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トランスジェンダーの生徒のハードルが下がるようにと自らスラックス登校をはじめた女子高生のアライ・ストーリー

 西日本新聞に、アライとしての意識に目覚めた鹿児島の女子高生が、学校で誰もスラックスをはいている女子がいなかったので、自らスラックスをはいて登校しはじめたという記事が掲載されていました。 
 
 鹿児島立指宿高3年の藤岡依弥(えみ)さんは昨年1月からスラックスをはいて登校しはじめました。もともと学校側はスラックスの選択を認めていたのですが、誰もはいていなかったのです。校内では、友人も教員も「かっこいいね」「似合っている」と言ってくれました。しかし、一歩学校の外に出ると、年配の男性から「おとこおんな?」「あんた、LG…なんちゃらか?」などと言われたそうです。
 藤岡さんがLGBTQのことに関心を持つようになったのは中学3年生の時。LGBTQ(性的少数者)を特集した市の広報誌を自宅で見たことがきっかけです。表紙はレインボーカラー。中には当事者の思いや体験に関する記事が並んでいました。世間の理解が進んでいないことも知り、「自分も何かしたい」という意識が芽生えたそうです(指宿市では「レインボーポート向日葵」というLGBTQ団体が活動しています。この広報誌も「レインボーポート向日葵」の協力あればこそ、だったはず。ちなみにこの時点ではまだ指宿市の同性パートナーシップ証明制度は実現していませんでした)
 高校1年の時、選んだテーマについて深く調べる「探究活動」という授業があり、藤岡さんはLGBTQを選択し、インターネットや学校の図書館で概要を調べ、男女共同参画を専門とする大学教員や、市の担当職員にインタビューもしたそうです。「生きづらさを抱え、苦しんでいる人がたくさんいる」とクラスや学年で発表、「初めて知った」「自分もそうかもしれない」という反響が寄せられました。「近くにいることを常に考えて発言、行動したい」との意見もあったといいます。
 2年の「探究活動」では、SDGsやジェンダー平等について調べ、文部科学省のプログラムにも参加し、大学教授や内閣府職員からもオンラインで講義を受けるという本格的な研究を行ないました。県の弁論大会では「自分の性別がわからない」という生徒に出会いました。戸籍上の性別は男性で、「男子は短髪」と定める校則に苦しんでいると訴えていました。自身の髪形を鏡で見ると「死にたくなるほど嫌になる」とも。「カミングアウトしてもしなくても、その人らしくいられる社会にすることが大切なんだ」という言葉は今も藤岡さんの心に刻まれています。
 藤岡さんは、社会人でスラックス姿の女性はたくさんいるのに、なぜ指宿高には1人もいないのか?と思い、2年の冬からスラックスで登校することを決意しました。「トランスジェンダーの生徒が同じような好奇の目にさらされれば、自分よりもショックは大きいはず。そうならないよう、学校の制服で、だれがスラックスをはいても自然な社会に変えたい」との思いでした。「私もスラックスにすればよかった」と言ってくれる後輩も現れました。藤岡さんの勇気ある一歩は、着実に、社会を変えていく方向につながっています。
 
 LGBTQについて深く知り、得た知識を学校や弁論大会で発表したりするだけでも大したものだと思うのですが、「周りで誰もはいていないから」と躊躇しているトランス男子の生徒がいるかもしれないと思い、そういう人がスラックスをはきやすくなるようにと自ら率先してはきはじめたという話が本当に…感動です。胸が打たれます。アライの鏡ですね。表彰したい気持ちです。



