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全国の不動産関連事業者を対象とした初の調査が実施、LGBTQに関する課題が浮き彫りに
全国の不動産関連事業者665社を対象とした初の調査で、LGBTQ+への対応状況に企業間で大きな格差があることや、LGBTQ+の多くが当事者のスタッフを選んで相談していることが明らかになりました。
住まい・不動産を中心にLGBTQのライフプランについて幅広くサポートするLGBTQ支援企業「IRIS」が2022年に当事者に行なったアンケート調査によると、当事者の49.3%が「当事者が住宅を借りたり買ったりするときに課題がある」ことを知っていると回答しています。一方、これまで不動産業界のLGBTQの課題に対する取組みは各社の自発的対応にとどまり、業界全体の対応状況は明らかではありませんでした。そこで今回、IRISの須藤啓光さんが代表理事を務める一般社団法人住宅みらい会議が、全国の不動産関連事業者を対象に、LGBTQ+への対応の実態を初めて調査し、結果を公表しました。
この調査の目的は主に以下の3点です。
1. 不動産業界におけるLGBTQ+当事者への対応実態を明らかにすることで、当事者の住宅課題の状況を把握するとともに、不動産会社にとってもレピュテーションリスクや機会損失を回避するための機会を創出すること
2. 居審査や契約・管理業務において、業界全体としてどのような配慮や取り組みがなされているかを把握し、標準的な対応レベルと現場における課題を可視化すること
3. 今後の改善施策立案に資するため、課題解決を阻む要因(障壁)についても併せて特定すること
この調査により、現状の業界の対応レベルがどこにあるのか、そして現場でどのような課題があるのかを明らかにし、さらに、これらの課題を解決するのを妨げている要因(障壁)も特定し、今後の改善策を考えるための材料として提供し、LGBTQ+の方々が安心して住まいを見つけられる社会、不動産業界で働く方の環境を整え安心して働ける職場環境づくり、そして不動産会社にとってもより良いビジネス環境を築くための一助となることを目指します、との趣旨です。
住宅みらい会議は今年5月、全国の不動産関連事業者にアンケートを投げ、665件の回答が得られました(調査方法の詳細についてはこちらをご覧ください)。回答者のうち当事者は17.45%だったそうです。以下、回答結果の一部をご紹介します。
・「あなたがお勤めの会社・組織では、多様な背景を持つ人が働きやすくなる制度・環境の整備が十分に行われていると思いますか?」との質問に対し、「まあそう思う」「非常にそう思う」は27.7%、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」は28.5%でした。
・「あなたのお勤め先の管理・所有・貸出を行っている住宅用の賃貸物件で、「同性カップル・トランスジェンダー当事者等のLGBTQ+当事者」から入居等の相談を受けた経験はありますか?」との質問に対し、「自分自身が相談を受けた」と答えた割合は6.6%、「自社で相談を受けたと聞いた」が14.6%、「自社以外で相談を受けたと聞いた」が8.6%、「相談を受けたことはない」が72.2%という結果になりました。当事者で「相談を受けた」または「社内外で相談があったと聞いた」割合が70%を超えており、非当事者の17%と比べ、格段に高くなっています。相談内容については「同性同士の入居相談」が39.6%と最多でした。
・「あなたのお勤め先の管理・所有・貸出している住宅用の賃貸物件は「同性のカップル」の入居を許可していますか?(収入など他の要因による審査基準に適合していることを前提とした場合)」との質問に対し、「全ての物件で入居を許可している」と答えた割合は30.2%、「ルームシェア可能な物件のみ許可している」が24.5%、「パートナーシップ証明など関係性証明がある場合のみ許可している」が21.1%、「全ての物件で入居を許可していない」が12.6%となりました。
こうした調査結果を受けて住宅みらい会議は7月24日、「LGBTQ+を取り巻く住宅市場最前線!」と題し、最新のLGBTQ+を取り巻く住宅状況をパネリストと共に解説し、企業の現状についても深掘りするイベントを開催しました。
イベントで住宅みらい会議の須藤啓光再評理事は「当事者が相談する際、当事者の社員を頼らざるを得ない構造が明確に現れている」と指摘しました。
須藤氏はまた、「首都圏では選択肢が増えつつあるが、地域格差は明確に存在する」として、豊島区で一戸建てを購入した際の近隣住民とのやり取りを紹介し、「差別したいのではなく、長い付き合いになる隣人として不安があるのだろう。町内会に参加し、地域とのコミュニケーションを積極的に取ることで理解を深めている」と語りました。
企業による取組みの事例も紹介されました。
積水ハウス不動産ホールディングスは、同社が管理する70万室のうち65万室がサブリース契約であることから、貸主としてLGBTQフレンドリー物件として提供しているそうです。賃貸企画室長の田中氏は「オーナー様からの反発は皆無。むしろ自然に受け入れられている」と語りました。
LIFULLのFRIENDLY DOOR事業責任者である龔軼群(キョウイグン)氏は、物件選択肢の格差について「全国の2人入居可能な賃貸物件は55万件あるが、ルームシェア可能物件は5万件のみ。同性カップルが通常の2人入居として受け入れられれば、選択肢は10倍に広がる」と提案しました。
登壇者らは今後の展望について、業界全体での連携の必要性を強調しました。
須藤氏は「マイノリティを特別扱いするのではなく、あくまでもフェアな社会を実現したい」と語りました。
不動産賃貸に関してはこれまで、SUUMOが2017年にフレンドリー物件を検索可能にするという画期的な取組みを行なったものの、それ以降も、賃貸物件の同意書に「LGBTの方は入居お断り」と書かれていたり、賃貸契約の同意書に「LGBTの方は家主への相談が必要になる」と書かれていたり、入居者の募集条件に「LGBT不可」という項目が表示されている物件があったり、といった残念な事例がいくつも報じられています。
須藤さんが指摘するように、しっかり取り組んでいる企業もあれば、依然として何もしていない企業もあり、大きな格差があると見られます。当事者も決して相談しやすい状況にはなく、「この人なら言ってもいいかな」と思える当事者のスタッフの方を選んで相談している様子がうかがえます。
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称「住宅セーフティーネット法」)では、低所得者や被災者(発災後3年以内)、高齢者、障がい者、子育て家庭などを「住宅確保要配慮者」と指定し、「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅」に公的補助を行なうことで要配慮者への支援を促しています。要配慮者は上記のほかにも、国交省令で外国人や被災者(発災後3年以上経過)を「要配慮者」と指定し、さらに都道府県や市区町村が供給促進計画において被爆者やLGBTQなどを「要配慮者」に指定することが考えられ、ほぼ全ての都道府県がLGBTQを「要配慮者」に指定しているそうです。そういう意味では、「要配慮者」であるLGBTQについて何もせずに差別を放置している不動産会社に対して、行政が何らかの後押しや指導をすることも考えられるでしょう(例えば研修を実施するなど)。住宅みらい会議との連携もできるのではないでしょうか。全国の不動産会社がLGBTQフレンドリーに変わっていくことを願います。
参考記事:
【イベント開催】不動産業界のLGBTQ+当事者への対応状況の全貌を調査!大和ハウス工業、積水ハウス、LIFULL HOME'Sから担当者が登壇(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000164807.html
不動産業界のLGBTQ+対応、企業間で大きな格差(リビンマガジンBizNews)
https://www.lvnmag.jp/news/lvn_magazinenews/31220/