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【婚姻平等訴訟】各地の新聞社が同性婚否定判決を批判
11月28日に東京高裁で出された「結婚の自由をすべての人に」東京二次訴訟控訴審判決について、各地の新聞社が「人権守る役割を放棄」などと批判する社説を掲載しています。
いち早く11月29日に社説を掲載したのが、信濃毎日新聞です。同紙はこれまでも繰り返し、力強く応援してくれています。
今回の社説は、「少数者の人権救済という司法の役割を放棄した判決である」と書き出し、「積み上げられた高裁判決をほとんど考慮せず、少数者の人権も顧みていない」「司法の本質的役割は「少数者の権利保護」だ。多数決が原則の国会に委ねるのでは、司法の存在意義はないに等しいのではないか」「国民の結婚観や家族観が大きく変化する中、時代感覚を疑う」と厳しく追及しています。そして国に対しても「最高裁が来年にも示す可能性がある統一判断まで、政府と国会が議論を放置することは許されない」と釘を刺しています。
11月30日には沖縄タイムス、愛媛新聞、山陰中央新報でも同様に社説が掲載されました。
沖縄タイムスは、「国民の意識と世界の潮流に逆行した司法判断だ」と書き出し、「当事者が置かれた現状に目を向けず、伝統的価値観に基づき国の主張を追認した判断に見える」「同性カップルが婚姻できないことで生じる不利益は大きく、不平等だとした5高裁の判断から大きく後退している」「同性婚の法制化を国会の立法裁量に丸投げしているようにも取れるが、国の議論が進んでいないことは確かだ」「今回の判決に原告の同性カップルから「私たちは存在しないものとして無視された」とする声も上がった。政治がそうした状況を放っておいていいのか」と批判。そのうえで最高裁には「国際社会の動きにも目を向け、人権を守るとりでとしての判断を求めたい」としています。
愛媛新聞も「原告らが主張する不利益や差別に正面から向き合わず、対応を立法府に丸投げしたと映る。司法の役割放棄と批判されても仕方があるまい」「原告側が「誤解と偏見に満ちており、社会の事実を全く見ていない」と反発したのはうなずける」として、「個人の尊厳に関わる人権問題との認識を国民が共有し、少数者の権利が守られる社会の実現を急がねばならない」と結んでいます。
山陰中央新報は、判決の中でも触れられた同性パートナーシップ証明制度について、全国の人口カバー率は9割を超えたが、「それは法改正が放置されてきたことの裏返しでもある」と指摘し(鋭いですね)、同制度では根本的解決にはならない、世論調査では7割が同性婚に賛成していると指摘したうえで、「当事者の人権を置き去りにしてはならない」と述べています。また、判決で「同性同士の人が憲法上『婚姻』の自由を保障されているとは言えない」と述べられた点について、「ならば、何ができるかを考える必要がある」と述べています。そして、所得税の配偶者控除や相続などは結婚でなければ実現しないことなど説明を続け、最後に「今のままでは、同性カップルらの切実な声に応えることができないのは明らかだ」と結び、全体として同性婚の法制化の必要性が読者にも伝わるような論旨展開になっていました。
12月1日には、朝日・日経・読売3社共同プロジェクト「あらたにす」の「学生は言いたい!」という学生がつくる学生のためのNews Debate Projectに「同性婚否定は「合憲」? 子どもを産み育てることが法律婚の目的なのか」という記事が掲載されました。きちんと判決文を咀嚼したうえで「そもそも法律婚とは、子どもを産み育てるための制度なのでしょうか」「本判決は、様々な生き方が見出されている今の時代を反映していないのではないでしょうか」と疑義を呈し、「現状を打破する手段が他にないから、原告らは司法機関の判断を求めているのです。人権を守る「最後の砦」であるはずの司法が、議論を国会に丸投げしてよいはずがありません」と批判し、「同性婚法制化の実現に弾みがつく最高裁判決が下されることを望みます」と結んでいます。明快で無駄のない、誰もが納得するような記事でした。
12月2日には、毎日新聞、東京新聞、中日新聞、南日本新聞に社説が掲載されました(中日新聞は東京新聞と同じ内容です)
