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「性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する実効性のある法律の制定を」と訴える記者会見が開かれました

 LGBTQ差別を解消せず、同性婚等の運動を抑制することが懸念される法案に反対する緊急声明が出されましたというニュースでお伝えしていた問題について5月6日、当事者や支援者ら有志が厚生労働省で記者会見し、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する実効性のある法律の制定を訴えました。 
 

 毎日新聞によると、与党が進めているのは「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(以下「LGBT理解増進法」)で、「性的指向・性自認に関する特命委員会」(稲田朋美委員長)が先月、法案の要綱を了承しました。要綱によると、「国民の理解の増進に関する施策の推進について、国の役割等を明らかにする」「多様性に寛容な社会の実現に資する」ことなどを目的として設定しています。具体的には、理解の増進に向けた基本計画策定を政府に義務付け、施策への協力を企業や学校の設置者に求めるほか、「知識の着実な普及」や「相談体制の整備」などの施策について定めます。一方、野党は差別禁止を盛り込んだ「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(差別解消法案)をまとめ、すでに国会に提出していますが、継続審議となっています。現在、与野党間で協議が進められていますが、自民党は理解増進法案の今国会への提出と成立を目指しており、理解増進法について懸念を抱くLGBTQ+Allyコミュニティのメンバーから「実効性のある法律の制定を」との緊急声明が出されたものです。
 
 5月6日午前、厚生労働省での記者会見に臨んだのは、一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんRainbow Tokyo北区代表の時枝穂さん、一般社団法人こどまっぷ共同代表の長村さと子さん、明治大学法学部教授の鈴木賢さん、トランスジェンダー活動家の畑野とまとさん、NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さん、エッセイストの小島慶子さん、アートユニット・キュンチョメのホンマエリさん、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表である土井香苗さんです。
 緊急声明の呼びかけ人を代表して松岡さんは、「緊急声明に対し、4438名の賛同をいただきました。本当にありがとうございます」とお礼を述べたうえで、「いま"信号機"がない状態。カミングアウトすると突然不当な差別的扱いという事故にあう。理解増進法では、事故にあっても「理解がなかったから仕方ないね」と言われてしまう。法律で"赤信号"をつくることで、差別を受けたひとを守り、差別を未然に防ぐことができると思います」と語りました。
 時枝穂さんはトランス女性として、職場でカミングアウトしたとき「余計な問題を起こさないでほしい」と言われたり、女性としての扱いを求めたのに男性ロッカーを使うよう強制されたこともあるという経験をしたことを明かし、「いじめや差別で退職に追い込まれるケースも少なくない。理解増進法を進めるアドバイザーの勉強会に参加したが、著しくトランスジェンダーの人権や尊厳を傷つける発言がありました。一人でも多くのトランスジェンダー当事者を救う法律がつくられることを望みます」と訴えました。
 長村さと子さんも、以前勤めていた飲食店でレズビアンであることをアウティングされ、差別を受けた経験を明かし、「差別を受けても明確なルールがないから、それが人権の侵害であると言えない。全ての人の考え方を変えるのは完全には難しい。しかし、嫌いという感情から相手の権利を侵害することは許されない。差別的取扱いの禁止という明確な決まりを作らなければ差別はなくなりません」と訴えました。
 札幌の同性パートナーシップ証明制度実現の立役者であり、現在も自治体にパートナーシップ制度を求める会などの世話人を務め、同性婚法にも詳しい鈴木賢明治大教授は、「理解増進法の謳う『寛容』、これは落ち度があるがおおめに見るということ。性的マイノリティであることは過失でも落ち度でもなく、法案の目的自体が適切ではありません」と、法案の立て付けに問題があると指摘しました。「いじめられている当事者の子どもは今もたくさんいる。今回の法案では、学校がいじめられる側の子どもたちを守ってくれるとは期待できません。(理解増進のみの不十分な)法律がいったんできてしまうと、『もうLGBTの問題は終わった』とされてしまっては困る」「私たちは平等な権利を求めているだけ。権利の侵害、差別の被害を受けても当事者が救済する手段がない。この法律は当事者不在の法律。このまま通すことは断固反対です」 
 また、小島慶子さんも、「平等と言われているのに苛烈ないじめや差別が残っている。足りていないものは明らか。どうしても理解できない人たちが差別できないようにするルールが唯一欠けている状態。ルールをつくり、なぜ差別してはいけないのかと考える、そこが理解のはじまりです」と語りました。
 そのほか、土井香苗さんが「いま差別される社会に放置されているのがLGBTの人たち。人権の一番の基本が差別禁止であり、国家の義務です。理解増進法では、企業や学校が行動を変える必要がなく、社会が変わる原動力にはならない。今必要なのは苦しんでいる人を救う法律です」と、畑野とまとさんが「フランスで同性婚の法制化に対して当時反対派のデモが7万人くらい。でも同性婚が認められてから何年も経ち、そんな大きなデモはなくなった。理解というのは人権が認められて、後からついてくるものです」と、渡辺由美子さんが「法律を作るなら『差別をなくす』と言っていただいて、子どもたちが安心して学校に通えたり、日々を過ごせるようになってほしい。『後退』させるようなものであれば、法律はないほうがよいと思います」と、ホンマエリさんが「憲法にも『差別されない』と書かれているのに、なぜ今LGBTQの差別を禁止することを躊躇するのか。差別を放置していいはずがない。理解を広げようと言っている間にどんどん傷ついている人は増えていく」と語りました。
 最後に再び松岡さんが、「緊急声明に対し多くの賛同をいただき、名前を手作業で声明文に追加しました。中には本名を出せず、通称名の人も。当事者の多くはカミングアウトが難しい現状、きっと賛同を悩んだと思う。リスクを負ってでも差別はあってはならないと、そう思う人たちの願いが伝わってきました。国会議員はこの一人一人の現実が見えているのか。何のために、誰のために法律をつくるのか。『かわいそうなマイノリティのことをわかってあげましょう』ではなく、求めているのは平等。今国会で、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する、実効性のある法律を求めます」と締めました。
  
 この声が国会に届き、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する実効性のある法律が制定されることを望みます。

 

参考記事:
【記者会見】緊急声明に4438名の賛同「LGBT理解増進法はいらない、求めているのは差別禁止」(#LGBTQがいじめ差別から守られる法律を求めます)
https://note.com/lgbtq_houritsu/n/nfcaa2cd0073a?fbclid=IwAR0xKwV1EsUnKVD5kha35DWOBlbg0yY-LZhTQnd22PQBAjf5Xb5p4JxpFEE
「差別の禁止」明記を LGBT当時者らが訴え(TBS)
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4262337.html
LGBT法「差別の禁止明記を」 当事者ら記者会見で訴え(共同通信)
https://this.kiji.is/762883089844207616?c=39546741839462401
LGBT法「差別禁止明記を」 当事者有志らが訴え―東京(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021050600906
「自民のLGBT理解増進法案は差別放置」 当事者ら反対表明(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20210506/k00/00m/040/134000c
自民党のLGBT法案「差別禁止」の明記を 当事者らが訴え(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/102583
同性婚を阻む可能性も。自民党の「LGBT理解増進法案」がダメと言われる理由(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/sexual-minority-anti-discrimination_jp_60936c1be4b02e74d22f9706

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