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香港議会が同性パートナー法案を否決しました
2ヵ月前、香港政府が議会に同性パートナー法案を提出していましたが、9月10日、議会はこの法案を14対71の反対多数で否決しました。
10年以上前に米国で同性パートナーと結婚していた沙田区議の岑子杰(Jimmy Sham Tsz-kit)は2018年、同性婚が認められないのは香港基本法(憲法に相当)などに違反するとの訴えを起こしました。下級審は2020年9月と2022年8月にその訴えを却下しましたが、その後、最高裁への上告が認められました。そして2023年9月、香港終審法院(最高裁)は同性カップルの権利を保障する法的枠組がないのは違憲であり、同性カップルにも法的承認を与える「代替的な枠組み」が必要だとして、政府に2年以内に同性パートナー法を整備するよう求める画期的な判決を下しました。
この最高裁の判決を受けて今年7月2日、香港政府は同性カップルに一定の法的承認を与える登記制度(同性パートナー法)を設立する案を議会に提出したと明らかにしました。この法案では、海外で結婚もしくはシビル婚した18歳以上の同性カップルで少なくとも1人が香港在住であること、という要件が規定されていて、要件を満たしたカップルは、パートナーとの面会、医師から病状を聞くこと、臓器提供など医療に関する権利や、死亡診断書の取得、遺体の引き取り、葬式を出す権利など死後に関する権利が得られます。初めて訴訟を起こしたJimmy Shamは、議会に提出された法案は最低限の権利しか認めていない、特に海外で結婚したカップルだけに限定されているところが、と批判しました。「これは登記における平等という状況には程遠い。最高裁が要求したことに完全に従っているかどうか疑わしいものです」
7月7日には香港当局が同性カップルに対し、公営賃貸住宅と政府補助住宅の申請を許可することを決定したと報じられました。
その後、立法会(議会)で同性パートナー法案が審議されましたが、親中派議員の多くが「伝統的な家族の価値観を壊す」などの理由で激しく反対したそうです。そして9月10日の採決では、反対が71票、賛成が14票、棄権が1票となり、反対多数で否決される結果となりました。立法会は2021年の選挙で親中派が議席をほぼ独占するかたちとなっています。香港メディアによると、政府提出法案が否決されるのは21年選挙を経てできた議会では初めてです。
Jimmy Shamは声明で、「香港社会で同性パートナーシップに関して非常に極端な見解を持っている人がいるのはわかります。しかし2023年に複数の大学が共同で行なった調査では同性婚に反対した人たちの割合はわずか17%でした。どんな極端な反対派でも、この市民の意見を尊重しなくてはならないと思います。今回の同性パートナー法案のような穏やかで合理的な進歩の声さえも認められないのは残念なことです」「同性パートナーシップ法の立法が、同性カップルの権利を実現するための出発点になることを願っています。最高裁判決を遂行するため、同性カップルの平等な権利を守るため、そのような香港であると世界に示すためにも、政府と立法委員会が最大の責任感と勇気をもって前に踏み出すことを望みます。同性パートナーシップ法という出発点ができるだけ早く実現するよう、私もリーガルチームと協力して次のステップに進みます」と述べました。
「HK Marriage Equality 婚姻平權協會」も声明で「今日は香港にとって失望の日です。裁判所の判決が無視され、個人の尊厳が見過ごされるという厄介なシグナルを内外に送るものだからです」と述べました。
提案を主導した政制・内地事務局の曾鈺成事務局長は記者団に対し、結果は残念だが政府は決定を尊重すると述べました。当局は裁判所に対し、法改正期間の延長を申請せず、司法省と次の対応を協議するとしています。
ブルームバーグによると、香港政府はこれまで、この義務を履行する法的責任があると表明していましたが、今や法的に不安定な立場となりました。配偶者ビザ、公営住宅、トランスジェンダーの権利など、法廷が主導してきた香港のLGBTQ問題に関する一連の進展は、今回の否決により重大な後退を余儀なくされます。「最高裁の命令に逆らう形となり、法的な不確実性が生じている」「LGBTQ(性的少数者)コミュニティーに打撃となる上、国際的なビジネスや人材の包括的な拠点としての香港のイメージを損なうリスクがある」とも述べられています。
法案に賛成する議員たちは「法案を否決すれば香港の法の支配に対する評判が損なわれる」と訴えていました。最高裁が政府に同性パートナー法を整備するよう命令したことを受けて政府が(結婚と呼ぶには程遠い、ごくわずかな最低限の権利しか認めないものながら)同性パートナー法案を議会に提出したわけですから、議会は、法案の細かいところの修正などは議論するとしても、法案自体は承認するのが筋で、これを否決するのは最高裁の命令に背くことを意味し、近代国家の「法の支配」の原則を揺るがすことになるからです。法の支配とは、専制的な国家権力(議会の多数派を含む)による「人の支配」を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、市民の自由や権利を保障することを目的とする立憲主義に基づく原理であり、自由主義、民主主義とも密接に結びついています。香港議会の多数派は、香港にも海外で同性婚したカップルや、配偶者が同性である海外からのビジネスマンなどもたくさん暮らしているにもかかわらず、そうした市民の自由や権利を保障することよりも、“伝統的な家族の価値観を壊す”などという抽象的な(どこかで聞いたような)理屈を持ち出し、恣意的に権力を行使し、「法の支配」の原則を踏み躙ってでも差別を温存しようと動いた…「裁判所の判決が無視され、個人の尊厳が軽視される可能性があるという憂慮すべきシグナルを内外に送るもの」「国際的なビジネスや人材の包括的な拠点としての香港のイメージを損なう」と書かれているのはそういう意味でしょう。
参考記事:
同性カップル権利法案を否決 香港議会、親中派が反対(共同通信)
https://www.47news.jp/13136820.html
香港議会、同性パートナーシップ認める法案を否決-最高裁判決に背く(ブルームバーグ)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-10/T2DG0TGOT0K400
香港議会、同性パートナーシップ法案を否決 権利擁護団体は反発(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/china/JFLOAVSXHJJVTN27AHK6SBSK5A-2025-09-11/