NEWS

東京都の小中高の学校において児童・生徒が性別に関係なく制服等を選べるようにすることを求める署名と要望書が都教委に提出されました

 都立高校に通うトランス女子生徒が昨年、東京都の小中高の学校において児童・生徒が性別に関係なく制服等を選べるようにすることを求める署名を立ち上げましたが、11月9日、およそ1万人余りの署名と要望書を東京都の教育委員会に提出しました。署名を立ち上げた背景には、自身が中学生の頃に制服を選択できず、苦しんだ経験がありました。
 

 署名の発起人は、現在大学生のトランス女性、カエデさん(仮名)。1年前、都立高校(中高一貫校)に通っていた時に署名を立ち上げました。カエデさんは中学時代、スカートの着用を望んでいたのにスラックスの着用を求められ、学校に行きづらくなった経験がありました。
 11月9日、署名提出前に都庁で開かれた会見で、カエデさんは当時の心境をこう振り返りました。
「自分が望まない男性用の制服を着用しなければならなかった。それは私にとって自分を否定するものでした。学校から『お前は男なんだ。男はこうあるべきなんだ』と強制され、毎日そう言い聞かされている思いでした」
「悔しくてたまらなかったです。もしあの時、自分が制服を選べていればと、悲しみで押し潰される思いです」
 カエデさんが通っていたのは中高一貫の都立学校で、中学の制服はブレザーで、女子はスカートかスラックスかを選択できましたが、男子はスラックスと決められていました。スクールカウンセラーに相談し、教職員とも話し合いをしましたが、校内のルールを変えることはできませんでした。同じように制服が選択できないことで悩む生徒がほかにもいることも知り、「学校単位でやっていては時間が足りない。広い範囲でやらなければ」と感じ、高校に進学後、署名を立ち上げました。
「都立学校全体で、児童や生徒の悩みに寄り添い、制服や服装を選択できるようなルールをつくっていかなければいけない。制服を選べないことで、教室に行けない人もいる。選べることで学校に行けて、教育を受けられるようになることは、とても大きいことだと思います」
「社会は少しずつ変わっていっているなか、なぜこのように(教育現場では)歩みが遅く、子どもたちが苦しまなければいけないのかという気持ちです」
「制服を選択できるようにしたことで、いじめの被害に遭ったり、からかわれたりするのではという懸念が学校側にあるといいますが、それが選択制を導入しない理由になってはいけない。いじめなどが起こらないようにしていかなければならないのだと思います」
「決してトランスジェンダーだけの話ではありません。性別で服装が決まるのは不合理ですし、(体質など)さまざまな理由で制服を苦しいと思っている人たちもたくさんいます」
 
 カエデさんは9日、都立学校教育部長らに署名と要望書を手渡し、約30分にわたって話し合いました。
 署名では、東京都全域の都立学校で制服選択制を導入することのほかに、都教委に対し、制服だけでなく髪型なども男女別で規定するのでなく、生徒の声を聞いて変更を検討していくよう求めています。
 カエデさんは「制服選択制導入をめぐる都内での現状を把握し、発表して、これから受験・入学する生徒たちにもわかりやすく開示することが大切です」と語りました。
 都立学校教育部長らは「持ち帰って検討します」と返答したということです。
 
 都教委によると、都立高校については、2016年に行なった調査で、制服や生徒の標準服を導入していると回答した180校のうち93校が女子用のスラックスを導入しているなど、生徒が制服を選ぶことができると回答しました(現在は196校中93校で制服の選択制を導入しているそうです)。「都教委では性的マイノリティの生徒の意向を尊重できるよう、それぞれのケースに応じて丁寧にきめ細かく対応するよう学校に求めている」とのことです。
 カエデさんは「すべての生徒が安心して学校生活を送れるよう、東京都全域で制服選択制を導入、推進してほしい」と訴えています。女子がスラックスを選べるだけでなく、すべての生徒が自由に制服を選択できること、それによって周囲から嘲笑されたりいじめられたりすることのないよう安心して過ごせる教育環境をつくることを、都内すべての公立学校で保障してほしいという願いです。

 なお、記者会見には、LGBTQの子どもや若者のための居場所づくりに取り組む一般社団法人「にじーず」のスタッフ・古堂達也さんも同席しました。にじーずの参加者である首都圏を中心とした中高生らにアンケート調査を行なった結果、制服選択制を導入していても「男子生徒はスカートを選択できない」「式典時には戸籍上の性別による制服の着用が求められる」といった実態があるほか、制度の周知が不十分という課題も浮かび上がりました。古堂さんは「性別違和のある当事者にとって、自認とは異なる制服を着ることは、長期にわたって自己の尊厳を傷つけられることになりえます」と、女子生徒だけが選択できたり、式典時には選べなかったりすることは「制度として不十分と言わざるをえません」と訴えました。

