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【人権週間】企業に求められる「人権デューデリジェンス(人権DD)」、そこにはLGBTQのことも含まれています

 12月10日は世界人権デー、12月4日〜10日は法務省が定める人権週間です。
 今年の人権週間の、LGBTQ関連の動きとしては、大分県が人権条例を改正し、コロナ感染者差別やLGBTQを踏まえた内容にするというニュースがありました。
 また、神奈川県中井町では(現在、同性パートナーシップ証明制度創設に向けたパブコメ募集を行なっていますが)ブルボンヌさんを講師に迎え、「男らしさ、女らしさより『自分らしさ』が社会を変える〜LGBT・男性・女性とは〜」という講演会を開催したそうです。
 

 実は今年、LGBTQに限らず、より広く「企業×人権」というテーマで、大きな動きがありました。政府が昨年策定した「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」に基づき、今年初めて日本企業の「人権デューデリジェンス(人権DD)」※への取組みの実態調査が実施されたのです。

※デューデリジェンス(Due diligence)とは、企業などに要求される当然に実施すべき注意義務および努力のこと。人権デューデリジェンス(人権DD)とは、自社や取引先の企業で起きている人権侵害のリスクを特定し、予防や軽減策を実施することです。

 背景には、2011年に「ビジネスと人権に関する国連指導原則」が国連人権理事会で承認され、指導原則の具体化に向けて、各国政府、市民社会組織、投資家、消費者の意識が高まり、活動が活発化したことがあります。近年は特にサプライチェーンにおける強制労働が問題視されていて、2015年に英国で現代奴隷法が制定されたのをはじめ、欧米で人権デューデリジェンスの法制化が進んでいます(詳細は「人権DDの推進に向けた日本企業の役割と責任」(経団連)をご参照ください)。2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が採択されましたが、そこにも人権DDの思想が盛り込まれています。SDGsが目指す人権の尊重という普遍的な課題に、企業も寄与することが期待されています。
 日本でも昨年、国別行動計画(NAP)として「ビジネスと人権に関する行動計画」が策定されました。これに基づき、法務省は「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応」という企業向けの啓発教材を作成し、人権研修の実施を呼びかけています。
 
 なお、人権DDとして企業が取り組むべき人権侵害のリスクには、性的マイノリティ(LGBTQ)のことも含まれています。
 「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 概要版【PDF】」では、企業が尊重すべき人権分野の一つとして「ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題」が挙げられています。
 「今企業に求められる『ビジネスと人権』への対応 詳細版【PDF】」では、さらに具体的に、以下のようなリスク事例が挙げられています。
・「男性のみ募集」「女性のみ募集」という求人のため、性別や性自認が原因で希望職種での就職活動ができない
・就職活動の際、履歴書の性別の記載義務により就職機会が限定されたり、採用側から「詐称ではないか」などの不当な扱いを受けたりする
・女性や性的マイノリティ当事者に対して、結婚や出産などライフイベントの予定を就職活動の面接で尋ねる
・性的指向や性自認を理由に内定取り消し、異動の強要、解雇などをする
・性的指向や性自認によって給与体系や賃金に差が生じる
・妊娠、出産を理由に昇進の機会を与えられない
・職場環境内での理解が進んでおらず、性的指向や性自認に基づくいじめや偏見、ハラスメントが生じている
・アウティング(本人の同意なく性的指向・性自認に関することを第三者に暴露すること)
・トイレや更衣室、専用相談窓口など設備や、職場の行動基準、サプライヤーの人権ポリシーなど制度的・政策的支援が
 整っていないため、企業側に相談できない/相談しても不適切な対応をされる。

 つまり、国は、企業に対し、こうしたLGBTQ差別も人権侵害リスクと見なし、予防策や軽減策に取り組むことがデューデリジェンス(守るべき義務)なのでは?と、自社のみならず取引先、サプライチェーンも含めて取り組みましょうね、と呼びかけているのです(欧米のように法制化されたり、罰則があるような義務になっているわけではなく、現状、呼びかけにとどまるものです)
 
 では実際問題として、日本企業がどの程度人権DDに取り組んでいるのだろうか、ということで、今年、経産省と外務省が初めて調査を実施しました。2021年9月〜10月、東証一部・二部の上場企業など全2815社にアンケートを送付し、760社から回答が得られました。その結果が、このたび発表されたものです(こちらに調査結果が掲載されています)
 以下、調査結果の概要です。
 まず、人権デューデリジェンスを「知っている」と答えた企業は534社(70%)、「知らない・内容は知らない」が226社(30%)でした。
 人権方針を策定している企業は523社(9%)で、残りの31%のうち「1年以内に策定を予定」とした企業は58社(8%)で、「策定/明文化していない」は67社(9%)でした。
 人権DDを実施している企業は392社(52%)で、どの範囲まで人権リスクを調べているかという問い(複数回答)については「自社」が351社(実施企業中の90%)と最多で、直接仕入れ先まで調べているのは日本国内で244社(62%)、海外では192社(49%)でした。
 人権DDを「実施していない」理由を聞いたところ、「実施方法がわからない」が122社(32%)と最多。「十分な人員・予算を確保できない」が105社(28%)、「対象範囲の選定が難しい」が102社(27%)と続きました。

 経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室の担当者は、「調査結果を分析する段階で、今後具体的な方策を決めていく。取組みが比較的進んでいない企業からは特に『実施方法がわからない』などの声が多く上がっているため、周知・啓発に取り組みたい」としています。

 以前は「コンプライアンス」や「CSR」ということが叫ばれていましたが、今後はさらに「人権デューデリジェンス(人権DD)」も無視できないキーワードになりそうです。
 
 
 
参考記事:
大分県が人権条例改正へ コロナ差別やLGBT、社会の変化に対応(大分合同新聞)
https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2021/12/05/JD0060860777
人権教育・啓発講演会(湘南人)
https://shonanjin.com/event/jinkenkyouiku-1204/
人権DDの推進に向けた日本企業の役割と責任(経団連)
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2021/0902_10.html
供給網の人権侵害リスク、上場企業の392社把握(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77996910Z21C21A1EP0000/
人権デューデリジェンス「実施方法分からない」「予算足りない」企業の約3割。政府初の調査で判明(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61a6d463e4b0f398af1983d6

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