NEWS

「子どもの前でLGBTの話はするな」などと叱責され退職した学童支援員に辰野町教育長が陳謝

 子どもからセクシュアリティについて相談を受けて自分もそうだよと明かして「ありのままに誰かを好きになることは何も悪くないよ」と答えていた学童支援員に対し、辰野町教育委員会の職員が「自分のことをさらけ出すな」「子どもたちの前でLGBTの話はするな」「子どもたちにLGBTはいない」などと叱責し、退職に追い込んだハラスメント問題について、16日、辰野町の宮沢教育長が不適切な対応だったとして陳謝しました。

 退職したのは伊東麗奈さん(20歳)。伊東さんや町教委によると、伊東さんはバイセクシュアルであることをカムアウトして音楽活動をしている方で、昨年春、そのことを伝えたうえで学童支援員として町教委に採用され、町内の学童クラブで働き始めました。
 伊東さんは、子どもから「僕は○○くんのことが好き。これはいいの」と相談され「ありのままに誰かを好きになることは何も悪くないよ」と答えました。この出来事を教育委員会の職員に伝えたところ、「勤務時間外にやってくれ」と言われたそうです。さらに「子どもたちの前でLGBTの話はするな」「子どもたちにLGBTはいない」などと怒られることもあったといいます。
 また、伊東さんが「私は男の人も女の人も好きになれるよ」と言っているところを目撃した職員に呼び出され「自分のことをさらけ出すな」と叱責されることもあったそうです。伊東さんは「髪も抜け、肌も荒れ、手の震えが止まらず、気づいたら涙が出てしまうほど」つらい思いをしながら出勤していましたが、耐えきれず、昨年12月に退職。「ハラスメントに当たる」と訴えていました。
 事実関係を調査した辰野町の顧問弁護士も、昨年7~11月に、職員らが「子どもたちの前でLGBTの話はするな。子どもたちにLGBTはいない」「学童は金を稼ぐ場所だと割り切って、余計なことを言わないで働け」など、5件の不適切な発言があったと認定し、「心配りに欠けた不適切な対応」「ハラスメント的行為」と結論づけました。調査報告書では、町教委のLGBTQに対する理解が「形式的な理解にとどまっている」と指摘され、伊東さんが個人的に出演する音楽活動の宣伝をしていると誤解し「伊東さんの心と人格を深く傷つけた」「きめ細やかな心配りが欠けていたもので不適切な対応であった」とされました。一方で、故意の言動ではないことや伊東さんが職員の処分を求めていないことから「行政上の処分は必要ない」としました。
 
 16日に記者会見を開いた宮沢和徳教育長は、「職員は、性的少数者の問題を頭では理解していたが、性的少数者の傷つきやすい部分について、思いが至らず、伊東さんに悲しい思いをさせてしまった」「自分の生き方まで否定されてしまったと捉えられたことは大変残念。深くおわび申し上げます」などと述べ、謝罪しました。
 辰野町は2022年以降、LGBT教育や職員などへの指導・研修を定期的に実施していたそうですが、宮沢教育長は「当事者の心情に寄り添うことができる、そこまで理解する研修をしていかなければならない」と語りました。
 
 会見の様子を傍聴していた伊東さんは、「自分が納得いくような会見ではなかった。差別も偏見も無ければこういうことは起きていないので。子どもたちが当たり前に、いろいろな人がいていいんだよと理解できる場を設けたいと思っている」「職員たちは性的少数者のことを頭でも理解できていなかったのが本当ではないか。それを認めるところから、反省や改善は始まるのだと思う」と述べました。「自分がそういう環境にいることより、自分と同じ思いを子どもたちがすることの方がつらい」「今も学童クラブで過ごす子どもたちのために変わる辰野町が見たい」とも。

 
 「子どもたちの前でLGBTの話はするな」というのはロシアなどで制定されているLGBTプロパガンダ禁止法の思想そのものであり、「子どもたちにLGBTはいない」というのは「ここにはLGBTはいない」と言い放ったソチ市長と同じで、極めて差別的です(「不当な差別はあってはならない」と謳う理解増進法にも反し、パワハラ防止法のSOGIハラにも該当するのではないでしょうか)。伊東さんが語るように、LGBTQへの理解がなく、(そのことを悪びれずに態度で示してしまうくらい)差別や偏見が強いからこその発言でしょう。そのような人たちが教育委員会の職員を務めていて、LGBTQかもしれない子どもに対して当事者として親身に相談に乗っている伊東さんを叱責し、退職に追い込むというのは、本当に深刻な事態です。辞めるべきはどちらなのか?という声が上がってもおかしくない話でしょう。
 今回の件を教訓として、辰野町に限らず、全国の教育委員会で、何が問題だったのか、同様のことが起きないようにするためにはどうしたらよいのか、話し合いが行なわれることを期待します。伊東さんもきっとそう望んでいるのではないでしょうか。
  
 
 

参考記事:
「子どもたちの前でLGBTの話はするな」などと怒られる LGBTと明かした上で採用の学童クラブの支援員に…教育委員会の職員がハラスメント的行為(長野放送)
https://www.nbs-tv.co.jp/news/articles/?cid=22852
学童クラブでのLGBTハラスメント問題 町教委が謝罪  ハラスメントを訴えた伊東さん「色々な人がいていいということ、理解できる場を設けたい」(長野朝日放送)
https://www.abn-tv.co.jp/news-abn/?detail=00040414
「頭では理解していたが…」LGBT公表する学童クラブの元支援員に謝罪 職員によるハラスメント行為を認定 長野・辰野町(信越放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1859357

性的少数者の学童支援員に謝罪 長野・辰野、ハラスメントで(共同通信)
https://www.47news.jp/12457032.html
LGBTQの学童支援員に「自分をさらけ出すな」 不適切対応と認定(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/AST4J3WDCT4JUOOB00NM.html
不適切発言5件認定 性的少数者 元支援員に謝罪 辰野町教委(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20250417/ddl/k20/040/015000c
「深く傷つけた」と謝罪 辰野町教育委員会が性的少数者の元学童支援員に(信濃毎日新聞)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025041700246
「自分をさらけ出すな」性的少数者を叱責 長野県辰野町教委職員がパワハラ的行為、教育長が謝罪(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/1054121

ジョブレインボー
レインボーグッズ