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LGBT法案の今国会への提出を見送るとの報に、抗議集会が緊急開催されることになりました

 LGBT理解増進法案の取扱いをめぐって28日、自民党総務会で審議されましたが、意見の集約に至らず、二階幹事長ら党三役に一任することになりました。同日夜、下村政調会長は「党三役で検討し、国会状況を考えると成立が難しい、廃案になる可能性が高い法案は出さないことを決定した」と述べました。これを受けて、野党からもLGBTQ+アライコミュニティからも「このまま、ただヘイトスピーチを撒き散らし、当事者を傷つけるだけという状態で終わらせるわけにはいかない」「成立をあきらめない」との声が上がり、LGBT差別に抗議する24時間シットイン(座り込み。命のキャンドルアクション、リレートーク、署名/抗議文提出なども)が緊急開催されることになりました。
 
 
 法案の基本理念および目的に「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」という文言が盛り込まれることをめぐって27日朝から始まった自民党政調審では、一部の議員から「行き過ぎた差別禁止の政治運動につながる」といった異論が出て紛糾し、夜になってようやく了承されました。 

 28日には党幹部が加わった最高意思決定機関である総務会で議論が行われました。出席者からは「今の国会に提出し、成立を目指すべきだ」という意見が出た一方、「党内で賛否が分かれている上、国会の会期末も来月16日に迫っており、法案の提出は見送るべきだ」という意見も相次ぎました。このため、意見の集約には至らず、了承は見送られ、法案の取扱いは二階幹事長ら党三役に一任することになりました。
 28日夜には、下村政調会長が記者団に対し、「党三役で検討し、国会状況を考えると成立が難しい、廃案になる可能性が高い法案は出さないことを決定した」と述べました。「次の国会で改めて成立に向けて出し直したい」とも。
 
 法案の取りまとめにあたった稲田元防衛大臣は記者団に対し、「足かけ5年検討を重ね、与野党で合意もなされた非常に価値がある法案であり、今の国会での成立を目指していくべきだ。会合でも党執行部は『工夫をしたい』と言っていたので、私はまだ諦めていない」と述べました。
 立憲民主党の枝野幸男代表は「少なくとも東京五輪・パラリンピックの主催国として法整備は義務ではないか」と、同じく福山哲郎幹事長は「私は成立の希望を捨てているわけではない。この法案については、どんな協力も惜しまない。自民党には、最後まで法案の提出に向けて努力をいただきたい」と述べています。

 東京新聞によると、自民党内に性的指向・性自認に関する特命委員会ができたのは2016年。理解増進法案は、その当時も保守派の抵抗を受け、党内手続きが進みませんでした。しかし、世論の高まりを受け、今回は自民党も野党と協議を続け、今月やっと「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」という文言を入れるかたちで与野党の合意をみました。しかし、再び党内保守派の抵抗にあったばかりでなく、「LGBTは道徳的に許されない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを獲るとか、ばかげたことがいろいろ起きている」などの差別発言が相次ぎました。こうした発言の撤回や謝罪などは行なわれていません。
 
 LGBTブーム以前の2000年代からLGBTを支援する記事を書いてくださっている朝日新聞の二階堂友紀記者は、政治記者として2016年に始まった自民党内の議論から追いかけてきたそうですが、「LGBT法案、自民は古い闘争に固執 提出断念の裏側」という、今回の件の本質を的確に捉え、見事に描写する、渾身の記事を書いています。
「多様性と調和を掲げる東京五輪・パラリンピックを前に、推進派が「最後のチャンス」と臨んだ今回、まさか当時を上回る反対論が公然と語られるとは思わなかった」
「「差別の定義がはっきりしない」「訴訟が頻発する」「活動家に利用される」。自民党右派の典型的な反対論は、左派が差別問題を政治運動に利用するとの主張だった。右派の一人は「これは闘争だ」と宣言したという。古いイデオロギー闘争に固執した主張は当事者不在にみえた」
「社会的な認知度があがったとはいえ、性的少数者の子どもたちはいまでも、本来は最も安心できるはずの家のなかで、本当のことを言えず苦しんでいるかもしれない。いじめや自死の原因にもなっている。そんな現実を思うとき、自民党内の議論はむなしく悲しい」
「いまある法律のどこにも性的指向と性自認という言葉はない。この事実はそのまま、日本の法制度が性的少数者の存在を無視してきたことを意味する。性的指向と性自認に関する理解増進法案が成立すれば、初の基本法として、性的少数者の困難を解消する施策を前に進める可能性がある。だからこそ野党も当事者団体も、差別禁止をうたわず、不十分な自民党案をのみ込んだ。苦渋の与野党合意を、自民党が壊そうとしている」
 
 府中青年の家裁判で1997年、東京高裁から「行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されている」という画期的な判決を引き出したスーパー・アライである中川重徳弁護士は、「法案が通ったら、私たち法律家は、不十分な法律でも、徹底的に研究し裁判や情報発信で活用し、性的少数のひとびとの困難解消を前進させる。それが法律家の仕事だし、この法案は修正協議で活用に値する内容になった。声をあげ続けた皆さんと超党派の議員さんとともに、今国会での絶対成立を求めよう!」と声を上げました。

