NEWS

　米ニューヨーク州ロチェスター近郊の「ノースチリ合同メソジスト教会」で11月23日、牧師が礼拝の最中にトランスジェンダーであることをカムアウトしました。この模様を撮影した動画が同教会のFacebookで公表され、話題になりました。


　注目を集めているのはフィリッパ・ファヌーフ牧師です。礼拝でフィリッパは「私はトランスジェンダーです。最もいい言い方をすれば、私は『女性になる』のではなく『男性のふりをやめる』ということです」と語り、3ヵ月前からホルモン療法などの性別移行を始めたことを明らかにしました。また、性的指向はアセクシュアルであるとも語っています。
　教会はファヌーフ牧師の決断を全面的に支援しており、教会関係者や会衆からの肯定の声が相次ぎ、同教会の上級主教も支持を表明しているそうです。
　フィリッパはまた、自身の両親が支持しない立場であることも明かし、「でも、それでいいんです。私たち一人一人が自分らしく生きればいいのです」と語りました。性別移行後もイエス・キリストへの献身と奉仕の役割は変わらないとしています。


　合同メソジスト教会（UMC）は米国第二のプロテスタント教団で、原理主義ではない主流派（メインライン）としては米国最大規模の教団です。LGBTQの聖職者や同性婚をめぐって教団内で幅広い見方や立場が容認されつつ、対立もあり、キリスト教新聞によると「多様な聖書解釈を認め、牧会の自由さを誇りにしてきました」（教団として公式には認めない立場をとってきたそうです）
　2019年の総会で地方の教会がUMCを離脱できるようにする新しい方針が作成されたことを受けて、教団内で同性愛を容認しない立場の教会が多数、離脱しました（その多くが南部と南西部の男性牧師が率いる白人の教会だったそう）。総監督会議の議長であるトーマス・ビカトン監督は「むしろ今の状況は危機であるより教団全体を新しくする重要な起点になるであろう」と前向きな見方を示しましたが、教団内の反応はさまざまでした。
　2020年にはLGBTQの聖職者や同性婚を認めないグループが離脱して新教団を設立することが認められ、UMCが分裂することとなりました（この時点でもUMCとしてはLGBTQの聖職者や同性婚を認めない立場は変わっていませんでした）
　2021年にはインディアナ州エバンズビルの合同メソジスト教会のクレイグ・デューク牧師がLGBTQへの理解を呼びかけようとドラァグクイーンの姿でHBOの番組に出演し、解任されるという出来事がありました（解任に対し、オンラインでデューク牧師を支援する募金活動が行なわれ、6万ドル近くが集まったそうです）
　紆余曲折を経て、2024年の総会で正式に、LGBTQ聖職者と同性婚に関する制限を撤廃することが決議されました（米国聖公会との交わりというねらいもあったようです）
　
　このように、UMCではつい昨年、LGBTQが聖職に就くことが認められたばかりでした。今回のフィリッパ・ファヌーフ牧師のカミングアウトに際しても（以前であれば解任されていた可能性が高いですが）教団側が支援を表明したのは、そういう経緯があったのです。
　米国でも最大規模の教団の牧師のカミングアウトが与える影響は決して小さくないはずです。（米国では原理主義的な福音派の人たち等が激しくLGBTQを非難し、権利を奪ってきましたが）どんな信仰を持つ人々もLGBTQを理解・支援するような世界の実現に一歩近づくことにつながったのではないでしょうか。
　クリスマスを前に届いた素敵なニュースでした。


　
参考記事：
米ニューヨーク州の牧師が礼拝中にトランスジェンダー告白し話題に（日刊ゲンダイDIGITAL）
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/381482

アメリカの合同メソジスト教会の転機　同性愛と信仰の間での歩み（キリスト教新聞）
https://www.kirishin.com/2023/11/13/63196/

合同メソジスト教会が分裂へ　ＬＧＢＴ、同性婚めぐり　米プロテスタント第２の教団（クリスチャントゥデイ）
https://www.christiantoday.co.jp/articles/27570/20200106/united-methodist-church-leaders-officially-propose-split.htm

ドラァグクイーン姿でLGBTQ理解呼びかけた米牧師、解任へ（キリスト教新聞）
https://www.kirishin.com/2021/12/21/51973/

LGBTQ+めぐり合同メソジスト教会と米国聖公会の合同協議が進行中（キリスト教新聞）
https://www.kirishin.com/2024/06/06/66978/