間程度行いました。
LGBTの取り組みは継続することも重要なので、その翌年には採用を担当する管理職と人事部門を対象としたLGBT研修も行いました。
-最初のLGBT研修を人事部門、営業部門向けに行われたのはなぜですか?
人事部門に関しては、労務管理などで社員のプライベートについて知る機会も多いですし、採用業務では社外の方と接することも多いので、受講してもらいました。
営業部門に関しては、クライアントと接する際に必要な知識であるため受講してもらいました。
お客様先でも、エンジニアに安心してパフォーマンスを発揮してほしいと考えていますので、そういったクライアントを見つけることができるよう、営業部門にも研修を受けてもらっています。
-LGBT研修を受けられた方の反応はどうでしたか?
LGBT研修では初めて知ることも多かったようです。職場での会話でも「彼女いるの?」と聞くことってよくあると思うのですが、「『彼女』と異性愛を前提とした質問をすることで気分を悪くする人もいる」という話をしたところ、「今まであまり考えていなかったけど、確かにそうだと思った」といった感想もありました。
最初は戸惑いもあったようですが、正しい知識を学べてよかった、といった意見が多かったです。
-LGBT研修のプログラムで工夫していることなどはありますか?
LGBT当事者ではない人からすると、LGBTは自分とは関係ない話のように思えてなかなか理解が難しかったりします。そこで、身近な話題や共感しやすい例えば話などを用いています。
最近わかりやすいと好評だったのは、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についての話です。「アンコンシャスバイアス」と聞くと難しく考えがちなのですが、実はいろんな場面で多くの人が感じていることです。例えばエンジニアの場合だと、よくエンジニアは機械に強いと思われて、「冷蔵庫壊れたから直して」と言われたりするんです(笑)。その話をしたらみんな、「あるある!」と反応してくれて。「確かにそういった偏見を持って話をされると気分が悪かったりする」と言ってくれました。
その他に、LGBT当事者の方の職場での悩みとして、「社内でカミングアウトしていないので同僚との会話で嘘をついたりごまかしたりする必要があり、ストレスになる」といったことがあると思います。そういったことを体感できるようなグループワークもしています。
例えば、私は離島の出身なのですが、最初に周りの人に島のネガティブなことをあえて言ってもらうんです。そのような状況では離島出身であることを話しづらいので、出身地を聞かれたときに適当に「池袋」と答えたとします。そうすると「自分も豊島区だよ、どこらへん?」とつっこんだ質問をしてくる人もいて、苦し紛れに嘘をついたりごまかしたりする必要がでてきます。
こういったワークを取り入れることで、マイノリティを体感でき、ダイバーシティ&インクルージョンの大切さを感じてもらうことができています。
-常駐型のエンジニアについて質問なのですが、「クライアントにもLGBTに関する配慮をしてもらう必要があるので難しいのでは」といった企業もあるかと思うのですが、御社の場合はどうですか?
断られることもあるかもしれませんが、クライアントとの信頼関係があればそんなに難しいことではないかなと思います。
トラブルを防ぐには、派遣される側の社員とのコミュニケーションも重要だと思います。どういった配慮が必要かを聞き、クライアント企業ではそれにどこまで応えてもらえるか伝え、納得した上で業務を始めることで、トラブルを防ぐことができるかと思います。
●LGBTに関する制度の整備
-では次にLGBTに関する社内制度についてお伺いしたいと思います。御社では制度の整備はどのように進められたのでしょうか?
参考にしているのはPRIDE指標※です。PRIDE指標の評価項目に沿って、できることから順に整えていきました。
2017年に初めてPRIDE指標でシルバーを獲得した際には、全社総会(キャスレー会)にてでは評価された取り組み内容について発表もしました。
※PRIDE指標とは
任意団体「work with Pride」が2016年に策定した、日本初の職場におけるLGBTなどのセクシュアル・マイノリティへの取組みの評価指標。
●LGBT研修以外の取り組み内容(アライ活動のサポート、映画祭、LGBTイベントへの出展)
-LGBT研修以外に御社ではどのような取り組みをされていますか?
