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Yahoo!がトランスジェンダーインクルーシブな大阪のジムを紹介
6月23日でLGBT理解増進法が施行されてから2年が経ちましたが、10代のLGBTQのうち過去1年に自殺を考えたことがある人の割合が53.9%(20代で40.5%)に上るという調査結果や、トランスジェンダー差別がないと思っている人の割合が世界一高い(トランスジェンダーに支援的な人の割合がここ数年、急激に低下している)という調査結果も出ていて、世間の理解が進み当時者が生きやすくなっているとは言い難い(むしろ以前より差別がひどくなっているのではないかと思わざるをえない)状況です。
特に運動やスポーツの場では、例えばプライドハウス東京が2023年に発表した調査でLGBTQ+ユースにとって学校体育の現場が自分らしくいることができず、ポジティブな気持ちになりづらい場所になっていると指摘されていますし、つい先日はスポーツ団体への調査でLGBTQに関する相談窓口を設置している団体が2割にとどまることが明らかになりました。2015年12月には性別適合手術を受けていながら男性の更衣室の利用を強要されたトランス女性の方がコナミスポーツクラブを訴えるという事例もありました(2017年に和解が成立しています)。トランスジェンダーの人々は学齢期からずっと運動・スポーツへの参加に困難を感じ、安心してスポーツクラブを利用できない方も多いようです(性別移行途中だったり、戸籍の性別が変更できない方であればなおさらです)。そんななか、トランスジェンダーインクルーシブな大阪のフィットネススタジオ「Ninaru」の取組みがYahoo!ニュースで紹介されました。
自治体や学校での講演・啓発活動を行う大阪のLGBTQ団体「新設Cチーム企画」は2022年、当事者のフィットネスジムの利用状況に着目し、オンラインでアンケート調査を実施しました。「スポーツジムやフィットネスクラブ、ヨガ教室、マッサージなどを利用したことがありますか」という問いに対し、シスジェンダーの83%が「ある」と回答したのに対し、トランスジェンダーは54%にとどまりました。利用経験者からは「着替えやシャワーに個室がなく、他の利用者にじろじろ見られた」「靴箱やトイレ等が男女別のものしかない場合が多く、トレーニングに集中できない」などの声が寄せられたといいます。なかには施設の規約に『性同一性障害の方のご利用はお断りします』と書かれているジム(大手だそう)もあったそうです。
同団体の塩安九十九さんは、トランスジェンダーやノンバイナリーの人たちは「ジムなどの運動施設の利用を想定されていない、いわば『門戸が閉ざされている』状態」にあると感じたそうです。自由記述欄には「身体接触」や「体を見られること」を忌避した意見が多く、運動施設が「身体接触や体を見られることへの不安を払拭するようなメッセージを打ち出すだけでも、当事者たちは利用しやすくなるのではないか」と語りました。
この調査結果を実際のジム運営に生かし、トランスジェンダーも安心して利用できるような取組みを実践しているのが大阪・寺田町にあるフィットネススタジオ「Ninaru」です。2022年のレインボーフェスタ!にも協賛しているこのスタジオは、LGBTQインクルーシブなグループレッスン「レインボーマッスル」の中で、「多様な性を尊重すること」「見た目でアイデンティティを決めつけないこと」といったグラウンドルールを設け、カーテンで区切られたスペースで交代で着替えを行ない、他者から裸が見られないような配慮がなされています。参加したトランス男性の角田さん(仮名)は不特定多数の人に体を見られることに抵抗があり、公衆浴場なども利用せず、「Ninaru」以外のジムも利用したことがないそうです。
ジムを運営する大森あきさんは、アンケート調査の結果によって当事者の心理的不安を知ることができたといいます。安心して利用してもらうために性別や年齢などによる決めつけを行なわず、外見的な特徴にとらわれず目の前の人がどういった身体的な悩みを抱えているか、相手の言葉に耳を傾けるコミュニケーションを心がけているそうです。
スポーツとジェンダーをめぐる課題に詳しい関西大学の井谷聡子教授は「重要なのは身体を見たくない人、見られたくない人が個室で着替えられる空間をつくること」と述べています。井谷氏は「例えば、体に手術痕やあざがある人なども、好奇のまなざしを向けられることがあります。また、そうでなくとも、普段なら服で隠している体を部分を見ず知らずの人に晒すことは決して心地良いものではありません」と語り、実はSOGIにかかわらずすべての人に個室の更衣室へのニーズがあると指摘しています。「すでに設備が整っている大手ジムなどでは、既存の男女別の更衣室のほかに、カーテンやパーティションで区切るような簡易的な個室を用意するだけでも、施設利用のハードルはぐっと下がるはずです」
井谷氏はユネスコが国際憲章で『体育・身体活動・スポーツの実践は、すべての人の基本的権利である』としていること、すなわち「スポーツ権」にも触れています。「このスポーツ権は、人間の権利の一つとして保障しなければいけないものです。何らかの形でみんなが参加する枠組みを整えていく必要があることは、間違いないわけです」
いまだにほとんどのスポーツ施設は、トランスジェンダーが安心して利用できるようにはなっていません。「Ninaru」のようなジムが全国に広がってほしいですし、公営の体育館などはSOGIにかかわらず誰もが利用できるような取組みをすぐにでも進めていただきたいですね。「スポーツ権」はあらゆる人の権利であり、特定の人が排除されないよう、みんなが参加できる枠組みを整えていく必要があります。
参考記事:
過半数「自殺考えた」 10代LGBTQ、過去1年に―未遂も2割・NPO調査(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062400160
身体接触や更衣室に不安も――性的少数者の視点から見るスポーツジムの課題 #性のギモン(Yahoo!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/articles/4e48ac248746dd820bfca19767e76a0de28d3661