事例紹介

vol.13 三洋化成工業

記事日付:2020/05/12


2018年からLGBTに関する取組みをはじめて2019年には東京、名古屋、大阪などのプライドイベントへ参加し、任意団体「work with Pride」が策定しているPRIDE指標、で最高評価を受けた三洋化成工業。今回は代表取締役社長の安藤孝夫さん、ダイバーシティ推進部の吉住恵美さんにお話しをお伺いしました。

三洋化成工業のこれまでの取り組み

1. Policy(行動宣言)
・ハラスメント防止規定、従業員行動指針の中で性的指向、性自認を明記しての差別の禁止
・自社ホームページやメディア取材の中でLGBTに関する取組みについて発信

2. Representation(当事者コミュニティ)
・東京、名古屋、大阪などのイベントへの参加をよびかけ、有志で参加
・社内・社外に相談窓口を設置
・「 LGBT ALLY シール」「名刺にはれるレインボーシール」を提供しアライの可視化

3. Inspiration(啓発活動)
役員・人事部門、総務部門、管理職など優先と思われる階層や部門から研修を開始。全従業員へのハラスメント防止研修も実施
・イントラ社内報を通じて継続的な発信

4. Development(人事制度・プログラム)
・福利厚生制度において、同性パートナーを配偶者とみなして制度適用。
・就職時のエントリーシートの性別記入欄は、自認する性別が記入可能
・男女ともに制服(作業着および白衣)を統一化し、選択が可能。

5. Engagement(社会貢献・渉外活動)
2019年は、東京レインボープライド、名古屋レインボープライド、関西レインボーフェスタなどへの参加

LGBTに関する取組みをはじめたきっかけは

(安藤社長)これまでの昭和の高度成長期のようなワンパターンの仕事に従事する人材では、これからのグローバル競争に勝ち残ることはできないと考えています。ですから、人手不足解消のためだけでなく、それ以上に「多様性」を活かすことが重要だという思いが強くあり、まずは女性の活躍推進に取り組んできた中で、LGBTへの取り組みを始めたのは、フェアでないことが嫌いという思いからです。
これまでLGBTという言葉は知っていても、LGBTは本当に特殊な一部のことと思っていました。ある講演会で偶然に知ったのですが、私の認識が全く違っていて、人口の約9%がLGBT当事者だそうで、当社の従業員2000人のうち9%というと180人。私はここ数年「従業員一人ひとり全員が誇りを持って自分らしく働いてほしい」と言い続けていたのですが、男女だけのことではないという認識が欠落していたことに気づいたことが取り組みのきっかけとなりました。

担当者と言われた時はいかがでしたか?

(吉住さん)「どうしよう。私にできるのか。」これが素直な感想です。 数年前から「LGBT」という言葉は耳にしていました。いつかは当社でもLGBT当事者の方が働きやすい環境づくりについて取り組みを始めなければいけないだろうと。でもその「いつか」がいつなのかは自分の中でもわからずに過ごしていた時でした。 担当と言われたと同時に、上司・労働組合と一緒に勉強を始めました。まずは、担当者である私がLGBTについて理解をすること。そしてどれくらいの時間をかけ、どんな取り組みをどんな順に進めていけば良いのか、確認するところから始めました。そんな中、アウト・ジャパンさんで開催されているセミナーを知り、すぐに受講させていただきました。

LGBTに関する取組みを実際に推進し始めてみたらどうでしたか

(吉住さん)これまで「LGBTは特別」だと思ってしまっていた自分の考えが大きく間違っていたことに気づき、恥ずかしくも思いました。自分の中の「当たり前」が当たり前ではなかったこと、当事者の方と話をすればするほど、その思いは強くなりました。
そして、「LGBT」と一括りにできることではなく、当事者の方1人ひとりが違う思いを持って、長い間悩んでこられたことなどを知りました。当事者の方の思いを多く知ることで、それが個性であり、その個性を活かすことがダイバーシティの推進、そのためにより一層、働きやすく働き甲斐を感じられる会社にならなければいけないと思いました。

