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特例法の生殖不能要件は違憲だとの最高裁判断から2年が経ちましたが、法改正は実現していません

 性別不合(性別違和)に苦しむ人たちの戸籍上の性別変更について定める性同一性障害特例法の不妊化要件を「違憲で無効」だとした最高裁の決定から25日で2年が経ちました。法治国家として、立法府は最高裁の決定に従い、違憲とされた法律を改正することが要請されますが、国会では見直しを棚上げする異例の状況が続いています。
 
 
 議員立法によって制定され、2004年に施行された性同一性障害特例法では、戸籍上の性別を変更するためには、2人の医師による診断を得たうえで、(1)18歳以上であること、(2)現在未婚であること(非婚要件)、(3)未成年の子がいないこと(子なし要件)、(4)生殖機能がないこと(不妊化要件)、(5)変更後の性別の性器に似た外観を備えること(外観要件)という5つの要件を全て満たす必要がありました。

 2023年10月25日、最高裁は4号要件(不妊化要件)について「手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として、憲法13条が保障する「身体への侵襲を受けない自由」の過剰な制約に当たり、違憲であり無効だとする判断を示しました。15人の判事の全員一致の判断でした。ただし、5号要件(外観要件)については判断を高裁に差し戻し、判断しませんでした。
 この最高裁判断を受けて12月12日、法務省と厚労省は性同一性障害者の戸籍性変更に必要な医師の診断書に関し、現在の生殖腺機能に関する記載を不要にするとの通知を全国の自治体や関係学会に出しました。
 2024年7月、広島高裁は、特例法の外観要件を「違憲の疑いがある」とし、申立人の性別変更を認めました(詳細はこちら)。明確に違憲だとしたわけではなく(身体の状況によってホルモン療法を受けることが難しい当事者の方なども含めて救済されるわけではなく)、個別に申立人の性別変更を認めるものです。判決を受けてLGBT法連合会やTransgender Japanが声明を発しています(詳細はこちら

 最高裁は24年1月から、全国の家裁や高裁を対象に、性別変更に関する家事審判の状況を調査し、今年9月までに外観要件を違憲・無効とする5件の決定を確認しました。そのうちの1件は、9月19日の札幌家裁の判断です。
 しかし、これらは最高裁の判断ではないので、他の裁判所を縛る法的拘束力はなく、現行法の要件が無効になったわけではありません。上記の5件のように、家裁に申立てをすれば認められる可能性はありますが、性別変更を希望する人は原則、ホルモン投与や性別適合手術などを引き続き求められる状況にあります。
 
 朝日新聞の記事「憲法の「根本」13条違反の重大さ 最高裁が見せる権力抑制への意欲」によると、最高裁が法令の規定について憲法13条に違反すると判断したのは2023年の特例法不妊化要件のケースが史上初めてです。憲法13条は、個人をすべての価値の淵源とする日本国憲法の理念を示す、根本的な条文であり、13条違反と裁判所に断ぜられるような法律を立法府が制定することは極めて異常な事態です。
 本来、最高裁で違憲であるとの判決が下った場合、立法府(国会)は速やかに法令を改正する必要があります。しかし、最高裁判決から2年が経った今も、性同一性障害特例法の改正は実現していません。
 
 東京新聞の記事「性別変更の特例法「生殖不能要件は違憲」最高裁の決定から2年…でも国会は見直しを棚上げの状況で」では、今年7月に女性から男性への戸籍性の変更が叶った愛知県在住のつばささん(仮名)のことが紹介されています。「健康な体にメスを入れるのは違和感や不安があった」つばささんは、卵巣などの摘出手術に踏み切れなかったといいます。つばささんは2年前の最高裁判断に励まされ、法的性別変更に向けて動き始めます。申立てには医師2人の診断が必要ですが、「胸を取る手術」など関係のない手術を求められたり、事例がないと断られたりと、地元では受入れ先を見つけられす、東京都内のクリニックに約3ヵ月通い、成育歴やホルモン投与の経過を踏まえてようやく診断が出たそうです。
 同記事では「議員立法で成立した法律でありながら、国会では見直しを棚上げする異例の状況が続いている。保守色の強い高市早苗内閣が発足し、当事者や専門家からはさらなる先送りを懸念する声が上がる」とも述べられています。

 10月3日、沖縄タイムスは「外観要件「違憲」 性別変更の法改正急げ」と題した社説を掲載し、「心のままの性で生きられるよう、法改正議論を加速させなければならない」と訴えました。
「最高裁の違憲判決から2年がたつのに、政治の動きは鈍い。
 県内では先日、参政党の那覇市議が、市内のトランスジェンダーの児童生徒の人数や増減を市議会で質問。性自認について「伝染する」と差別発言をして問題となった。
 性的少数者の人権をどう守り、尊厳ある暮らしをどう提供していくのか。政治の役割が試されている。
 そのためにも法改正は不可欠であり、早急に動きだす必要がある。
 立法府に託された責任は重い」
 
 

参考記事:
[社説]外観要件「違憲」 性別変更の法改正急げ(沖縄タイムス)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1683450

性別変更の特例法「生殖不能要件は違憲」最高裁の決定から2年…でも国会は見直しを棚上げの状況で(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/444975

「生半可な気持ちではない」性別変更の外観要件、違憲判断が5件確認(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST9Z3FK7T9ZUTIL00KM.html
性別変更で外観要件「違憲」、家事審判で少なくとも5件 最高裁調査(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250930/k00/00m/040/301000c

憲法の「根本」13条違反の重大さ 最高裁が見せる権力抑制への意欲(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASSBY3G6CSBYUCVL010M.html

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