事例紹介

vol.11 ライフネット生命保険

記事日付:2018/11/22


2015年に生命保険会社として 日本で初めて「死亡保険金の受取人に同性パートナーを指定できる取り扱いを開始」したことを公表し話題となったライフネット生命さん。今回はダイバーシティチームの一員として、LGBTに関する様々な取り組みを行っている、営業本部長の近藤良祐さん、経営戦略本部 経営企画部マネージャーの川越あゆみさんにお話を伺いました。


  ライフネット生命のこれまでの取り組み

1. Policy(行動宣言)
「採用マニフェスト」において、多様性を重視すること、および、性別、性的指向、性自認、性表現、国籍、学歴について不問とすることをウェブサイトで公開
ウェブサイトおよびオウンドメディアサイトにおいて、LGBT 等に関する情報発信を実施

2. Representation(当事者コミュニティ)
社内横断のダイバーシティチームによる LGBT への理解を促進する取組みを実施
ハラスメントの相談窓口を社内に設置するとともに、外部の専門機関にも相談可能な体制を確保

3. Inspiration(啓発活動)
外部講師を招き、従業員向けに LGBT への理解促進や社会情勢の変化に関する研修を実施
お客さまと電話で保険相談を行う担当者(保険プランナー)は適切なダイバーシティ研修を受講

4. Development(人事制度・プログラム)
採用応募時の性別欄は記載不要
異性間の婚姻に相当する関係であれば、所定の書類提出により、慶弔休暇が取得可能

5. Engagement(社会貢献・渉外活動)
レインボーフォトプロジェクト(児童向関連書籍を図書館等へ寄贈するプロジェクト)の継続実施
LGBT 当事者の意識調査~いじめ問題と職場環境等の課題~の調査委託および調査結果の対外発信

以上ライフネット生命ニュースリリースより抜粋


「同性パートナーを死亡保険の受取人に指定可能」としたきっかけとは

 -ライフネット生命さんは、2015年に日本で初めて「死亡保険金の受取人に同性パートナーを指定できる取り扱いを開始した」ことを公表し話題になりました。この取り組みを行うきっかけは何だったのでしょうか? 

死亡保険金受取人の指定範囲に「同性のパートナー」を指定可能とする取り扱いを開始したのは2015年なのですが、ダイバーシティチーム※1を発足し、検討を始めたのは2012年頃でした。
以前から「受取人に同性パートナーも指定できるか」という問い合わせを頂くことがありました。当社は2008年の創業以来掲げている「ライフネットの生命保険マニフェスト」の中で「多様性の尊重」を大切にしています。様々なマイノリティの方に寄り添ったサービスを提供しようという素地があり、「必要とされる方に必要なかたちで生命保険をお届けしたい」という思いから出発して検討することになりました。

 ※1ダイバーシティチームは、保険の事務、広報、人事のメンバーなど有志のメンバー計8名の構成。有志のメンバーは入れ替え制で、たくさんの方が活動に参加できるようにしているそう。毎年、年間の活動計画を立て、それに沿って活動を行っており、毎月1回の定例ミーティングを行っている。

▼ライフネットの生命保険マニフェストには「多様性の尊重」という言葉が入っている
https://www.lifenet-seimei.co.jp/profile/manifesto/ より一部抜粋


 「同性パートナーを受取人に指定可能」にあたって社内で議論したこと

-「同性パートナーを受取人に指定可能」にするにあたり、気を付けたことや、社内で課題として挙がったことなどはありますか?

