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米最高裁、テネシー州の性別適合医療禁止を支持
米連邦最高裁は6月18日、未成年のトランスジェンダーに対するホルモン投与などの医療ケアをテネシー州が州法で規制することには合理性があるとし、性別や性自認に基づく差別ではないため合憲だとの判断を下しました。
ハフポスト日本版によると、この裁判ではテネシー州の上院法案第1号(SB1)が違憲かどうかが争われていました。SB1は未成年者への思春期ブロッカーやホルモン療法、外科的治療などのジェンダー適合医療を禁止する州法で、2023年3月に可決されました。この法案が施行されてから1ヵ月も経たないうちに、当事者の子を持つ3組の家族と同州メンフィスに拠点を置く医師1人が「法律は合衆国憲法修正第14条に違反している」として提訴しました。
憲法修正第14条は平等な保護を保障しており、1970年代以降、この平等な保護には「性別に基づく差別」が含まれると解釈されてきました。原告は、州の禁止法は性別に関連するものであるから、差別かどうかを審査する際には「より厳格な審査基準」を適用すべきだと主張しました。
しかし今回の判決で最高裁の9人の判事のうち6人が、テネシー州の禁止法は「平等保護条項の下での厳格な審査の対象にはならない」とし、「トランスジェンダーであることを理由とした差別」に当てはまらないと結論づけました。ロバーツ長官は「SB1は未成年者の性別に関係なく、特定の医療目的で思春期ブロッカーやホルモンを処方することを医療提供者に禁じているに過ぎない」とし、また、性別適合医療の規制に関する判断は「国民とその選挙で選ばれた代表、民主的なプロセスに委ねられるべきだ」(議会で決めるべきだ)との考えも示しました。
一方、ソトマイヨール判事は反対意見で、禁止法は「トランスジェンダーの若者の家族と医師との間で行われるべき医療判断や、当事者の子どもの深刻なメンタルヘルスや性別違和をまったく考慮していない」「最高裁はトランスジェンダーのアメリカ人を、国家による差別によって二重に脆弱な存在とした」「今回の判決は、平等保護条項に取り返しのつかない損害を与え、立法府があからさまな性別の区別を隠して、差別することを許す道を開く」と述べました。
性別違和に苦しむ思春期の子らに二次性徴の進行を遅らせる思春期ブロッカーを投与したり、ホルモン治療を施したりするジェンダー・アファーミング・ケア(性別適合医療)は、望まない身体の変化を食い止め、その後の性別適合医療をスムーズに進めたり、メンタルヘルスの安定や自殺防止に貢献することが多くの研究から明らかになっており、主要な米国の医療団体も医療ケアの提供を支持してきました。にもかかわらず、保守的な州でアンチトランスジェンダー法案の標的となり、これまでに24州で未成年者への性別適合医療を禁止する法律が可決されています。
テネシー州でSB1が施行された後、ナッシュビルに住む13歳のトランス女子の家族は、医療ケアを受けるために車でオハイオ州に通うことになりましたが、オハイオ州でも同様の禁止法が可決されたため、家族はさらに遠いワシントンD.C.にあるクリニックを探す必要に迫られたといいます。母親のダイアンさんは「私が娘の“気まぐれ”を許している、と思われるのは侮辱的です。気まぐれでも一時的なものでもありません。これが彼女自身なのです」とハフポストUS版に語っています。
今回の判決はテネシー州の法律に限定されたものであり、他州に住む未成年のトランスジェンダーの医療アクセスにすぐに影響を及ぼすものではありませんが、同州のトランスジェンダーの若者は、性別適合のための医療の選択肢がほぼ閉ざされることになります。
また、法律の専門家たちは、今回の判決がトランスジェンダーの権利や差別に関連したその他の訴訟に影響を与える可能性があると懸念しています。
アメリカ自由人権協会(ACLU)のLGBTQ&HIVプロジェクト責任者であるチェイス・ストランジオ氏は「本日の判決は、トランスジェンダーの人々や家族、憲法を重視するすべての人々にとって壊滅的な敗北です」と声明で述べました。「痛みを伴う後退ではありますが、トランスジェンダーとアライが自由や医療、そして命を守るための手段を失ったわけではありません。私たちはこれまで以上に、すべてのトランスジェンダーの人々の尊厳と平等のために闘う決意を固めています」
たびたびお伝えしているように、トランプ大統領は今年1月に就任した直後から、LGBTQコミュニティへの抑圧・弾圧の姿勢を強めています。あからさまな差別に対しては司法が対抗しており、例えばボストン連邦地裁は17日、米国立衛生研究所(NIH)のDEI関連の研究への10億ドル超の助成金が打ち切られたことを「無効かつ違法だ」として差し止める判決を出し、「これは人種差別であり、米国のLGBTQコミュニティに対する差別だ」「政府によるいかなる差別も誤っており、裁判所が適切なタイミングで差し止めることを必要とし、私がそれを実行する」と述べています。また、ノンバイナリーの人がパスポートの性別欄に「X」と表記することも再開するよう命じました(4月に「X」表記禁止措置は違法だと訴えた6人の方たちに対し、地裁が仮差し止め命令を出していましたが、国務省が控訴していました。今回、すべてのトランスジェンダーおよびノンバイナリーの米国人に拡大し、「X」表記のパスポートの発行を再開するよう命じたことで、この訴訟の判決もしくは上訴審の判断が出るまで適用されることになります)
しかし、最高裁は、トランスジェンダーの権利に関しては保守的で、5月に、トランプ大統領が命じたトランスジェンダーの兵役禁止を認める判断を下していたり、今回もこのように未成年のトランスジェンダーやその家族を絶望に追い込むような裁定を下しています。
ちょうど10年前の2015年6月、最高裁が結婚の平等(同性婚)をすべての州で認める判決を下し、全米で同性婚が認められ、その年のパレードは祝福ムードで盛り上がりました。あの素晴らしい、アメリカらしい自由の輝きは、どこに行ってしまったのでしょうか――
参考記事:
米最高裁、性適合治療禁止は合憲 南部テネシー州などで法成立(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025061900325
未成年のトランスジェンダーへのホルモン投与 米最高裁が規制容認(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST6L74X3T6LUHBI036M.html
米最高裁、未成年トランスジェンダーの性適合治療禁止は合憲と判断(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/TL4ZLMODEFK6NAOBEH4OVV6NUA-2025-06-19/
米最高裁、トランスジェンダーの権利に打撃を与える決定。テネシー州の性別適合医療禁止を支持(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_68534429e4b07e1309c5813a
トランプ米政権のDEI研究助成金停止、連邦地裁が差し止め判決(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/us/B72RV3F4HNKXFOCR4YOJ2LX5ZI-2025-06-16/
性別「X」表記のパスポート、発行再開を命令 米連邦地裁判事(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3584036