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万博会場のオールジェンダートイレが注目されています
「People’s Living Lab 未来社会の実験場」をコンセプトに開催されている大阪・関西万博を象徴するものの一つとして注目を集めているのが「オールジェンダートイレ」です。万博会場には、主催者が管理するトイレが45ヵ所あり、うち18ヵ所に「オールジェンダートイレ」が設置されています。誰もが使いやすいことをめざしてつくられた「みんなトイレ」などもあります。そうしたトイレを利用した方の声や使い勝手を検証する記事がいろいろ上がっていますので、ご紹介します。
4月13日の毎日新聞の記事「万博のオールジェンダートイレに抵抗感 「数が少ない」との声も」では、誰でも利用できる完全個室型の「オールジェンダートイレ」の利用状況をレポートし、女性の中には抵抗感を覚える方もいるものの、男性やアジア系の女性は気兼ねなく使っているように見えたとしています。
4月15日の読売新聞の記事「万博トイレ4割「オールジェンダー」、性的少数者に配慮…「使ってみたい」「入りづらい」反応様々」では、NPO法人カラフルブランケッツの康純香理事長の「心と体の性が一致しない人は、トイレに入ることで周囲に嫌な顔をされ、公共トイレに行かないようにしている人もいる。世界的なイベントでの設置は、誰もが安心して暮らせる社会を目指すという点で素晴らしい」とのコメントを紹介しています。ユニバーサルデザインに詳しい東洋大の高橋儀平名誉教授は「混雑時や子どもの付き添いなども含め、誰もが使えるという認識を社会に広げないと、結果的に性的少数者が使いにくくなる。万博協会は周知に力を入れるべきだ」と指摘しています。
7月6日の共同通信の記事「万博の男女共用トイレ定着なるか LGBTQ配慮、敬遠の声も」では、「静けさの森」近くにある若手建築家が手がけたオールジェンダートイレをフィーチャー。一方通行型で、通路の両側に個室が並び、共用の手洗い場やサニタリーボックスも設置。建築的にも心理的にも誰でも使える空間を目指した設計です。利用者の声としては、「何も気にならなかった」と話す女性がいたのに対し、奈良県の20代女子大学生は「知らない男性が使った後は入りづらい」と吐露、男性からは「普通のトイレと雰囲気は同じ」(30代会社員)といった意見が目立ったそうです。
7月30日の朝日新聞の記事「万博会場に「オールジェンダートイレ」 本当に誰もが使いやすいのか」では、「静けさの森」のオールジェンダートイレをトランスジェンダーとXジェンダー(ノンバイナリー)の方が実際に使ってみた体験をレポートしています。トランス女性の由紀恵さん(仮名)は「すべての個室がオールジェンダーだから、そこを使う自分が際立たず使いやすい。利用者の性別が偏っておらず、自分も性別を意識しないで済んだ」と、Xジェンダーのひびきさん(仮名)は入り口と出口が別にあり、人が一方向に流れるように設計されている点を評価し、「トイレ内で女性とすれ違うのは気まずい。女性側も同じだろうから、出入り口が分かれているのは良い」と話していました。
8月10日の朝日新聞の記事「意識変革はトイレから 障がい、介護、LGBTQ…万博へ2年半議論」では、トイレに対する意識変革を促す「みんなトイレ」の設計に携わった電動車いすユーザーの六條友聡さんのことが紹介されています。大阪ヘルスケアパビリオン1階にある「みんなトイレ」は、8つの個室トイレから成り、おむつを替えるためのベッドを備えた個室、大型の電動車いすが旋回できる大きさの個室、異性の介助者の目線を遮るカーテンを設置した個室、利用者の利き手を考えて右や左に手すりがついた個室など、様々な需要に対応できるように設計され、どれも性別に関わらず利用できます。2022年春から始まった設計会議には、障がいがある人やLGBTQも当事者委員として議論に参加し、利用の「最適解」を模索したといいます。
OUT JAPANのセミナーやPRIDE JAPANの記事やメルマガなどでもたびたび、ジェンダーにかかわらず利用しやすいトイレのことをお伝えしてきました。