毎日新聞は、「個人の権利より、社会の利益を優先させるかのような論理には、疑問を抱かざるを得ない」と批判し、「同性カップルは、性的指向を理由に差別的な扱いを受けている。婚姻届が受理されないため、税や社会保障、相続、親権などで得られるべき権利が保障されない」「何より、パートナーを配偶者として公的に認められないことで、尊厳を傷つけられている」と指摘したうえで、「審議すらしていない」国会の怠慢も追及、「これ以上、同性カップルの苦境を放置することは許されない。今後、最高裁の判断が示されるが、それを待たず法制化に向けた議論を加速させるべきだ」と結んでいます。
東京新聞は、「性的少数者(LGBTQ)が同性同士で結婚できない現状を容認し、差別や偏見を助長する判決だ」「国会では、同性婚を可能とする野党提出法案は審議されず廃案となってきた。政府も実現に向けた検討を棚上げしている。そうした現状を承知の上で、人権救済を政治の裁量に委ねるのは、司法が「人権の砦(とりで)」の役割を放棄したと指摘されても当然だ」と的確に指摘し、「最高裁の統一判断が来年にも予想されるが、人権に配慮し、同性婚の実現に道を開く判断を求めたい」「国会と政府は最高裁判決を漫然と待つのではなく、同性婚の法制化に向けた議論を始める必要がある」としています。
南日本新聞は、先日の高裁判決について「「私たちは存在しないものとして無視された」と当事者たちが落胆したのは当然だ。国民の意識と世界の流れに逆行し、少数者の人権を守る司法の役割を放棄した判決と言える」と厳しく批判し、国会に対しても「速やかに議論を加速させるべきだ」と述べ、最高裁には「同性カップルの切実な声に応え、「人権を守る最後のとりで」としての役割を果たすことを求める」としました。
そして今日、京都新聞が同様に社説を掲載しました。先日の高裁判決を直接批判することは避け、「最高裁は来年にも統一判断を示すとみられる。実情にそぐわない法の不備や、人権侵害の実態をどうとらえるのか。人権を守るとりでとして最終審の判断が問われよう」「これまで不作為を続けてきた政治の責任も改めて指摘したい」とするものでした。結びは「特別な権利ではなく、異性愛者と同じように結婚がしたいだけ」との原告側の訴えを受け止めたい」でした。
【追記】2025.12.7
日経新聞が6日の社説で「いたずらに最高裁の結果だけを待つようでは問題だ。政府・与党も当事者の声に耳を傾け、同性カップルが安心して尊厳を持って暮らせる法制度に向け議論を始めるべきだ」と述べ、国会や政府の場での真摯な議論を求めました。
高知新聞も6日に社説を掲載し、「今回の判決は現行制度を合理的とする国の主張を追認したと言わざるを得ない」「結果的に法改正を迫る判断を避け、国会の裁量に丸投げした印象が拭えない」「司法が人権を守るとりでとして役割を果たすことができたか、疑問が残る」と高裁判決を批判したうえで、「来年にも出される最高裁判断を待つことなく、国会は法整備に向けて速やかに議論を始める必要がある」「社会の多様化や国民の理解とは対照的に政治の動きは鈍い」「これ以上、議論を先送りすることはできない」として、国会での議論を促しました。
7日には熊本日日新聞も続きました。「高裁判決だけがこれまでの高裁判断とは異質に思える合憲の判断を示した」「性別も国籍も問わず、あらゆる人に関係する婚姻制度のあり方を限定的に捉え過ぎているのではないか」「今回の東京高裁判決が、現在では同性カップルの存在が社会的に広く受け入れられていることを認めながら、本質的な平等の実現に踏み込んでいない点は極めて残念である」と批判し、国会に対して「今からでも同性婚法制化をにらんだ議論に着手するべき」「民法、戸籍法など関係法令の具体的な改正へ、国会が主体的に動き出すべき局面だ」と訴えています。
なお、社説ではありませんが、日経新聞では、同性婚に詳しい早稲田大の棚村政行名誉教授(家族法)の「最後のとりで」である司法の役割を放棄している、というコメントが紹介されていました。
また、弁護士JPニュースは、今回の判決文の中でも最も批判が集まっている箇所の一つである憲法前文の引用について、「「憲法が、いわゆる同性婚の権利を保障しているか否か」というテーマとの関連性は一切論証されていない」「本判決が憲法前文の一節を、上記のような形で端折って引用し、「国民社会の維持」を強調したことの適否が論評の対象となることは不可避である」と指摘しています。
