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LGBT理解増進法の基本計画、内容が不十分だと批判の声

 1日にLGBT理解増進法で政府に策定が義務づけられていた基本計画の原案が3年近く経ってようやくまとめられたとのニュースをお伝えしていましたが、この基本計画が16日、閣議決定されました。

 2023年6月に可決・施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(以下、LGBT理解増進法)では、政府は理解の増進に関する基本計画を策定し、毎年1回、理解増進に関する施策の実施の状況を公表しなければならないと定められていましたが、基本計画は3年近くまとまらない状況が続いていました(その背景に何があったのか、こちらの記事で追及されています)。この6月1日にようやく原案がまとめられ、16日に閣議決定された基本計画は、LGBTQ+(性的マイノリティ)をめぐる現状について「認識は広がりつつある一方、生きづらさや戸惑い、不安を抱えている人もいる」「自らのSOGIに従って社会生活を営む利益は人格と結びついた重要で切実な法益」だと指摘し、国民の理解を着実に増進するため、学校、地域、家庭、職場などさまざまな場を通じて、重層的に多様性に関する知識を普及することが望ましいとしています。
 国や自治体が国民意識の把握に向けた学術研究を進めるほか、必要な知識の普及啓発や相談体制の整備を推進します。企業などには、性的マイノリティであることなどを理由に就職機会が制限されたりハラスメントを受けたりすることを防ぐための取組みを求めています。学校にはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを活用した相談体制の充実を図ることを求めているほか、教員や医療従事者を目指す学生らの理解促進に向け、大学にカリキュラム改定などを求めています。
 
 東京新聞では、取り組むべき施策の一つに教職員への知識の普及啓発も掲げられたことにフォーカスを当て、多様な性について教職員向け研修などに取り組んできた学校現場から「先生たちが学ぶ機会が充実してほしい」との期待の声が上がっている様子を紹介していました。東京都江東区立第三砂町小学校の浅野努校長は「教職員の対応や校内を見直すことが重要だ」「年度当初の研修や、図書、教材の充実は必要。基本計画ができて、子どもと関わる大人に向けた知識の普及の後押しになれば」と語っています。

 同紙によると、今回の基本計画策定について、一般社団法人にじーずの遠藤まめた代表は「地域によって研修の実施などにばらつきがある。地方で孤立する当事者が救われるように自治体は取り組んで」とコメントしています。
 多様性に関する施策に力を入れている東京都国立市の担当者は「行政担当者にとっては、最低限やるべきことが明確になり、施策を進めやすくなるのでは」と話しています。

 日経新聞は同日、基本計画決定のニュースだけでなく、「LGBTの理解深める活動を」との社説を掲載し、「遅れは否めないが、国民の理解を深める施策を着実に実行してほしい」と述べました。「基本計画に記された「生きづらさや戸惑い、様々な不安を抱えている人もいる」という指摘は重い。性的少数者は人口の約1割との民間調査もある。対応の遅れやばらつきによって当事者の孤立を深めるようなことがあってはならない。基本計画の策定を機に、活動を広く浸透させ、底上げする必要がある」「企業では人材のグローバル化が進み、多様性への理解や制度整備が人材確保に欠かせない。誰もが安心して能力を発揮できる環境づくりは社会の活力にもつながる。計画に基づく実効性ある施策と継続的な検証が求められる」

 LGBTQコミュニティ内では厳しい声も上がっています。
 LGBT法連合会は16日に声明を発表し、基本的な考え方に「自らのSOGIに従って社会生活を営む利益は人格と結びついた重要で切実な法益」と明記されたこと等は一定評価できるものの、学校における教育の実施についてほとんど記載がないことなどに触れ、「実効性ある施策が十分に示されているとは言い難く、懸念が拭えない」と指摘しています。(声明文はこちら
  
 TransgenderJapanも同日、声明で「重大な懸念を表明」しました。基本計画は「不当な差別はあってはならない」と繰り返しているが、実際に差別を受けた人が助けを求める法的な手段はどこにも用意されていない、また、「SOGIの多様性に関して国民の間に様々な意見がある」ことを強調し、「幅広い共感を得ながら」理解を進めるとしているのはLGBTQ+の人権保障を「多数派の賛成」に委ねるものであり、人権の基本的な考え方に反する、などと指摘し、さまざまな施策が「多様性の理解を広める」ことにとどまっており、LGBTQ+の人々がマジョリティとの間に置かれている社会的な不平等が全く考慮されていないとしています。(声明文はこちら
 