 東京新聞はLGBTQコミュニティの方たちへも取材し、その声を紹介しています。
 差別発言の撤回と謝罪を求める署名を立ち上げた松岡宗嗣さんは、「そもそも理念法で、差別も禁止せず実効性が乏しいのに、なぜ反対なのか。差別発言を容認する姿勢といい、自民党は差別を温存したいのか」と語っています。
 NPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんは「この5年で企業や自治体のLGBTQ施策は進んだ一方、国の動きは周回遅れだ」と指摘、自民党議員から出た差別発言について「ヘイトスピーチで眠れなくなったという人もいる。法律もできず、傷つけられ損だ」と語りました。
 トランスジェンダー活動家の遠藤まめたさんは、「議員の言動に失望した。まずは自民党内で理解増進をしてほしい」と語りました。

 ほかにも、たくさんのLGBTやアライの方から声が上がっています。一部、ピックアップしてご紹介します。
 尾辻かな子衆議院議員「オリパラ東京大会は強行するが、LGBTの理念法案は作らせないのか。当事者は種の保存に反する、トランスジェンダーバッシング発言を受けてもなんとか法案成立をとこらえてきた。その結末がこれですか?」
 石川大我参議院議員「自民党内からの異論も「ガス抜き」だろうと我々は我慢してきたが、とんでもない差別発言が飛び出し、毒ガスが社会に充満した。あげく、法案は通らない。来週以降、私たちは行動する準備を」
 上川あや世田谷区議「結論からみれば、この間、事実に基づかない当事者を大変傷つける発言ばかり、言いたい放題、言われただけで、落胆で締めた、という印象です。これで国民各層にむけ、理解増進の旗を振るとは…」
 同性婚訴訟も支援している須田布美子弁護士「差別してはいけないということさえ,反対意見でつぶされる。立法府は何を守ろうとしているのでしょう。差別する権利?」
 北丸雄二さん「カミングアウトしてわかるのは、カミングアウトした人間の正体ではない。カミングアウトされた人間たちの正体である」
 


 そして29日夜、「このまま、ただヘイトスピーチを撒き散らし、当事者を傷つけるだけという状態で終わらせるわけにはい」「成立をあきらめない」という思いを共有したコミュニティの人々によって、LGBT差別に抗議する24時間シットイン(座り込み。命のキャンドルアクション、リレートーク、署名/抗議文提出などを含みます)が緊急開催されることになりました。
 遠方の方などご参加が難しい日本全国や海外のみなさんも「#逃げるな自民党」「#LGBT差別抗議デモ24時間シットイン」というハッシュタグをつけてSNSに投稿することで、一緒に声を上げることができます。

LGBT差別抗議デモ24時間シットイン
日時:5月30日(日)18時〜5月31日(月)20時頃
場所:自民党本部前(〒100-8910 東京都千代田区永田町1-11-23)向かいの歩道
※東京メトロ有楽町線/半蔵門線/南北線永田町駅6番または1番出口から徒歩1分。銀座線/丸ノ内線赤坂見附駅から徒歩10分
主催:LGBT差別抗議デモ24時間シットインの会
内容:自民党本部前シットイン(座り込み)、命のキャンドルアクション、リレートーク、署名/抗議文提出など
◯ピークタイム:
ピーク①:5月30日(日)18:00〜20:00
ピーク②:5月31日(月)8:00〜10:00
◯その他アクション(予定):
5月31日(月)11:00頃:プライドハウス東京とグローバル団体Athlete Allyの共同抗議文提出
5月31日(月)12:00頃:Equality Act Japan記者会見
5月31日(月)14:00頃:Change.org署名提出
 
 

参考記事:
LGBT理解増進法案、政調審議会で“異例”の紛糾 今国会での成立は見通せず(ABEMA TIMES)
https://times.abema.tv/news-article/8660112
LGBT理解促進法案 今国会提出見送りへ 自民党意見集約に至らず(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210528/k10013056521000.html
“LGBT法案”引き続き議論 今国会での成立厳しい見通し(TBS)
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4278209.html
LGBT法案 自民了承せず 今国会への提出見送りへ(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/188725
自民、LGBT法案提出見送りへ(共同通信)
https://this.kiji.is/770899162886586368?c=39546741839462401
LGBT法案、提出見送り 自民(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021052800707
自民、LGBT法案の提出断念 今国会で日程確保できず(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP5X53J1P5XUTFK00Y.html
「自民党は差別を温存したいのか」LGBT当事者ら怒り噴出…まさかの法案提出見送り(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/107180
LGBT法案、自民は古い闘争に固執 提出断念の裏側(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASP5X5QJNP5XUTFK018.html
LGBT法案 今国会の提出を自民党が断念(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000217586.html
自民・下村氏、LGBT法案「今国会出さない」(産経新聞)
https://www.sankei.com/article/20210528-6PO22PWG2NNO5CQBG7S3QCFAYE/

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