判決直後の旗だしで原告の山縣さんが「メディアのみなさんはこの判決をきちんと分析・批判してください」とお願いしていましたが、実際に多くのメディアや有識者が「司法の役割を放棄している」「人権を顧みない」「時代の変化に逆行する」「不利益に向き合わぬ判断を憂う」と述べ、その不当さを批判的に説く報道をしてくれました。
裁判所の判決だからといってそれがすべて正しいとは限らず、今回のように論理が破綻していたり、「なぜ同性カップルの排除が正当化されるのか」についての説得的な論証を放棄していたり(大畑弁護士)、論駁可能なのにあえて同性婚に反対する言説を寄せ集めて自己完結する世界を特殊に作り上げたり(慶應大駒村教授)ということが、信じ難いですが現実に起こってしまった、しかし、おかしいものはおかしいときちんと新聞や有識者が言ってくれていますし、これまでの5高裁ではしっかりとした論理で同性婚を認めない現行法は違憲だと判示してくれているわけですから、最高裁でも必ずやその論理を踏まえた適正な判断を示してくれると信じます。
希望を捨てず、あきらめず、Marriage For All Japanの活動を応援していきましょう。
参考記事:
〈社説〉同性婚訴訟 人権を顧みない合憲判決(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025112900089
[社説]同性婚訴訟「合憲」 時代の変化に逆行する(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1724387
[社説]同性婚訴訟「合憲」 不利益に向き合わぬ判断を憂う(愛媛新聞)
https://www.ehime-np.co.jp/article/news202511300006
論説 同性婚訴訟 速やかに法改正議論を(山陰中央新報)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/905126
同性婚否定は「合憲」? 子どもを産み育てることが法律婚の目的なのか(あらたにす)
https://allatanys.jp/blogs/28611/
社説 同性婚巡る判決と国会 尊厳守る議論を急ぐ時だ(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20251202/ddm/005/070/070000c
<社説>同性婚否定「合憲」 人権と向き合わぬ判決(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/453159
<社説>同性婚否定「合憲」 人権と向き合わぬ判決(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/1172630
社説 [同性婚否定判決]人権守る役割放棄した(南日本新聞)
https://373news.com/lineup/syasetsu/20251202/
社説:同性婚の判決 権利保護へ法整備急げ(京都新聞)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1611277
[社説]今こそ同性婚巡る国会議論を(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK048TX0U5A201C2000000/
【同性婚訴訟】議論の先送りはできない(高知新聞)
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/936546
<社説>同性婚訴訟 国会は不作為の瀬戸際だ(熊本日日新聞)
https://kumanichi.com/articles/1933440
同性婚訴訟、高裁で初の「合憲」判断 東京高裁判決 専門家の見方は(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD276TT0X21C25A1000000/
同性婚訴訟、高裁初の“合憲”判決で「5勝1敗」…法廷闘争は“少数者の砦”最高裁へ「尊厳を取り戻すための戦いだ」(弁護士JPニュース)
https://www.ben54.jp/news/2942