 一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんはYahoo!の「3年放置して不十分。LGBT理解増進「基本計画」が閣議決定」との記事で、「就活時の面接拒否や賃貸住宅の入居拒否など、性的マイノリティに立ちはだかる困難を解消するためには、明確な「差別禁止法」が必要だ。しかし実際には、差別禁止ではなく理解増進という骨抜きにされ、後退に後退を重ねた法律が、3年前に制定された。それにもかかわらず、政府は基本計画の制定すら怠り、理解増進の施策を進めることはなかった」と厳しく指摘したうえで、基本計画の内容について、「どのような性的指向も、それ自体は治療の対象とはならない」「性的指向やジェンダーアイデンティティを自らの意思によって変えることはできない」ということが明記されたこと、カミングアウトするかどうかは「第三者が強要するものではなく、本人が選択することである」とされたことなど評価できるポイントもあるものの、具体的な理解増進の施策がこの考え方を体現できている内容と言えるかどうかについては疑問だとしています。例えば政府の企業に関する取組みとしては、性的マイノリティの就職の機会が制限されることを防ぐために「公正な採用選考システムの確立」を進めることと、企業の取組事例を周知したりハラスメントについてパンフレット等を活用して周知することという、すでに取り組まれてきたようなことしか挙げられていません。学校の児童生徒への施策についても、「人権教育に関する調査研究や普及の事業を行う」と書かれているのみです。さらに、「SOGIは成長過程において変動があり得るもの」で、「若年層に対する普及啓発の際には、心身の発達に応じた対応が求められる」という文言が、理解を増進させないためのストッパーとして恣意的に用いられるのではないか、との懸念もあります。また、「インターネット上の誹謗中傷」をめぐる対策として実際に示されたのは「具体的な削除要請の方法等についてアドバイス等を行う」ことだけで、根本的な解決になっていないだけでなく、SNS上での理解を増進することすらしようとしていません。記事は、「LGBT理解増進法の制定過程では、トランスジェンダーに対するバッシングが拡散され、今やそうした言説は広がりきってしまったかのように浸透している。ネットニュースのコメント欄やSNSを開けば、性的マイノリティの権利保障に反対する言説や、当事者を揶揄する言葉を見ない日はない。何より、いつも遅々として進まず、このような言説を広めてきたのは政治ではないか。本来は民間の取り組みを後押しする役割のはずが、むしろポーズだけ示し、阻害する言説を煽り、取り組みは進めないというような状況が続いている。基本計画が閣議決定されたが、本当に計画が実行され「理解」が進み、何よりそれが現場の困難を解消できるのかどうか、注視し、検証していく必要がある」と締められています。

 6月17日、松岡宗嗣代さんや高井ゆと里さん(東京大学特任研究員)、五十嵐ゆりさん(レインボーノッツ合同会社)、木本奏太さん(Tネット)、みたらし加奈さん(臨床心理士/公認心理師)といったLGBTQコミュニティの方たちが「あまりに薄い内容で不十分だ」として共同で会見を開きました。
 松岡宗嗣さんは、学校での啓発についての教育施策の不備を指摘し、性のあり方に悩む子どもにとって知識を得ることは重要であると、「現実に起きている一人ひとりの当事者の困難に向き合い、エビデンス(証拠)に基づいた施策を」と訴えました。
 自身もトランスジェンダーである木本奏太さんは、インターネット上の中傷対策が削除要請方法のアドバイスにとどまる点を挙げ、「国がやるべきことは、そもそもヘイトスピーチを防ぐための具体的な対策だ」と批判しました。 
 また、相談体制のあり方についてみたらし加奈さんは「スクールカウンセラーに『いつかは普通になる』と言われた経験がトラウマになった人もいる。ただ相談窓口を設けるのではなく、専門職の継続的な育成の仕組みなどを盛り込んでほしい」と求めました。
 




参考記事:
LGBTの人などへの理解増進に向け初の基本計画決定 政府(NHK)
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015150871000
性的マイノリティーへの理解深める基本計画を決定 行政や企業が取り組むべきこと示す・・・「実効性に懸念」の声も(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/c3a973d87b58436f9e4c7c7a4b355191
LGBT理解増進へ 相談体制の充実など基本計画を閣議決定(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000512549.html
【速報】政府がLGBTなど性的少数者への理解増進へ初の基本計画を閣議決定(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2733796

「LGBT」初の基本計画決定 啓発推進、相談体制を整備(共同通信)
https://news.jp/i/1439399706745454954?c=302675738515047521?c=302675738515047521
LGBT、啓発・相談を拡充=政府、初の基本計画決定(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3799686
LGBT「重層的に知識普及」、相談体制を強化 政府が基本計画決定(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA160SJ0W6A610C2000000/
LGBT理解増進基本計画を閣議決定 「差別あってはならない」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20260616/k00/00m/040/006000c

LGBT当事者生徒の9割「担任に相談できない」…研修受けたことない先生が7割、教職員への啓発が急務(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/495403

[社説]LGBTの理解深める活動を(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK039Q30T00C26A6000000/

「不作為を問われても…」 LGBT基本計画、策定に3年の背景(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20260616/k00/00m/040/254000c

LGBT理解増進基本計画に憤り 支援団体「あまりに内容薄い」(共同通信)
https://news.jp/i/1439928061988012624?c=302675738515047521?c=302675738515047521
教育と中傷対策「あまりに不十分」=LGBT支援団体、政府基本計画に(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3801298
LGBT基本計画は「ハラスメント対策が不十分」 当事者ら会見(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20260617/k00/00m/040/323000c

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