 検討を始めるにあたり、まずは社内の理解が必要だったので、様々なデータを用いて説明しました。多様性を尊重する素地がある社風なのですが、サービスとして行うにあたってはどのくらいのニーズがあるのか、優先的に進めるべきかを検討する必要があったので、LGBTの人口や、日本での理解度はどのくらいなのか、ライフネット生命が取り組む理由など、データを使いながら説明しました。
具体的に検討を始めてから課題となったのは、他社で事例がないこともありリスクの計測が難しいという点でした。ただ、様々なリスクを想定して検討していくうち、受取人が同性パートナーに限られた問題というのはほぼないのではないか、ということに気づきました。
例えば「保険金詐欺に使われるのでは」といったリスクに関しても、他の受取人でもそういったリスクがないわけではなく、同性パートナーに限った問題ではありません。検討した結果、以前から事実婚の異性パートナーは受取人に指定できるようにしていたので、異性間の事実婚に準じる形として、受取人の指定範囲に同性パートナーも加えることになりました。 


ライフネット生命のLGBT社内施策とLGBTイベントへの出展

-社内のLGBT施策やLGBT関連イベントへの協賛も積極的に行われていますが、このような活動はいつ頃から始められたのでしょうか?

受取人に関する検討を始めた頃から同時並行で社内での取り組みも始めました。
本業のビジネスとして取り組むなら、社内のLGBTへの理解が必要不可欠です。LGBTの基礎知識、社会的背景などを社員が知らなければ満足のいくサービスをお客さまに届けられないということから、まずは全社員を対象にしたLGBT研修を行いました。
当社の研修は必修と、希望者のみと、2種類あるのですが、人事と相談してLGBT研修は必修としました。その後も定期的にLGBT研修を行っており、基礎知識だけでなく、様々なプログラムで実施しています。 

-LGBT関連イベントへの協賛はいつ頃から始められたのでしょうか?

初めて出展したのは2016年の東京レインボープライドです。同性パートナーを受取人に指定可能としたのが2015年11月だったので、そのプロモーションも兼ねて出展しました。

-東京レインボープライドだけでなく、地方のイベントにも積極的に出展されていますよね。

東京レインボープライドに出展した際に知り合ったLGBT当事者の方たちから、「『東京と地方ではLGBTの理解に差がある』と感じているLGBT当事者が多い。地方での理解促進のためにも地方での活動も行っては」といったアドバイスをもらい、ダイバーシティチームで検討して、出展できるイベントにはできるだけ出展しています。 


東京レインボープライドなどのLGBTイベント出展時に工夫していること

-LGBT関連イベント出展に関して、意識していることや、工夫していることはありますか?

出展準備はダイバーシティチームを中心に行っていますが、社内で参加者を募ってなるべくたくさんの方に参加してもらえるようにしています。活動に参加することも、LGBTの理解促進につながるからです。強制ではありませんが、学べることも多いので、休日にプライドイベントに参加する場合は出勤扱いにしています。
また、毎年東京レインボープライドにはその年の新入社員も全員参加してもらっています。 

▼パレードの様子
パレードはご家族の参加もOK。お子さんが自然に触れ合っている姿を見て、自分自身も以前よりも特別視することなくLGBT当事者の方と触れ合えるようになった、といった方もいるそう。
 

-LGBT関連イベントでは2016年度のPRIDE指標※2でベストプラクティスにも選ばれた「レインボーフォトプロジェクト」※3の活動を行われていますが、この活動はどういった経緯で始められたのでしょうか?

「LGBTに理解もあるし支援もしていきたい」、「LGBTの理解促進活動に賛同する」といった想いを形にする活動にしたい、ということからレインボーフォトプロジェクトを始めました。このプロジェクトでは、フォトブースに参加していただくことで当社が資金を積み立てます。その資金を使ってLGBT児童書を図書館に寄贈することでLGBTについて知ってもらう機会を提供できます。このように、活動を連鎖させていくことで、より広く多くの方にLGBTについて知り、理解してもらえるのではないかと考え、活動しています。

※2 PRIDE指標とは
任意団体「work with Pride」が2016年に策定した、日本初の職場におけるLGBTなどのセクシュアル・マイノリティへの取組みの評価指標。

※3 レインボーフォトプロジェクトとは
ライフネット生命が2016年に始めたプロジェクト。LGBT関連イベントでライフネット生命が出展するフォトブースで写真を撮影すると、1枚あたり100円を活動資金として当社が積み立てる。その資金を元に、ライフネット生命の取組みが事例として掲載されているLGBT児童書「もっと知りたい!話したい!セクシュアルマイノリティ ありのままのきみがいい」(日高庸晴著)を購入し、全国各地の図書館に寄贈している。
このプロジェクトは2016年のPRIDE指標でベストプラクティス(PRIDE指標運営委員会が特筆すべき(特に優れている、あるいはユニークである)と判断した事柄)に選ばれた。

▼レインボーフォトプロジェクトの様子
 


LGBT施策を行うことに対する社内の反応・変化

-LGBTの取り組みを行うことに対する、社内の反応はいかがですか?