アライの活動サポート、映画祭の開催、LGBTイベントへの出展などを行っています。
●アライの活動サポート
ダイバーシティ研修を受講済の希望者にオリジナルアライマークがプリントされたバッジを配布している。
▼キャスレーコンサルティングのアライマーク
●映画祭
「多くの人が社会的課題に触れ、考えるきっかけを作ってもらいたい」とのことから、定期的に「恵比寿ソーシャル映画祭」というイベントを主催。2018年10月に行われた第22回では、10月11日の国際的な「カミングアウトデー(NCOD:National Coming Out Day)」に向けて「パレードへようこそ」を上映。映画上映後にはLGBT当事者とのトークセッションも行った。
●RAINBOW CROSSINGTOKYOに出展
認定NPO法人ReBit主催のイベント「RAINBOW CROSSING TOKYO 2018」に初出展した。
※RAINBOW CROSSINGとは
複数のLGBTアライ(LGBTに理解があり支援する)企業がブースを出展し、LGBTアライ企業での就業に興味のある人が訪れるイベント。今年は東京大学の安田講堂で行われ、約800人の企業担当者、LGBT当事者などが参加した。
-RAINBOW CROSSINGに出展してみていかがでしたか?
出展してよかったと思えたことはいろいろあったのですが、中でも「ニーズを知れた」、ということが大きかったと思います。
これまでダイバーシティに着目して、すべての人が働きやすくなると考えて、取り組みを進めてきましたが、効果を数値で測るのは難しく、LGBT当事者からのニーズがどの程度あるのかもわかりにくいということがありました。
ですが、実際にイベントでたくさんのLGBT当事者の方とお話すると、LGBTアライ企業で働きたいと考えている方がたくさんいるということを実感できました。
イベント当日に話をした中で、「御社なら自分も働くチャンスがあるかもしれない、と思った」という方が何人かいらっしゃいました。残念ながら現在の日本国内では、LGBTアライ企業というと大手企業が中心です。LGBTアライ企業であっても、LGBT当事者だから採用試験で優遇されるわけではないので、就職先と考えたときに「自分には難しいかも」と思う人は少なくないと思いますし、自分も当事者だったらそう思います。そんな中で大手だけでなく中小企業がLGBTアライだと発信することで、より多くの方にLGBTに理解ある職場で働くチャンスを提供できているのでは、と思いました。
弊社がこれまでLGBTの取り組みを行ってきたこと、イベントに出展したことなどは、社会的価値があることだと、改めて実感できてとても嬉しかったです。
●LGBTの取り組みを始めたことでの社内の変化
-2015年からLGBTに関して様々な取り組みをされてきて、社内の変化を感じることはありますか?
LGBTの正しい知識を持つ社員は増えてきたと思います。今年から管理職試験でLGBTに関することも取り入れていて、例えば「部下とのコミュニケーションでアイスブレイクとして、『彼女いるの?』と聞くことに関してどう思うか」などのケーススタディを題材にしたディスカッションをしています。こういったケーススタディを積み重ねることで、社内の会話で「彼女」や「彼氏」を「パートナー」と表現するなど、LGBTを理解し配慮しようとしている人が増えてきていると感じます。
-では最後に今後についてお伺いできますか?
社内のLGBTの理解促進を今後も継続していき、より多くの社員に正しい知識を持ってもらえるようにしたいと思います。
社外に向けては、「社会課題をITで解決する」というビジョンのもと、システム面で何かできることはないかと考えています。そのひとつが労務管理システムです。先日ある企業の方から「社内書類の性別欄の選択肢に、男女以外に『その他』を追加したけれど、システムが対応していないので結局男女どちらかを選択して登録しなければいけない」というお話を聞いて、弊社でも力になれるのではと思いました。弊社は保育園向けのシステムも提供しているのですが、「保護者に外国人の方もいるので、『ふりがな』を『英語表記』にしてほしい」という要望があり、そのようにシステムを変更したことがありました。多様な要望を取り入れながらシステムを開発することは可能なので、弊社でできることを実現させていきたいと考えています。
-ありがとうございました!
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