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ロシア下院、LGBTQなど“過激派”に関する情報の検索に罰金科す法案を可決
ロシアの下院が22日、当局が“過激派”と見なしたWebサイト、本、芸術作品、音楽アルバムなどをインターネットで検索するだけで罰金を科す法案を可決しました。“過激派”にはLGBTQの権利擁護運動も含まれています。
ロシアメディアなどによると、この法案では、インターネットで“過激派”の情報を検索・閲覧した場合、最大5000ルーブル(日本円で約9400円)の罰金が科されており、こうした検索をする際に使われることが多い外国のサーバーを経由するVPNサービスについても広告を出した場合(違法な資料の閲覧を許した事業者に、という記述もあります)罰金が科されます。法案が実際にどのように運用されるか、インターネットサービスプロバイダーやWebサイトに違反監視の責任があるかどうかは不明です。
“過激派”のリストには、去年死亡した反体制派指導者ナワリヌイ氏の団体をはじめフェミニストロックバンド「プッシー・ライオット」のブログ投稿、国際的なLGBT市民運動(具体的な団体などを指すわけではなく、LGBTQの権利擁護運動全般に適用されると懸念されています)、そしてフェイスブックやインスタグラムを運営するメタ社までもが含まれ、その数は5000以上の項目に上っています。
情報の検索だけで処罰されるという今回の法案は物議を醸していて、行き過ぎた情報統制への懸念の声も上がっていますが、法案は下院で可決され(賛成306、反対67票、22人が棄権。67票の反対は異例の多さだそうです)、今後、上院でも可決されてプーチン大統領が署名し、9月から施行される見通しです。
22日、モスクワでは、昨年の大統領選挙に立候補したナジェージュジン氏らが議場の入口で登庁する議員らを待ち受け、法案に反対するよう呼び掛けました。この際、「検閲のないロシアを」と訴えたプラカードを持った男性や取材中のロシアメディアの記者らが拘束されたといいます。ナジェージュジン氏の事務所によると、拘束者と面会しようとした弁護士も拘束されたということです。ナジェージュジン氏は上院や大統領府の前でも抗議を続けるとしています。
プーチン政権下のロシアでは2013年に同性愛プロパガンダ禁止法(反同性愛法)が制定され、2014年2月のソチ五輪の際は、欧米主要国の首脳がこぞって開会式をボイコットし、国連事務総長もIOCで同性愛者差別に抗議するなど、大規模な抗議運動が展開されました。五輪の間は一時的に規制が緩められましたが、その後、弾圧はさらに進み、チェチェンではゲイが組織的に拉致され、収容所で拷問を受け、殺されている、ロシア政府もそれを容認しているという衝撃的な事実が明らかにされました。
ウクライナ侵攻以降、政府のLGBTQへの弾圧はさらに強まり、2022年11月には、反同性愛法をさらに厳しくし、LGBTQを肯定的に表現した広告や書籍、映画が禁止され、レインボーカラーなどのシンボルが描かれた商品の販売も、ドラァグクイーンのショーも禁止されました。2023年には最高裁が「国際的なLGBT市民運動」を“過激派”組織と断定し、警察がゲイクラブを強制捜査する事態となり、昨年には虹色のピアスを着けていた女性が逮捕されるなど、極端な(「過激な」)取り締まりが横行するようになりました。そうして今、「LGBT」と検索しただけで処罰されるというディストピアがすぐそこに…。
プーチン大統領は反同性愛の論調を政治課題の要とし、欧州でゲイやトランスジェンダーの権利が推進されていることを例に挙げ、西側が「公然たる悪魔主義に向かっている」と非難しています。『チェチェンへようこそ』のデヴィッド・フランス監督が述べているように、プーチン大統領はチェチェンのゲイ迫害に手を貸しているだけでなく、自身の権力を強固なものとするためにLGBTQ弾圧を利用し、クィア・パニック(ウクライナのクィア化がロシアにとって脅威となるという宣伝)を軍事行動を正当化するプロパガンダとして利用してきました。
こちらの記事へのコメントでパトリック・ハーランさんは「マイノリティへの怒りや恐怖を煽るのが権威主義の定番。「○○の人たちが我々の道徳や価値観を冒し、我々の経済活動や自由への脅威だ!」というレトリックの「○○」に入るのはスケープゴートと呼ばれる」「権威主義の扇動者は大衆の苦しみをスケープゴートのせいにすることで、国民の生活を改善させる責任から逃れながら、支持を固めるのだ」「実害のない行為や人をスケープゴートにすることで(当事者を苦しませるだけではなく)社会や政府の問題の本質から目を逸らしてしまうという、狡猾な手段自体に実害があるだろう」と述べています。
参考記事:
ロシア下院、反体制派など「過激派」情報検索だけで罰金科す法案可決(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/international/e670c1679fff4c7db649b93eba04d6ab
ロシア 「過激派」ネット検索で罰金の法案 下院で可決 行き過ぎた情報統制に懸念の声も(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2063998
ロシア 「過激派」検索で罰金法案 下院で採択 法案反対の抗議活動で拘束者も(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000441325.html
「思想への罰則」懸念 ロシア、ネット検索に罰金模索(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=20250723047683a
ロシア、反政権派サイトの検索・閲覧が違法の恐れ 下院が法案を可決(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST7Q4H0WT7QUHBI021M.html