一方でカミングアウトを強制することも良い事ではありません。当事者ではない私にとっては、当社の取り組みが本当に正しいのか、取り組みを進めることが逆に当事者の方を苦しめているのではないか?など、思い悩むこともよくあります。1人ひとりが働きやすく働き甲斐を感じられる職場、誰もが望む生き方ができる社会になれば素晴らしいなと思います。
私がこの仕事をしていることへの周りの反応ですが、子供は最近、学校でも当事者の方の話を聴く機会があったりしてすんなり受け入れてくれ、「当たり前」と思ってくれていそうです。パレードにも一緒に参加してくれました。

大人の理解を得ることのほうが難しそうです。繰り返し繰り返しの発信と、理解を深めるための研修やイベントなど、今後も継続的に実施することが必要だと思っています。

社内での同性パートナーシップ制度についておしえてください

(吉住さん)当事者の方がどんなことを望んでいらっしゃるのか、それに対して会社はどこまで制度を整えられるのか。
人事部労務担当者の力を借りて、まずは規定改定に関連しそうなキーワードを絞り込み、莫大な数の規定からどのような内容にすれば良いのか検討を重ねました。「配偶者」というキーワードだけでも関係する規定は11規定33条文53項目。

社長からは、できる限り異性婚の場合と同じ取扱いができる制度改定を..と言われていましたので、数百項目にもおよぶ改定に着手すべく取り組みました。アウト・ジャパンさんのアドバイスもいただきながら、ひとつひとつの制度を変更するのではなく、「用語解説」を作成することで、「配偶者には同性パートナーも含む」等を規定しました。当事者の方を特別扱いするのではなく、異性であっても同性であっても同じ条件で制度を適用するという主旨が「用語解説」となった経緯です。

トランスジェンダー向けにはどのような取組みをされていますか

―制服を男女で統一されたと聞きましたがー

(吉住さん)じつは制服については、当初、当事者の方を意識して統一したわけではありません。元々、男性モデルの作業服を女性も着用していましたが、やはり女性の体型には合わない。 女性の研究補助職だけが着用していた白衣を男性研究員も着用したい。そんな声が挙がったことをきっかけに、見直しをしました。
結果、性別に関係なく同じ作業服や白衣を選択することができるようになり、トランスジェンダーの方にも対応させていただけるようになりました。 だれでもトイレの設置は、社長の強い思いがありました。私も、アウト・ジャパンさんや当事者の方の声を聴くうち、トイレ問題は大変大きな問題であることを実感しました。社員だけでなく、お客様にも利用いただけるよう、まずは本社の応接室近くに設置しようと計画しています。‘20年度上期中の工事を予定しています。

アウト・ジャパン主催の「LGBT-Allyサミット」にも毎回、積極的に参加してくださっていますが、
どんなところにメリットを感じていますか?

(吉住さん)他社事例は、大変参考にさせていただいています。また、各社様で同じような悩みがあったり、どんな取り組みをすれば良いのかヒントをいただいたり、毎回が勉強です。
当事者の方と触れ合い、生の声を聞かせていただける企画など、初めて参加したときには良い意味で衝撃を受けました。
また、サミット自体の構成が堅苦しくなく「知りたいことに手が届く」ような工夫を感じたり、サミット後の懇親会では当事者の方も交えてより踏み込んだ話を聴かせていただくことができたりと、毎回が新鮮で情報満載です。
Allyサミットでお知り合いになった各社のご担当者様とは、サミット以外の場面でも情報交換をさせていただくこともあり、LGBTの取り組みを進めていく上での貴重なネットワーク形成の場となっています。

