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韓国で同性愛者のプライバシー保護に配慮した匿名検査を導入後、検査数が8倍に上昇

記事日付:2020/05/14

 韓国では感染防止策が奏功し、数週間にわたり新規感染者がほぼゼロの状態が続いたことから、5月6日に外出制限令が緩和されましたが、7日、ソウル市竜山区の繁華街・梨泰院(イテウォン)のゲイクラブで集団感染が確認されたことを受け、一部のメディアが人権侵害とも受け取れる報道を行ったため、インターネット上でアウティングやゲイバッシング的な書き込みが横行し、専門家や政府、海外メディアなどが「防疫を妨害する態度」だとして一斉に批判しました。
 
 7日の国民日報は、陽性判定を受けた京畿道(キョンギド)龍仁(ヨンイン)に住む29歳の男性がイテウォンのクラブを訪れたという報道に「ゲイクラブに感染者が立ち寄った」とのタイトルを付け、彼の居住地域や勤務先の職場情報まで明記しました。この記事が出た後、同様に「ゲイクラブ」を掲げた記事が相次ぎ、ネット上には該当する感染者の性的指向を推定する書き込みや、「ゲイはコロナが怖くないのか」「感染者はゲイということだな。同性愛は精神病だ」などといったゲイバッシング的な書き込みが殺到したといいます。(なお、感染がわかった86人のうち8人は女性で、ゲイだけというわけではありません)(また、こちらの記事によると、当初報道されていた5軒のクラブだけでなく、新たに4軒のクラブでも感染が起こっていたことが確認され、実は早くからイテウォン一帯で「静かな伝播」が広がっていた可能性が提起されています)
 感染者の訪問場所がゲイ関連かどうかは防疫の本質とはかけ離れているだけに、これを前面に出した報道やアウティングは、クラブに立ち寄った客たちを萎縮させ、検査を阻害し、防疫活動の妨げになるとの批判の声が、すぐに上がりました。
 7日、韓国のLGBT団体「行動する性的マイノリティ人権連帯」は声明で「感染者の性的指向を公開して疾病と関係ない情報を調べるのに血眼になったメディアの同性愛嫌悪的態度は、疾病にスティグマを付与している」「これは疾病を潜伏化させるだけで、予防と防疫のいかなる助けにもならない」と批判しました。

 高麗大学九老病院感染内科のキム・ウジュ教授は「イテウォンのクラブの訪問者の3分の2が連絡がつかず、集団地域社会感染が懸念される」「『新天地事態※1』の時に学んだように集団全体を罵倒すれば検査を受けるべき人たちが隠れてしまい防疫には役立たない」と述べました。「特定人物の移動経路を公開せず感染者が訪問した場所と時間だけを公開し、プライバシー侵害を最大限防いでこそ検査を避ける感染者を減らせる」
 檀国大学心理学科のイム・ミョンホ教授は「韓国では性的マイノリティに対する認識が少数宗教に対する認識よりもさらに否定的。新天地※1の時も教会信者が感染の事実を隠したが、性的マイノリティも同じように萎縮する」と指摘しました。「イテウォンのクラブに感染者が立ち寄った後に性的マイノリティの性行為を強調する情報がオンライン上に多く飛び交っている。そのようなことをすればするほど隠れる感染者が多くなり、『第二の新天地』事態を生む可能性がある」 
 翰林大学江南聖心病院感染内科のイ・ジェガプ教授は「徹底した防疫のため、移動経路公開そのものには問題はない。特定集団を非難する報道と社会の雰囲気が変わらなければならない」と述べました。
 嘉泉大学吉病院のオム・ジユンシク教授(感染内科)は「クラブの感染者のうち、性的マイノリティは、検査を受ける過程や自己隔離過程で自身のセクシュアリティが公にされてしまうかもしれないという恐怖感を抱いている。社会的非難、差別とヘイトの対象になることに対する恐れを理解し、選別診療所などで、イテウォンのクラブを訪問したかどうかは尋ねも問いつめもしないほうがよい。調査を早く進めなければ感染の範囲や伝播力の強さを測定できない」と述べました。
 
