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日本は世界で最もトランスジェンダーに冷たい国になりました

日本は世界で最もトランスジェンダーに冷たい国になりました

 昨年も世界26ヵ国のなかで日本は同性婚への反対が最も少ないことが判明というニュースでご紹介しましたが、世界最大規模の世論調査会社イプソスは、毎年世界26ヵ国の人を対象にLGBTQについてどう感じているかを調査し、「プライドレポート」として発表しています。
 今年発表された「プライドレポート2025」によると、日本は、トランスジェンダー差別があると認識している人の割合が世界最低で、トランスジェンダーの人が自認する性別で施設(例:公共トイレ)を利用することへの支持は2023年から21ポイントも減少し(52%→31%)、トランスジェンダーへの支援の姿勢が急激に下がっていることがわかりました。
 
 
 今年の調査は世界26ヵ国(オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、英国、イタリア、日本、スペイン、トルコ、米国、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ハンガリー、アイルランド、メキシコ、オランダ、ペルー、ポーランド、シンガポール、南アフリカ、韓国、スウェーデン、タイ)の19,028人に対し、2025年4月25日から5月9日にかけて実施されました。 
 
 その結果、「トランスジェンダーの人々が差別を受けている」と考える日本人は39%で、世界26ヵ国のなかでダントツで低く、「トランスジェンダーの人々がそれほど/まったく差別されていない」と考える日本人も33%で世界最高となりました。言うまでもなく、日本でのトランスジェンダー差別や当事者の生きづらさの実態については長年、あらゆるメディアで報道がなされてきたわけですが、それを「差別なんてないですよ」と言ってしまえるというのは、無知というよりは、故意に差別の存在を無視しているのではないかとの疑いを禁じえません(10年前にソチの市長が「我が市には同性愛者なんていない」と発言したように)。トランスジェンダーの方たちが日々、SNSで誹謗中傷を受け、苛烈な差別に直面し、なかには命を落とす方もいるというのに、「差別なんてないですよ」と言ってしまえる冷たい人が世界一多いという結果には、愕然とさせられます。

 それから、イプソスが2021年、2023年の結果と比較したところ、特に以下の3項目において大幅な減少が見られ、支援の姿勢が急激に低下している様子が窺えました。
・トランスジェンダーの人が自認する性別で施設(例:公共トイレ)を利用することへの支持は31%にとどり、2023年の52%から21ポイントも減少しています。
・政府発行の書類に「男性・女性」以外の選択肢を設けることへの支持も44%で、2023年から14ポイントも減少しています。
・雇用や教育などにおける差別を法律で禁止することへの支持も37%にとどまり、2021年の52%から15ポイントも減少しています。

 今回の調査結果について、イプソス株式会社日本オフィスの内田俊一代表取締役社長は以下のように述べています。
「本調査から、LGBT+の方々への特定の権利に対する支持が弱まりつつある実態が浮き彫りになりました。現在のアメリカでは、トランプ政権のもとでDEIに対する政策的な逆風が強まり、企業や個人の姿勢を問われる局面が続いています。こうした動きは、世界各国の世論や企業活動にも少なからず影響を与えています。私たちは、時流に流されることなく、すべての人の人権と尊厳を尊重する姿勢を堅持し、社会全体がより包括的な方向に進むための対話のきっかけを提供し続けていきます」

 
 日本はもともと異性装に関して寛容な社会だったのですが(こちらの本に詳しく解説されています)、どうしてこのように冷たい国になってしまったのでしょうか。
 遡ると、2016年、米国の(宗教保守の人たちを中心とした)アンチLGBTQの勢力が、2015年に同性婚が認められてしまったことで同性婚反対運動を諦め、攻撃の矛先をトランスジェンダーに向けるようになった(『最も危険な年』という映画に詳しく描かれています)ことが、世界的なトランスバッシングの潮流の発端だと見られています。日本にもその波がじわじわと押し寄せていて、2018年にお茶の水女子大がトランス女子学生の受け入れを発表した時から、にわかにトランスジェンダーに対するヘイトやバッシングが激しく噴き上がるようになりました。SNSや一部メディアなどでも“女装した男”がトイレや風呂に入ってきて女性が脅かされるといったデマに基づく誹謗中傷や心無い発言が横行し、挙げ句の果てにトランス女性に対して殺害予告が届いたり議員がアウティングしたりという酷い状況になっています。今年に入って、トランプ政権が誕生し、トランスジェンダーの権利を奪う政策を次々に実行してきたことや英最高裁の判決などの国際情勢に関するニュースがネガティブな影響を与えていることも考えられます。
 内田社長が「時流に流されることなく、すべての人の人権と尊厳を尊重する姿勢を堅持し、社会全体がより包括的な方向に進むための対話」と述べているのも本当にその通りですが、人々がSNSの誤情報ではなく『トランスジェンダー入門』のような当事者の声や実態に即した正しい情報に接することができるような環境づくりも必要でしょう。政府や自治体の施策が望まれます(理解増進法はそのための法律なのでは…)



参考記事:
トランスジェンダーの施設利用はわずか2年で支持21ポイント減、イプソスLGBT+プライドレポートを公開(イプソス)
https://www.ipsos.com/ja-jp/ipsos-pride-survey-2025-japan

トランスジェンダー差別の認識、日本が最低 理解進まず、国際調査(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST6S2PWMT6SUTFL00LM.html

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