東京をはじめ各地のパレードに参加されていますが

(安藤社長)私は、従業員一人ひとりが、自分らしさを大切にしながら、誇りを感じる会社、より働きがいを感じる会社にしたいと考えています。
そのために、労働時間や残業時間の短縮が目的でなく、多様な人材が多様な価値観を持って働きやすい環境で働けるようにすることを目的に、トップダウンで、過去の慣習にとらわれず、徹底的に会社を変えてきました。結果として、労働生産性が上がり、労働時間を短縮できています。LGBTに関する取り組みに対しても、まだまだ役員・従業員の意識が低いので、指示や応援をするだけでなく、トップダウンで自ら先頭をきって行動しなければスピーディに推進できないと考え、各地のパレード等に積極的に参加しています。

パレードに参加する前と、参加した後での変化はありますか

(安藤社長)研修会等でLGBTに対する理解を深めているつもりでも、パレード等に参加して、実際に当事者の皆様と触れ合い、「特別」ではなく「当たり前」ということを感じ、当社でも取り組みをさらに推進しなければならないと感じています。
(吉住さん)社長と全く同じ気持ちです。取り組みを始めてから少しずつ感じていた「特別ではなく当たり前」。さらに気持ちが大きく変わりました。初めて参加した‘19年4月の東京レインボーパレードでは、もしかしたら私の方がマイノリティなのでは?という思いにもなったほど、そこでは「当たり前」でした。

―ダイバーシティ推進部が大きく変化したと聞きましたがー

(吉住さん)パレード当日は多くの当事者の方と触れる機会をいただけたことで、当社でもダイバーシティ推進部が先頭に立ってさらに活動を推進しなければならない、社員のみなさんにもっと正しく理解を深めてもらわなければならない、そう思いました。

―会社全体でも変化はありましたかー

(吉住さん)社内ボランティアを募って東京・名古屋・大阪などのパレードに参加しました。
回を追うごとに社内ボランティアの数も増え、参加されたみなさんからは、「これまで「特別」だと思っていたことがパレード会場では「当たり前」、パレードに参加してみたら自然と受け入れている自分自身に驚いた、会社が変わりつつあることを感じた」等の感想が寄せられ、少しずつではあるものの、会社としてLGBTに取り組むことへの理解が浸透してきていることを感じています。

最後に、課題と今後の取組みに関してはいかがですか

(安藤社長)トップダウンを強化し、LGBT当事者が働きやすい環境も整備し、また、全役員・従業員の理解を深めるために、映画会などを行ない、私自らも積極的に参加します。 トップダウンだけでは、なかなか風土は変わらないので、各部門でアライのリーダーを育成し、ボトムアップも強化していきたいです。

(吉住さん)まずは「正しく知る」ことだと実感しています。私自身がそうであったように、正しく知らないために「特別」だと思い込んでいることは多々あるのではないかと思います。社員のみなさんに正しく知ってもらうためにも、私自身がAllyとなり、より一層積極的に当事者の方と触れ合う機会を作ることや、周りの方に正しく知ってもらうための活動を進めていきたいと思います。

ダイバーシティ推進部としては一度やったら終わり…ではなく、継続した取り組みを社内に提案し続けることで、より理解を深めてもらい、ダイバーシティ推進部だけの取り組みに終わらず、社内にAllyが増える取り組みを進めていきたいと思っています。

LGBT当事者が働きやすい環境をつくる上で、「福利厚生制度の見直し」をしたり、「だれでもトイレの改修」を実施の予定ですが、ハラスメント防止やコンプライアンスの順守も大事だと思います。
昨年度は全社でハラスメント防止研修を実施しましたが、本当にハラスメントのある職場環境であれ ばそれは変えていかなければならないと思っています。

また、取り組みを進めていく上で難しいのは、トップダウンの取り組みだけではダメで、ボトムアップとの両輪で進めていかなければならないと思っています。トップダウンも強化しつつ、ボトムアップと合わせてこれからも改善を図っていきたいです。

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