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厚労省運営の精神疾患情報サイトの性同一性障害の記述に批判が殺到し、削除されました

記事日付:2020/07/10

 厚生労働省の精神疾患に関するWebサイト「みんなのメンタルヘルス」の「こころの病気を知る」の中に性同一性障害のページが残っていたことに対してインターネット上で批判の声が上がったり、抗議した方も多かったそうで、厚労省が8日、このページの説明文を削除し、「改修中」としました。担当者は「ご意見やご指摘を重く受け止め、説明文を削除しました。現状においてより適切な表現は何か、様々な報告などを見ながら修正を進めています」としています。
 

 もともと掲載されていた性同一性障害についての説明は以下の通りです(2012年時点の文章だそうです)

「女性なのに、自分は「本当は男なんだ、男として生きるのがふさわしい」と考えたり、男性なのに「本当は女として生きるべきだ」と確信する現象を「性同一性障害」と呼びます。このような性別の不一致感から悩んだり、落ち込んだり、気持ちが不安定になることもあります。性同一性障害については、まだ理解が進んでいるとはいえず、診断や治療ができる病院も多くはありません。そこで、性同一性障害とはどのような病気であるのか、その症状や治療法、法的側面等について解説します。」

 
 特に批判が多かったのは、最後の「性同一性障害とはどのような病気であるのか」という記述です。
 SNS上では「病気と扱われていたのは昔のことでしょう。抗議させていただきました」「もし深刻に悩んでいる当事者がこの記述を見たら、崖から突き落とされそうな気分になる」「適切な説明になっていない。厚労省の理解が進んでいないことがわかった」「病気と分類することで差別を煽る」「『なのに』は嫌だ。病気扱いも嫌だ」などと批判が相次ぎました。
 
 一般社団法人fair代表理事でオープンリー・ゲイの松岡宗嗣さんは、厚労省が性同一性障害を「病気」と記載していたことについて、「情報を更新せず掲載していたのだと思う」とコメントしています。
 松岡さんは、今回の件の問題点を2つ挙げています。
 1つは「生まれた時に割り当てられた性別と異なる性自認の人たちを一括りにして『性同一性障害』としている点」です。
「近年では、生まれた時に割り当てられた性別と異なる性自認の人たちをトランスジェンダーと言い、厚労省の委託調査では、トランスジェンダーのうちの約15%が性同一性障害という診断を受けています。逆に、約8割は性同一性障害という診断を受けていないのです」「当事者の中には性同一性障害という精神疾患であると認識することで自分自身を受け止められたという人もいますが、性別と異なる性自認の人たちを「精神疾患」として一括りにしたことが問題です」 
 もう1つの問題点は、「女性なのに『本当は男なんだ』の「なのに」という言葉の使い方など、生物学的な性を本質であるかのように記載し、当事者に対して否定的な考えを助長する表現を使ってしまっている点」です。
 一方で、松岡さんは、批判を受けた後の対応の早さについては、評価しています。
「公式サイトのページを「改修中」と非公開にした判断は早く、厚労省としても、問題意識をしっかり受け止めたということではないかと思う」「厚労省という、情報のソースとしても使われるような、正しい情報が掲載されている(と思われている)影響力の高いサイトで、適切でない情報が掲載されていることは問題。早急に情報をアップデートし、次に公開される際は適切な情報を広く届けてほしいと思う」

 
 現在厚労省で改修作業が行われているそうですが、そもそも日本では戸籍上の性別の変更を求めようとすると「性同一性障害」という精神疾患の概念に基づいた性同一性障害特例法に則って行う必要があるため、ここで「性同一性障害は病気ではありません」と言ってしまうと論理矛盾が生じることになります…作業が難航するのではないかと想像されます。
 奇しくも今日、7月10日は、17年前に性同一性障害特例法が国会で成立した日です。埼玉医科大学が性別違和に苦しむ方々のために性別適合手術を行うようになったこと、虎井まさ衛さんらがメディアに出て訴えるようになったこと、『金八先生』で上戸彩さんが演じて社会的認知が広まったこと、当事者の方たちの国会議員への働きかけなどの活動が実を結び、2003年、性別違和に苦しむ方々を「性同一性障害」と定義し、いくつかの要件を満たせば戸籍上の性別を変更できるとする性同一性障害特例法が国会で可決・成立しました。要件は(1)20歳以上であること(2)現に婚姻をしていないこと(3)現に子がいないこと(4)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(5)その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていることの5つで、特に(3)の「子なし要件」は、子どもがいる限り永久に性別変更できないという非常に残酷なもので(絶望し、自殺する人もいらっしゃったそうです)、批判の声が高まり、のちに(3)現に未成年の子がいないこと、と改定されました(それにしても、「子なし要件」があるのは日本だけです)
 昨年、人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」が、性別変更を望む人に断種を強要する現行法を「早急に」改正すべきだと訴える声明を発表しました。本当は手術はしたくないが(愛する人と結婚するために)性別をどうしても変えたいと、手術に踏み切る当事者の方、「あまりにも壁が高すぎる。ただ生きているだけなのに、どうしてこんなに精神や経済のリスクを背負わなければならないのか」と悩む当事者の方の声も紹介されました。大阪府立大学の東優子教授(ジェンダー研究者。LGBTQ関連の研究でも多大な貢献をしてきている方)も「戸籍性別変更の要件は、当初から人権侵害にあたると指摘されてきた」と述べています。
 Gender Identity Disorder(GID=性同一性障害)の概念は、2003年当時としては、たしかに国際的に採用されていたものでしたが、その後、アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」や世界保健機関の「国際疾病分類(ICD)」からGID概念が削除され、「Gender Dysphoria(性別違和)」や「Gender Incongruence(まだ定訳はないのですが、性別不合と呼ばれることが多いようです)」に変更されました。出生時に割り当てられた性別と自認する性別の食い違いという性別違和に苦しむことは、もはや精神疾患には該当しない、病気ではない、と見なされるようになったのです。同時に、世界的潮流としては、性別適合手術を受けなくても、あるいは医師の診断がなくても、公的書類の性別変更を認める国が多くなってきています。
 日本でもそろそろ、性同一性障害特例法を抜本的に見直し、アップデートする時期に来ているのではないでしょうか。

 

参考記事:
厚労省、性同一性障害を「病気」 ウェブサイト記載、意見受け削除(共同通信)
https://www.47news.jp/4992785.html
厚労省「性同一性障害」ページに「病気」「女性・男性なのに」 ネット問題視で改修へ(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2020/07/09389813.html
厚労省、性同一性障害を「病気」と公式サイトで表現。抗議殺到で改修へ。問題点は?識者に聞いた(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5f066024c5b6480493cb08a3
2003年7月10日 性同一性障害特例法成立 戸籍上の性別変更認める(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61317860Z00C20A7EAC000/

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