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【一橋大学アウティング裁判】 訴えを棄却する判決に対し、「アウティングが不法行為であるかどうかという判断すらしていない」「学校や職場における当事者の安全に関わる問題だ」など批判が噴出

記事日付:2019/02/28

 ゲイであることを同級生に暴露された後、差別を受ける不安から心身に変調をきたし、学校の相談室に相談するも性同一性障害のパンフレットを渡されるなど理解ある支援を受けられず、最終的に校舎から転落して自死した一橋大法科大学院の男子学生(Aさん)の両親が2016年、大学に損害賠償を求めて訴えを起こしていましたが、この訴訟の判決が2月27日に下されました。東京地裁の鈴木正紀裁判長は「大学側は転落死を予見できなかった」「安全配慮義務や教育配慮義務に違反したとは認められない」として遺族の訴えを棄却しました。
 
 傍聴席では多くのLGBTやアライの方々も見守っていて、鈴木正紀裁判長が「原告の訴えを全て棄却します」と淡々と話すと、傍聴席にはため息が漏れたそうです。「アウティングが不法行為にあたるか」などの議論には一切踏み込まなかったことが、原告や支援者を落胆させました。
 
 いわゆる一橋大学アウティング事件と訴訟の概要、問題の本質については、こちらをご覧ください。
 2018年1月、Aさんがゲイだとアウティングした同級生と遺族の間で和解が成立しましたが、一橋大学に対する訴訟は継続していました。遺族側は、亡くなったAさんが同級生と同じ授業に出席すれば発作を起こす危険があったのに、大学側はクラス替えをせず、安全配慮義務を怠った、と主張しましたが、東京地裁は「学生は大学のハラスメント対策委員会に対し、クラス替えを希望しない決断をしていた」として「大学に安全配慮義務違反はなかった」と退けました。
 
 判決後、霞が関の司法記者クラブで、遺族代理人の南和行弁護士と吉田昌史弁護士が会見を開き、「今回の判決の最も残念なところは、アウティングが不法行為であるかどうかという判断すらしていない点です。そもそもアウティングの本質的な問題は、個人のデリケートな問題である性的指向を暴露したことで、人間関係が壊れるということです。その重大さに判決は一切、触れていません。表面的な判断で、大学側の責任がなかったと言ってしまっている」と語りました。 
 吉田弁護士は判決について、このように語りました。
「裁判では一貫して意図せずアウティングされることの危険性を訴えてきたつもりです。アウティングは人を死に追い込む危険がある加害行為。そうした不法行為が学内で行われたというのを前提に、大学にはどのぐらいの危険性があるのかを判断してほしかった。
 若者がひとり、命をなくしている。そこに踏み込まなければ、「今現在同じことが起こった時に、大学は同じ判断をするんですか」ということになってしまう。
 訴訟が始まってから他の大学でもいろいろな動きがあった。代理人としては不本意な裁判所の姿勢でした」
 続いて南弁護士は、ご遺族のコメントを代読しました。
「(提訴から)今日までの2年半にわたり、ずっと気にかけてくださり、応援してくださり、さらに社会の問題として情報を出してくださり、そして何よりも亡くなった本人のように、思いを寄せてもらい、ありがとうございました」
 亡くなったAさんのお父様の「人が一人、亡くなった事実があったのに、今日の判決はうわべだけで判断しているように思う。この訴訟があってから、大学がどんどん変わっている中で、他の大学から笑われるような内容じゃないか」という言葉や「日本の司法はそんなものか」と落胆する妹さんの言葉も紹介していました。お母様は「今は言葉もありません」とおっしゃっていたそうです。
 そして、涙をぬぐいながら、こう語りました。
「彼のお母さんお父さんは、裁判のたびにこう話していました。「本人の気持ちも一緒に法廷に来ているから。弁護士にはなれなかったけど、あなたの裁判だよ」と。
 この裁判が勝つか負けるかよりも、裁判所が「アウティング」をどう捉えるか、その本質を気にされていました。
 「目指していた弁護士にはなれなかったけれど、本人の生きたことが日本の裁判の歴史の中で大きな基準になるような判決になれば、夢は果たせなくても意味はあったんじゃないかな」それがご両親の思いでした。
 「アウティング」は集団の中で人間関係がガラッと変わってしまうこと。しかし裁判では表面的な判断しかされなかった。私達、原告代理人も残念でなりません」