※1 2月中旬に大邱(テグ)市の新興宗教団体「新天地イエス教会」の施設で2000人超のアウトブレイクが起こった事件
 
 外信もこの問題に関心を見せました。英『ガーディアン』紙は8日、「韓国の一部メディアの報道以降、同性愛嫌悪的な反発が増加している」と報じ、米『ビジネスインサイダー』誌は9日、「韓国は同性愛を法的に禁止せず性的マイノリティを受け入れる雰囲気が広がってはいるが、依然として差別も広く拡散している。韓国の厳格な追跡モデルが性的マイノリティを追い詰めるとの恐れを呼び起こしている」と報じました。ブルームバーグは12日、「韓国が新型コロナを抑制するのに役立っていた『出てきて検査を受けるように』という戦略が今、「障害」と向き合っている。それは韓国の長い間の「同性愛嫌悪症(ホモフォビア)」だ」と評しました。※2

※2 韓国では2017年5月、陸軍普通軍事法院(軍事裁判所)が、私的空間で業務上関連のない、合意された相手と性的関係をもった同性愛者の軍人(大尉)に禁錮6ヶ月の「有罪」を宣告しました(判決を聞いて大尉は倒れ、病院に運ばれたそうです)。また、6月には韓国軍が同性愛者の一斉摘発を行ったと報じられました。この事件は韓国のゲイ・バイセクシュアル男性を震え上がらせ、深い傷(トラウマ)になっています。この差別的な事件は「同性愛嫌悪の魔女狩り」として国際社会からも非難を浴び、国連からも改善の勧告が出ています。韓国で行われるLGBTQのプライドパレードでは必ずと言っていいほど宗教関係者たちによるアンチ同性愛の活動(時にはパレードの妨害も)が行われ、ホモフォビアの根深さを物語っています。
 
 こちらの記事によると、性的マイノリティ当事者のAさん(31)は「陽性判定を受ければ強制的に『アウティング』されるのと変わらない。親や友人に性的マイノリティであることを明らかにしていない立場では、新型コロナウイルスによるアウティングが当惑するほかない」と語っています。
 
 チョン・セギュン首相は10日、新型コロナウイルス中央災害安全対策本部会議で「特定のコミュニティに対する非難は防疫の観点からは助けにならない」と述べ、「接触者が非難を恐れて診断検査を忌避するようになれば、その被害は私たちの社会全体が背負い込むことになる」と強調しました。
 韓国保健局は11日の記者会見で、感染者の個人情報を流出させたり、根拠のないうわさを広めたりする行為は犯罪として処罰の対象になりうると警告を発しました。

 韓国のLGBT団体は9日、ソウル市疾病管理課と面談し、当事者の感情を伝え、匿名で検査を受けられるように求めました。これに先立ち、コミュニティのメンバーに「防疫指針をしっかり順守するとともに、われわれゲイコミュニティが持つ脆弱な問題点に対しては積極的に政府や防疫当局に要求しなければならない」というメッセージを伝え、不安に応える電話相談窓口も設けました。