 LGBTQのためというだけでなく、もっと広い意味でスカートをはきはじめた男子生徒もいます。NHKのWeb特集でレポートされています。
 島根との県境に近い広島県の山あいの町・安芸太田町の県立加計高校は、海外の学校との交流や短期留学に力を入れ、全国から生徒を募集している学校だそう。一昨年から制服の選択を自由にしています。工藤校長は「学校のキーワードは多様性。制服もそのひとつです。周りと同じじゃないといけない、という環境では、安心して自分を表現できません。自分のありのままを表現でき、他人のありのままも受け入れる経験をしてほしい。多様性を尊重する先には、生徒に自信を持って自分の人生を歩んでほしいという思いがあります」と語っています。
 そうした学校側のスタンスにも後押しされ、SNSで男性がスカートを着こなしているのを目にして「男性でもスカートをはくとめちゃくちゃ似合うんだ」と感じた久保さんは、スカートで登校することを決めました。息子から「スカートを買いたい」と言われたお母さんは、「本人が言うとおりファッションとして受け止める気持ちもあるし、小さいときから何にでも興味を示して好奇心旺盛な子なので、へーと思って聞いていました。外国では男性がスカートをはく国もありますよね」との感想でした(懐の深いお母様ですね)
 実際にスカートで登校するようになって、久保さんは、すれ違った人から奇異な感じで見られていることに気づいたり、実際は男子生徒がスカートを選びづらいという現実に気づいたりしました。「男性なのにスカートをはいているから、女性なのにズボンをはいているから、LGBTQなのではないかという意識が世間に埋め込まれていると、無理に性自認をカミングアウトすることになってしまうのではないでしょうか。そういう社会だと自分がはきたいほうを選びづらくなってしまいます」
 制服をきっかけに久保さんは"男らしさ"/"女らしさ"の固定観念について、より深く考えるようになりました。「女の子が髪を伸ばしていても理由を聞かないと思います。男の子は社会のなかでは髪を短くしておかなければダメみたいなのは、男らしさを押しつけられているようで自分がいちばん気にくわないというか」
 久保さんはそうしたジェンダーにまつわる疑問や違和感を社会の授業で発表し、同じクラスの他の生徒にも良い影響を与えているそうです(素晴らしいですね)

 久保さんが自ら実感したように、男子生徒がスカートをはくことのほうが女子生徒のスラックス着用よりもはるかに奇異の目で見られ、ハードルが高いことだと思われます。実際のトランス女子生徒は、高校に入る前から性別移行を望み、女子として通学していたりする方もいますし(”男子”が女装しているように見られたくないことでしょう)、逆に周囲の偏見や差別を恐れて何もできずにいる方も多いことでしょう。しかし、もし一歩を踏み出したいと思ったとき、久保さんのような方が先にいてくれたら、ずいぶん気持ち的に楽になるでしょう。久保さんの実践は間違いなくトランスジェンダーの生徒の助けになっているはずです。感謝です。
 
 
 なお、滋賀県野洲市は、市内の3中学校の生徒の制服について、来春から性別に関係なく誰でも自由にスラックスやスカートを選べるようにしたそうです。(戸籍上の)女子がスラックスを着用できる学校はずいぶん多くなってきているものの、(戸籍上の)男子がスカートを選べる学校は珍しいようです。
 野洲中の高野真知子校長は「性別によって着用する制服が限定されるのを解消したかった。周りの理解も重要で、本人が選びたいものを選べる環境をつくっていきたい」と語っています。
 
 滋賀県といえば今年初め、大津市が市の公式サイトに保育園児の性別違和や受診歴を無断で掲載し、両親が「アウティング」だと提訴する出来事がありました(詳細はこちら)。いくら学校がトランスジェンダーの生徒の制服の選択を認めても、世間の理解がなかったり、制度的に(三重県のようなLGBTQ差別やアウティングを禁止する条例などで)守られていなかったら、実際に当事者の生徒がスカートをはいて登校することは難しいのではないでしょうか…。今回の野洲市の取組みを奇貨として、県としても取組みが進んでいくことを願うLGBTQ+Allyの方たちは多いはず。今後の進展に期待します。
 


参考記事:
「なぜ、私の高校には1人もいない?」女子高生がスラックスで登校した理由(西日本新聞)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/845842/
僕がスカートをはく理由(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210416/k10012974451000.html
中学校制服、男子もスカート選択可能に トランスジェンダー配慮、滋賀(京都新聞)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/692768

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