 一橋大は「引き続き、マイノリティーの権利の啓発、保護に努める」とのコメントを発表しています。

 ご遺族が控訴するかどうかは現在、検討しているところだそうです。

 なお、裁判でAさんの死を知った2016年8月、一橋大学4年の学生2人が「彼は自分だったかもしれない」「絶望を感じる学生がもう二度と出ないように」との思いで、学内にサークルを立ち上げたそうです。彼らは「学校関係者から差別的発言を受けたこともある」と学内での体験を語りながら、「判決は残念だが、少しでも関心を持ち身近に当事者がいると考える人が増えてくれれば」「同じような事件が起こらないよう、未来の新入生のためにサークル活動を続けてくれる後輩が出てきてほしい」と語りました。

 SNS上には「ひどすぎる」「涙が滲んでくる」「差別禁止法もなく、アウティングからも守られないのだとしたら、どうしたらいいのか」「要するに私たち性的少数者はこういった場合はみんな死ぬべきであると言われたんだ」「一橋大学の事件があって、心ある大学関係者の間では、二度とこういう事件を起こさないための取組みが広がった。つまり、適切に対処すれば本件は防げたという感覚の共有がある。その感覚と差別防止法もない現行制度との間に大きな乖離がある」「LGBTに限らない問題だ」などの声が上がっています。
 
 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部の清水晶子教授(フェミニズム、クィア理論)はTwitter上でこのように判決を批判しています。
「一橋アウティング裁判、裁判所への意見書執筆者として、私は大学側対応に明確に問題があったと考えています。今回の裁判所判断の理由と妥当性については詳細の報道と専門家の解説を待ちますが、これが教育の場や職場における性的少数者の安全に関わる問題だということは、改めて強調したいと思います」
「「鈴木裁判長は/大学が指導していたとしても、「暴露が発生しなかったとは言えない」とした」→ むしろアウティングが起きた後の対応が問題であって、アウティングが防げなかったかもしれないことは大学を免責するものではないと思う」
「「引き続き、マイノリティーの権利の啓発、保護に努める」という大学コメントもひどいと思う。大学が果たすべきなのは「マイノリティの権利」なるものの「保護(!)」ではなく、一般的な人権と尊厳の保障であり、それが侵害された時に被害を被害と認めできる限り回復に努めることだったはず」
 
 この後、法の専門家の方々が、この判決の妥当性について検証し、語っていくことと思われます。また続報をお伝えしたいと思います。
  
 
 

参考記事:
同性愛を暴露され…転落死 訴えた一橋大生側が敗訴(テレ朝NEWS)
同性愛暴露訴訟、肩すかしと批判 敗訴に遺族の代理人弁護士(共同通信)
学生遺族側が敗訴=転落死「予見できず」-同性愛暴露訴訟・東京地裁(時事通信)
同性愛暴露、一橋大の責任否定 転落死学生の遺族敗訴(日経新聞)
アウティング被害後に転落死 一橋大の賠償責任認めず(朝日新聞)
「彼は自分だったかも」同性愛暴露訴訟、一橋大・サークル活動で支援(毎日新聞)
「アウティングを肯定されたような気持ち 」一橋大生転落死、大学を訴えた遺族敗訴(弁護士ドットコム)
「日本の司法はそんなものなのか」一橋大アウティング事件、踏み込まぬ司法判断に遺族ら落胆(ハフィントンポスト)
ゲイだと暴露され学生が転落死、遺族の訴えをすべて棄却 一橋大アウティング事件(Buzzfeed)

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