同性のパートナーを受取人に指定可能とした後の社外の反応は予想以上に大きく、メディアにも多数取り上げられ、お客さまからもたくさんポジティブなコメントを頂きました。社内でメディア掲載情報やお客さまの声を共有していくうち、「LGBTの取り組みは社会で必要とされている、価値があること」という認識が高まっていったと思います。 
また、LGBT研修やLGBT関連イベントに参加することで、LGBTへの理解が深まってきていると思います。イベントに関しては参加することを純粋に楽しんでいる方も多く、社員ブログや社内SNSで「楽しかった」と投稿する方も多いです。それをみて「来年は参加してみよう」という方もいて、よい連鎖が起こっていると思います。 

-これまでLGBTに関する活動を続けてこられて、続けることでの社内の変化などありますか?

LGBT関連イベントに出展し始めたのが2016年で、PRIDE指標も初年度の2016年からエントリー(work with Prideのイベントには2014年から参加)しているので、それから3年程経っていますが、3年前から一緒に働いている社員と、入社1年目の社員では捉え方が違うなと感じます。3年間LGBTの活動をみたり、参加したりしている方は、LGBTの活動を特別視せずに、当たり前のこと、として捉えている方が多いです。

-LGBTに関する活動が「当たり前」になるためには、どのようなことが必要だと思われますか?

LGBTについて正しい知識を持つことと、LGBT当事者と接することを積み重ねることだと思います。当社でも研修やイベント出展を続けてきていますが、続けることで理解がより深まってきていると思います。 

▼ライフネット生命の社内にはレインボーフラッグなどがたくさん飾ってある


 LGBTの取り組みを始めたことによる社外の変化(採用・ブランディング)

-LGBTの取り組みを始めてよかったと感じるのはどんなことでしょうか?

よかったことはたくさんありますが、中でも影響が大きかったのは、ブランディングと、採用です。
「同性のパートナー」を受取人に指定可能とする取扱いを開始した後、LGBT当事者や当社ご契約者の方々から「サービスを開始したと知って感動した」、「受取人を同性パートナーに変えたい」、「当事者ではないが、ライフネット生命に加入していることを嬉しく思う」といった賛同の声を多数いただきました。メディアでも取り上げられることが多く、露出がかなり増えたので、ブランディングとしての効果が非常に高かったです。
採用に関しては、応募したきっかけとして「LGBT関連イベントに出展しているのを見た」「LGBTの取り組みに共感した」という方が増えました。LGBT当事者ではない方からも「LGBTの取り組みを行っている会社は先進的だと思う」「ダイバーシティが進んでいて、自分らしく働けると思った」といった理由で志望してくださる方が多いです。今は採用が難しくなっているので、大企業と比較すると苦戦することもあるのですが、LGBTの取り組みを行っていることが他社との差別化になっていると思います。 

-あまりないかとは思いますが、LGBTの取り組みを行うことでのデメリットはありますか?

デメリットはないですね、もしあったとしたらやめていると思います。


これからのLGBTの活動について

-では最後に今後についてお伺いできますか?

LGBT研修、ダイバーシティチームの活動、レインボーフォトプロジェクトなど、現在行っている活動を今後も継続していきたいと思います。やはり継続することが大事なので、改善することはあっても、止めることなく続けていきたいです。
また、以前大学と共同で行ったLGBT当事者を対象とした調査から3年程経っているので、再度調査を行いたいと思っています。

-ありがとうございました!



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