虹色ダイバーシティが実施した「LGBTに関する職場環境アンケート2015」ではトランスジェンダーの実に27%が排泄障がいをわずらっていることが明らかになりました。周囲からの(差別的な)視線を恐れて男女別のトイレを使えず、排泄を我慢してしまう方がたくさんいるということに衝撃を覚えた方も多いはずです。2016年頃からTOTOやLIXILなどのトイレメーカーがトランスジェンダーのトイレ利用についてアンケート調査を実施し、理想のトイレのモデル像を提案したり、様々な取組みを行なってきました。
日本では車いすユーザーや子ども連れの方、オストメイトの方などが使いやすい多機能トイレ(だれでもトイレ)はかなり普及しているものの、そこを使うと注意されたり、障がい者の方とすれ違って気まずい思いをしたりというハードルがあり、トランスジェンダーの方が利用しづらい現状がありました。そのため、世間で性の多様性への理解が進み、上記のような当事者団体やトイレメーカーの取組みの進展とも相まって、次第にオールジェンダートイレの導入が進むようになりました(2023年時点で主要100社のうち2/3がオールジェンダートイレを設置しています)
法人のサステナビリティ情報を紹介するサイト「coki」の「万博に登場した共用トイレ─「オールジェンダー」は社会に根づくのか」という記事では「オールジェンダートイレの導入が進んでいる背景には、いくつかの社会的な変化がある。まず、性の多様性に対する認識が広がったことが大きい。性自認が男性でも外見が女性的であったり、その逆であったりする人にとって、従来の男女別トイレでは不安や緊張を伴うケースがある。共用トイレはトランスジェンダーやノンバイナリーといったLGBTQ当事者だけでなく、子連れの保護者や高齢者介助にも有効とされる。性別によらず付き添える空間としての利便性が評価されているのだ。さらに、イベント会場や商業施設で起きがちな「女性トイレの行列」という構造的問題の解消にも寄与するとされ、都市設計の観点からも注目されている」と述べられています。オールジェンダートイレ導入の意義が的確に整理された記事でした。
今回の万博は、場内に18ヵ所ものオールジェンダートイレが設置されていることで、多くの人がそれを利用・体験する機会となり、困り事の当事者だけでなくそれ以外の人たちも「何も気にならなかった」「普通のトイレと雰囲気は同じ」といった感想を持ち(たとえネガティブな感想があったとしても改善すべき点として掬い上げられることでしょう)、今後、社会にもっとオールジェンダートイレが普及していくことに寄与することでしょう(まさに「未来社会の実験場」の役割を果たすわけです)。「女性が怖がるからオールジェンダートイレは全て廃止すべき」といったジェンダーマイノリティの存在を全否定するような乱暴な意見が減り、様々な困り事を抱える人たちが安心してトイレを利用できるインクルーシブな社会が実現することを願うものです。
参考記事:
万博のオールジェンダートイレに抵抗感 「数が少ない」との声も(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250413/k00/00m/040/186000c
万博トイレ4割「オールジェンダー」、性的少数者に配慮…「使ってみたい」「入りづらい」反応様々(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/expo2025/20250415-OYT1T50161/
万博の男女共用トイレ定着なるか LGBTQ配慮、敬遠の声も(共同通信)
https://news.jp/i/1314469277002957682?c=302675738515047521?c=302675738515047521
万博会場に「オールジェンダートイレ」 本当に誰もが使いやすいのか(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST7Y45K6T7YPIHB00NM.html
意識変革はトイレから 障がい、介護、LGBTQ…万博へ2年半議論(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST842QHQT84OXIE041M.html
万博に登場した共用トイレ─「オールジェンダー」は社会に根づくのか(coki)
https://coki.jp/article/column/55271/