 ソウル市は11日から匿名検査を開始しました。
 
 これを受けて、LGBTのタレントから検査への呼びかけも行われました。
 2000年に初めてゲイであることをカムアウトし、仕事を干されたり、厳しい中傷に堪えながら苦境を乗り越え、現在もゲイ・セレブとして活躍しているホン・ソクチョンは12日、「今は勇気を出すべき時だ。LGBTは基本的に自分のアイデンティティを家族や知人、社会に知られることを恐れているのは事実だ。だから勇気が必要だ。長い間イテウォンにいる人間として、今回のことは本当に残念だし不安だが、何より今も検査を受けておらず、連絡がつかない人たちがとても多いということが最も懸念される」「もちろん、『アウティング』に対する不安が大きいというのは誰よりもよく知っているが、今は何よりも本人や家族、そして社会の健康と安全が優先だ。幸い、匿名保障検査が可能だということなので、今すぐにでも検査を受けなければならない」とコミュニティに呼びかけました。
 同様に韓国で初めてのトランスジェンダーの芸能人となったハ・リスも12日、「自分一人くらいと考えず、みんなのために診断検査を必ず受けてください! 今検査を受ければ匿名保護が可能だというので、積極的な協力をお願いします」と呼びかけました。
 
 ソウル市長は14日の会見で、匿名検査を導入後、検査数が急増したと明らかにしました。先週の1日当たりの検査数が約1000件だったのに対し、12日には8300人以上が検査を受けたと発表、「匿名性を保証すれば、自発的な検査の奨励につながることが証明された」と報道陣に述べました。
 
 中央防疫対策本部は、動線公開範囲のガイドラインを改正し、集団感染が起きた営業所の情報は全て公開する一方、感染者個々人の動線については、訪問した店の名前などは公開しないよう通達しました。

 今回、一部のメディアや人々のゲイバッシング的な動きに惑わされることなく、専門家や政府、ソウル市当局が、防疫の観点からきちんとゲイの人たちのプライバシー保護に配慮した政策を進めることができたのは、とても理性的で正しい対応だったと評価できるでしょう。ゲイコミュニティもそれに応え、検査を呼びかけ、実際に検査数が急増するという結果につながって本当によかったです。
 日本でも今後、緊急事態宣言解除後に、もしかしたら同様のケースが発生するかもしれませんが(そうならないよう、二丁目の人々は十分、注意すると思いますが)、当事者のプライバシー保護に配慮した政策こそが防疫上の効果を上げるのだということを、ご承知いただければ幸いです。
 
 


 
参考記事:
性的少数者がターゲットに…韓国コロナ感染者動線公開で人権侵害(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/40314
性的少数者の烙印を押されるのでは…コロナ検査を嫌がる梨泰院のクラブ客たち(朝鮮日報)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/05/11/2020051180002.html
「クラブ発コロナ、時間との戦い」…匿名検査の全国拡大を検討(ハンギョレ新聞)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/36611.html
「コロナアウティング」恐れて隠れる人たち…「第2の新天地事態を懸念」=韓国(中央日報)
https://japanese.joins.com/JArticle/265800
韓国政府、感染と同性愛者の関連めぐる臆測報道に警告(CNN)
https://www.cnn.co.jp/world/35153633.html
韓国のコロナ戦略、性的少数者への偏見が壁-ナイトクラブで集団感染(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-12/QA73JFT1UM0X01
韓国「コロナ再拡散で同性愛への嫌悪増加」=ソウル“梨泰院クラブ”集団感染(WoW!Korea)
https://www.wowkorea.jp/news/Korea/2020/0513/10258512.html
韓国ナイトクラブで集団感染、差別への警戒感から追跡難航(ロイター)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200512-00010011-reutv-kr
「勇気を出して新型コロナの検査受けて」 ホン・ソクチョンがLGBTに呼び掛け(朝鮮日報)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200513-00080096-chosun-asent
“韓国初トランスジェンダー芸能人”ハリス、梨泰院のクラブ訪問者らに「みんなのために積極的に検査協力を」(WoW!Korea)
http://www.wowkorea.jp/news/enter/2020/0513/10258533.html
韓国、コロナ匿名検査導入で実施数急増 同性愛者に配慮(AFPBB News)
https://www.afpbb.com/articles/-/3282940
クラブ集団感染で2.4万人が検査 匿名制導入後8倍に=ソウル市(聯合ニュース)
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20200514000600882
防衛当局「ウイルスの匿名検査を拡大」 梨泰院集団感染受け(KBS)
http://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=75769


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