 
 学校の制服の選択制に関する取組みが始まったのは、約3年前からです。
 2018年2月、千葉県柏市の柏市立柏の葉中学校が開校と同時に制服選択制を導入すると発表しました。トランスジェンダーの子どもたちへの配慮を、という意見を汲んだものです。
 追って3月、東京都世田谷区が全ての区立中学で性別にかかわらず制服を自由に選択できるよう検討をはじめました。
 4月には、福岡市の警固中が、次年度から制服(標準服)を見直し、選択制の導入を決めました。
 その後も、沖縄県の浦添高校、那覇高校、西原高校、埼玉県戸田市の市立戸田東中学校、岐阜県の県立高校、福岡県みやま市のみやま市立瀬高小学校、熊本県大津町の小通学校、愛知県犬山市の中学校、京都府内の公立高校の8割、沖縄県の糸満中学校、栃木県の県立高校、佐賀県内の3つの中学・高校、宮崎市内の4つの公立中学校、福岡県宗像市立日の里中学校、豊橋市の中学校などでも制服の選択制が導入されています。
 昨年には、宮城県でも学校での制服の選択制を求める署名が始まりました。
 また、東京都江戸川区で、トランス男子高校生が制服のスラックス/スカートを選択できるようにしてほしいとの署名を集め、要望書を提出、区は今年度から33の区立中学校のうちおよそ3分の1に当たる10校で制服を選択できるようにしました。瑞江第二中学校では、これまでの男子用/女子用という制服の呼び方をやめてA型/B型などに変更したほか、襟元につけるネクタイ/リボンも選べるようにしました。ほかにも、男女で分けていた出席名簿を男女混合にしたほか、男子が青、女子が赤というトイレ表記の色を黒に統一するなど、ジェンダーバイアスを解消するさまざまな取組みが進められたそうです。 
 以降も全国で、次々と、制服の選択の自由が認められるようになってきました。
 つい先日は、愛媛県宇和島市の県立吉田高校で、制服が来年、詰襟/セーラー服から男女共にブレザータイプになることを受けて、新しい制服をお披露目するファッションショーが行なわれたというニュースもありました。

 
 菅公学生服は今年6月、全国の小中高校の教員1800人を対象にインターネット上で"ジェンダーレス制服"※1の導入背景に関する調査を実施し、先月末にその調査結果を公開しました。以下、調査結果のサマリーです。
・ジェンダーマイノリティの生徒・児童への服装の配慮の現状は、「服装による配慮をしている」(39.3%)、「今は服装による配慮はしていないが、今後予定している」(20.3%)を合わせ、約6割の学校が服装の配慮を導入・検討中
・ジェンダーマイノリティの生徒・児童の把握状況は、小学校は約1割、中学・高校では約3割にのぼり、小学校に比べ中学・高校で増加している
・学校が考えるジェンダーマイノリティの生徒・児童への服装の配慮として良いと思うスタイルは、「女子のスラックス制服の採用」(50.1%)が最も多く、次に「スカート・スラックス・リボン・ネクタイなど男女関係なく、自由に選べるようにする」(36.0%)、「男女共通デザインのブレザーの採用」(35.4%)などがあげられている
 全国の小中高校の約6割が制服の選択制(服装の配慮)を導入済みまたは検討中だそうで、ここ数年でずいぶん広がりを見せたことがわかります。

※1 ブレザータイプの制服でスラックス/スカートが選択できる、ネクタイ/リボンも選べるということに対して「ジェンダーレス制服」という言葉を用いるのは、適切ではないでしょう。ジェンダーレス=性差のない服装とは、男性が着ても女性が着てもよいよう、ボディラインが見えないように作られていたり(例えばこちら)、ノンバイナリーなものです。男性的な装いと女性的な装い、どちらも選べますよ、ということとは異なります(もし生徒・児童がジェンダーレスな服装で通学することを保障しようとするのであれば、"ジェンダーレスな制服"というものを開発することは考えにくいため、制服を廃止せざるをえないでしょう)。「履歴書の性別欄の廃止」や「ladies and gentlemanのアナウンス廃止」などと同様、ここはジェンダーニュートラル(言語や社会的制度、生活の様々な場面におけるジェンダー規範や差別を解消していこうとすること)と言うべきではないでしょうか。

 
 なお、こうした記事で見出しが依然として「LGBTQへの理解」などと書かれていることへの批判が当事者コミュニティから上がっています。制服の選択の自由は(ノンバイナリー等を含む)トランスジェンダーの生徒にとっての社会的課題であり、LGBなど性的指向に関するマイノリティの生徒には当てはまらないからです。トランスジェンダー、またはジェンダーマイノリティなどと表記することが望ましいです。
 


参考記事:
“性別関係なく制服を”都立中高一貫校元生徒 1万人余署名提出(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211109/k10013340441000.html
「性別関係なく制服選べるように」 卒業生、都教委に署名と要望書(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20211109/k00/00m/040/178000c
「お前は男なんだと言い聞かされているようでした」一人の大学生が、制服を選べるよう求める思い(BuzzFeed Japan)
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/tokyo-school-uniform-petition
LGBTQへの理解 変わる高校の制服 【愛媛】(南海放送)
https://www.rnb.co.jp/nnn/news110wvt9ptsvqg4cvnuu.html
ジェンダーレス制服の浸透状況は? 教員1800人に聞いた「LGBTQ」生徒の服装(All About)
https://article.auone.jp/detail/1/2/2/27_2_r_20211109_1636463342016898

ジョブレインボー
レインボーグッズ