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米史上最悪のゲイクラブ銃撃事件を追悼するレインボーカラーの横断歩道が黒塗りに…
2016年にフロリダ州オーランドのゲイクラブ「パルス」で49人が亡くなった銃乱射事件…米史上最悪のヘイトクライムの犠牲者の追悼として翌年には「パルス」前の道にレインボーカラーの横断歩道が設置されました。しかし、この横断歩道が8月21日、当局によって黒塗りされ、LGBTQ+Allyコミュニティの怒りを買っています。
2016年6月12日、プライド月間のさなかに、銃乱射事件としてもLGBTQをターゲットにしたヘイトクライムとしても米史上最悪の事件となった「オーランドの悲劇」が起こりました。
「パルス」はバーバラ・ポーマが2004年、エイズで亡くなった弟のジョンへの思いを込めて、LGBTQコミュニティの礎となるような場所にしたいとして設立したゲイクラブでした。日替わりでいろんな音楽を楽しめるクラブであると同時に、毎月LGBTQ関連の教育イベントも行われていたそうです。Pulse(鼓動)という店名には、ジョンの鼓動が聞こえるようにという意味が込められていました。オーランドの老舗LGBTQクラブの方は、「単なるクラブじゃなかった。そこは足を運んで、コミュニティの助けを、必要な援助を受ける場所だった」と語っています。
事件があった土曜の夜は、トランスジェンダーの方が企画したラテンナイトが開催されていました。そこに銃を持った男が乱入し、無差別に銃撃、49名が命を落としました。LGBTQだけでなく、アライの若い方たちも含まれていました。犯人が亡くなっているため事件の真相(動機)は藪の中なのですが、おそらく、民族や宗教やいろんな面で生きづらさを抱え、挫折を経験していたクローゼットなゲイであった犯人が、内なるホモフォビアに支配され、世界を呪い、自身も通っていた「パルス」で体験した何らかの出来事への復讐として、あのような犯行に及んだのではないかと推測されています(詳しくはこちらをご覧ください)
この悲劇の翌年、2017年には、「オーランドの悲劇」のメモリアルとして、「パルス」前の道にレインボーカラーの横断歩道が設置されました。世界にはレインボーカラーの横断歩道がたくさんありますが、「the Pulse Memorial rainbow crosswalk」と呼ばれるこの横断歩道には、犠牲者を追悼し、悲惨な事件が風化してしまわないよう、世の中からホモフォビアがなくなって二度とこのような事件が繰り返されないようにという祈りが込められているのです。
(なお、事件から5年後の2021年には、バイデン政権によって「パルス」が国定記念建造物に指定されています)
そんな「the Pulse Memorial rainbow crosswalk」のレインボーカラーの部分が8月21日未明、フロリダ州運輸局(FDOT)によって突然、黒く塗りつぶされました。
この件を報じたBuzzFeedによると、米政権の運輸長官を務めるショーン・ダフィ氏は今年7月、全州の知事宛てに交通安全の強化に向けた対策を取るよう記した書簡を通知していましたが、それに補足する形で「納税者は、レインボーの横断歩道ではなく、安全な道路に資金が使われることを期待している。政治的な横断歩道は、公道にふさわしくない」とコメントしていました。
今回の件を受けてフロリダ州知事のロン・デサンティス氏(悪名高い「ゲイと言ってはいけない」法案を支持した当事者です)は、「国道が政治的目的のために占領されることは許されない」と述べ、レインボーカラーの横断歩道は「政治的」だと暗に批判しました。
一方、同州の上院議員でゲイであることをカムアウトしている民主党のカルロス・ギレルモ・スミス議員は現場を訪れ、「FDOTは真夜中に、市の横断歩道を不当に破壊し、レインボーカラーを剥がした」「最低の裏切り行為だ」と非難しました。
事件の前からオーランド市長を務めてきたバディ・ダイアー(民主党)は、横断歩道のレインボーカラーが取り除かれたことに「衝撃を覚えた」として声明を発表しました。「当時、わが国最大の銃乱射事件であった『パルス』のメモリアルの一部を、安全性についてのデータや議論もなく、いきなり撤去するというのは残酷で政治的行為だ」「この横断歩道は、メモリアルを訪れる多くの歩行者の安全性と視認性を高めるだけでなく、49人の犠牲者を追悼するというオーランドの決意を視覚的に思い起こさせる役割も果たしている」「レインボーの横断歩道は消えても、49人を称えるというわれわれコミュニティの決意は、決して揺らぐことはない」
黒塗りに怒りを覚えたLGBTQ+Allyコミュニティのメンバーは、この日のうちに横断歩道の黒塗り部分にチョークで色をつけ、レインボーカラーの横断歩道を復活させました。しかし、地元テレビ局によれば、8月24日、当局によって再び横断歩道が黒塗りされました。
この当局とコミュニティによる攻防は何度も繰り返されましたが、PinkNewsによると8月29日、州当局はチョークでレインボーカラーに塗り直していた4名の方たちを現行犯逮捕するという蛮行に及びました。逮捕されたうちの1人であるオレステス・スアレス(29歳)は、翌朝には「逮捕の根拠なし」として判事に釈放を命じられました。彼は地元メディアに対し、「何か巨大なものの力によって、プロテストであり仲間の人間たちへの愛を示す行為が重罪とされました。狂ってると思います」と語っています。
この事件の発端が、トランプ政権で運輸長官を務めるショーン・ダフィがレインボーの横断歩道を名指して「政治的」だと批判したことにあるのは疑いようがないでしょう。運輸長官が直接指示したわけではないにせよ、(州知事もアンチLGBTQである)フロリダ州の運輸局が、運輸長官のこの発言の意図を汲んで(忖度して)レインボーの横断歩道を黒塗りすることにしたのではないでしょうか。
バイデン政権で運輸長官をつとめていたのはオープンリー・ゲイで大統領選にも出馬していたピート・ブティジェッジでした(ピートはフロリダ州の「ゲイと言ってはいけない法案」に対して「LGBTQの若者が自殺を考えることにつながる」と批判していました)。政権が変わるとこんなにも変わってしまうのか…と愕然とさせられます。
レインボーカラーが“政治的”であるとして禁じられるケースは、ロシアや中国、カタール、マレーシアなどでも見られました。かつて「自由の国」と呼ばれたアメリカは今や、そういう国の一つになってしまったのです。
参考記事:
レインボーの横断歩道は「政治的」→運輸局が一夜にして黒塗りに。「最低の裏切り行為」と怒りの声(BuzzFeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/kaitotakashima/pulse-rainbow-crosswalk-removed-overnight
データが示す「路面アートの事故抑止効果」に反し、フロリダ州は一斉撤去へ(JAPAN ART news)
https://artnewsjapan.com/article/45074
Four people arrested after restoring Pulse memorial crossing’s rainbow colours(PinkNews)
https://www.thepinknews.com/2025/09/02/four-people-arrested-after-restoring-pulse-memorial-crossings-rainbow-colours/