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LGBT法をめぐる与野党の協議が山場を迎えています

 LGBTQの差別解消をめぐる法案についての議論が山場を迎えています。
 LGBTQ+アライの有志の方たちが6日、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する実効性のある法律の制定を、と訴える緊急記者会見を開きましたが、これを受けて週明けの10日、超党派のLGBT議連で協議が行なわれました。「LGBT理解増進法」案に対して自民党が「性的指向および性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という文言を追加する修正案をまとめたのに対し、野党側は差別禁止の明記や、法律が地方自治体でパートナーシップ制度などのLGBTQ施策を作ることへの妨げにならないことの保証などを盛り込んだ再修正案を提出しました。
  
 
 5月2日にLGBTQ+アライの有志によって緊急声明が出され、4000名を超える方々の賛同を得て、6日に記者会見が行なわれました。翌7日には、「LGBT理解増進法」の今国会での成立を目指す自民党「性的指向・性自認に関する特命委員会」から「性的指向および性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という文言を法案の目的に加えることが伝えられました。
 そして10日、超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(馳浩会長)の総会が開かれ、改めて、法目的に「差別は許されない」などと記することで差別解消のための理解増進であるとの位置づけを示す修正案であると説明され、また、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」と追加し、法案で「性同一性」という言葉を政府答弁で使っている「性自認」に変更する旨が伝えられました(「性同一性」か「性自認」かという問題については、ぜひこちらの記事をご覧ください)
 これに対し、野党側は、(1)性的指向や性自認を理由とした差別の禁止、または不利益な取扱いの禁止の規定を設ける(2)国や地方公共団体の役割(理解増進に関する施策を策定し、実施)を努力義務から「責務」に変える(3)地方公共団体の施策を妨げないことを明示する――といった再修正を求めました。
 
 一方、当事者を中心とした有志の会は10日、緊急要望書を議員連盟に提出しました。要望書では「性的指向や性自認に関する差別的取り扱いをしてはならない」という規定を盛り込むことや、同性婚の法制化や地方自治体のパートナーシップ制度の導入を阻害しないよう明記することなどを求めています。
 6日の記者会見でLGBTQの家族を支援する一般社団法人「こどまっぷ」の長村さと子さんは、「私自身20代のときに勤めていた飲食店でレズビアンであることを職場全員に知られ、レズビアンであることを常に酒の席でネタにされて気持ちが悪いなどと言われ、自分一人だけ昇級できないという差別的な扱いも受けました。差別を受けたときはショックで傷ついて、すぐに差別的な扱いをされたことに気づかないことがあります。そして気づいたとしても明確なルールがないので、それが人権侵害だと私自身もわかりませんでした」と語りました。
 また、Rainbow Tokyo北区代表の時枝穂さんはトランス女性として、職場でカミングアウトしたとき「余計な問題を起こさないでほしい」と言われたり、女性としての扱いを求めたのに男性ロッカーを使うよう強制されたこともあるという経験をしたことを明かしながら、「いじめや差別で退職に追い込まれるケースも少なくない。一人でも多くのトランスジェンダー当事者を救う法律がつくられることを望みます」と訴えていました。(なお、トランスジェンダーについて自民党内の勉強会で、「自分は女だ」と言って男性が女湯に入ってくるかのような誤った認識が広められている事実について、こちらの記事で明らかにされました)
 
 総会終了後、自民党「性的指向・性自認に関する特命委員会」委員長の稲田朋美議員は、野党の再修正案について「これ以上の法案の修正は非常に厳しい」と、記者団に話しました。「これは最後のチャンスだと思っている」「できる限りのことを全てやりたい」
 一方、立憲民主党の「SOGIに関するプロジェクトチーム」座長を務める西村智奈美議員は、「無理筋を言っているつもりはない」と述べ、野党がまとめた再修正案を協議するよう自民党に求めました。
 西村議員によると、総会では法律が地方自治体に与える影響についての言及も多くありました。自民党は「同性婚容認は相容(あいい)れません」「『パートナーシップ制度』についても慎重な検討が必要」(党のパンフレット)という前提で「理解増進法」を掲げています。そのため「理解増進法」が成立すれば地方自治体が萎縮して、パートナーシップ制度や差別禁止条例などの導入が阻害されるのではないかとの懸念が生じているのです。
 これに対して稲田氏は「自治体のパートナーシップの取組みについては、全く阻害するつもりはないし、法案も阻害するとは読めない」と説明しました。
 しかし西村氏は、自民党の会合でトランスジェンダーを中傷する発言があったことを指摘し、「懸念の声は強い」「パートナーシップ制度を阻害するつもりがないのであれば、それを条文に明記するのは難しくないはずだ」と述べました。
 
 LGBT法連合会事務局長の神谷悠一氏も、自民党の修正案について「一歩前進で、かろうじて評価する」としつつも、法律が今のまま成立すれば地方自治体が萎縮するのではないかと心配しています。
 神谷氏の元には「法律に書かれていない制度を自治体が独自で作るにあたって、これまでは何も法律がないからできていたものが、今後は法律が一つの基準になるのでやりにくくなる」という声が自治体関係者から届いているといいます。
「パートナーシップだけではない、自治体施策全体を阻害しない点を法に明記することが必須であり、明記しなければ後退になってしまうのではないかと大変懸念している」 
 LGBT法連合会は、LGBT議連の成立に呼応して、コミュニティ側からの要望を取りまとめて国会に届けるために結成された団体で、当初からLGBTQ差別を禁じる法律の制定を求めてきました。
 神谷氏は「実効性のある法律になればなるほど救われる人がそれだけ増えることになるので、より良い案を与野党が知恵をしぼって出してほしいと願っています」と語りました。

 松岡宗嗣さんが5月12日夜に開催した緊急オンラインイベントでは、青山学院大学法学部教授の谷口洋幸氏が、「性的指向や性自認に関する啓発は人権啓発や男女共同参画のなかでも20年前から行なわれているが、では今、LGBTQが差別を受けることなく生活できているかというとそうではない。20年前に戻してどうするのか」と指摘、「この20年の間に亡くなったり苦しんできた当事者の思いをどう受け止めるのか。これ以上殺さないでほしい」と語りました。

 与野党は14日にも議連の総会を開き、修正協議の結果を報告する方針です。
 LGBTQ+Allyコミュニティの声が届き、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する実効性のある法律が制定されることを望みます。
 

参考記事:
「このままでは差別が放置されてしまう」LGBT理解増進法案に当事者が緊急声明(FNN)
https://this.kiji.is/764679055038054400?c=426126268348957793
LGBT法案、野党が再修正を要求 差別禁止規定など(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASP5B636QP5BUTFK02J.html
LGBT法整備 「差別は許されない」追加の自民案に野党はさらなる修正要求(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/103320
LGBT新法、差別禁止を盛り込まず。自民修正案に野党が「ちょっと待った」(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/lgbtq-law_jp_6098ce32e4b0b37f894aee30

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