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NHKの「ジェンダーサイエンス」という番組で、ほとんどの人が「男女モザイク脳」であること、誰もが性的マイノリティの「素質を持っている」ことが示されました

 NHKのサイトに11月3日放送の「ジェンダーサイエンス(1)「男X女 性差の真実」」という番組の内容が掲載されているのですが、生物としての"男女"の違いについて最新の科学で切り込み、ジェンダーを問い直すもので、たいへん興味深いものがありました(目からウロコでした)。ほとんどの人が「男女モザイク脳」であること、誰もが性的マイノリティの「素質を持っている」ことが示されていました。
 
 
 最初にドミニカ共和国のサリーナス村で、子どもの頃は少女だと思われたのに、成長したら男性になっていたというように、体の性が変わる現象が少なくとも村人の50人に1人起こっているというレポートが届けられます。遺伝的には男性だったのに、精巣から分泌されるテストステロンの働きが弱く、外性器などに男性的な特徴が現れず、少女だと見られていて、思春期に再び分泌されるテストステロンシャワーによって急激に男性的な特徴が現れたということでした。
 ホルモンの専門家である菊水健史麻布大学教授は、「サリーナス村の人たちの中には、ほんの少しの遺伝子の変異があります。テストステロンが作用するときに、その効果をさらに強める酵素があるんですが、変異によってそれがうまく働かず、男の子なのに男性的なものになりにくいということがわかっています」と説明しています。

 男性ホルモンは骨格筋に作用するため、男性は筋肉が多くなる傾向があり、皮下脂肪では、男性ホルモンが脂肪を燃やすので、男性は皮下脂肪が少ない傾向があります。一方、女性ホルモンは血管を弛緩させるため、女性は動脈硬化になりにくく、血管内を移動する免疫細胞も活性化され、感染症で重症化しにくくなる要因にもなっていると見られています。体の性差や、病気のなりやすさやなりにくさも、性ホルモンの働きによって、作り上げられているのです。
 ただ、同じ男性でも男性ホルモンの多い少ないがあり、高い人は200ぐらいあるのに低い人は25ぐらいしかありません。低い人も、運動や筋トレによってテストステロン(男性ホルモン)を上げていくことができます。女性も、かなりの量の男性ホルモンを出しています。いずれは”男性"ホルモン、”女性”ホルモンという言い方もなくなっていくことでしょう。
 
 それから、脳の性差について、いま新たな考え方が広がりつつあります。米国で4年前から出生証明書の性別欄の改定が始まり、M、FのほかにXが加わりました(米国でパスポートの性別欄の「X」記載が認められたのも記憶に新しいところです)。Xは自認する性別に基づいて選択することができます。
 男女の脳の違いについて、イスラエルの研究チームが18歳から80歳までの1400人の脳をMRIで調べたところ、海馬や小脳虫部、上前頭回、尾状核などで、男女で大きさに違いがあることがわかりました。同時に、完全に男性寄り/女性寄りと言える人は全体の10%にすぎず、残りの90%の人の脳は「男女モザイク脳」であることもわかりました(『ジェンダーと脳 性別を超える脳の多様性』という本では「完全に男、あるいは完全に女だけという特徴を持った人はほぼ存在しない」とされています)
「生活環境や社会環境、さまざまな人との出会い、交流、学びなどの経験が、脳や、脳に影響を与える性ホルモンまで変化させ、その結果、男女どちらかではとてもくくれない、あなただけのモザイク脳が生まれる」のだそうです。
 テルアビブ大学のダフナ・ジョエル博士は、「ジェンダーは、私たちを男か女の2つの枠に押し込めようとします。でも私たちの脳はそうではありません。脳は体ほど明確に、男か女のどちらかではないのです。なぜなら脳は男女が入り交じるモザイクだからです」と語っています。
  
 最新の脳科学では、分界条床核という部分が性自認の中枢であると考えられるようになっています。
 分界条床核は男性の方が女性より大きいのが一般的ですが、トランス女性の場合、その大きさは女性に近く、トランス男性の場合、男性に近いことがわかりました。
 脳と心の発達の専門家である明和政子京都大学教授は、「だいたい性自認というのは4、5歳から明確に芽生えてくるんですね。子どもの主張に合わせて、どんな環境を提供するか考えることが大事ではないかと思います」と語っています。
 菊水健史麻布大学教授は、「LGBTの方々、性自認だけでなくて、例えば、性的指向というのがあって、それはどちらの性が好きですかとか、性的パートナーとして選びますかというのも、いくつか神経核が関わってくることもわかっていて、そこも男女で神経細胞の数の違いがあるんですけど、それもグラデーションになっていて。生物学的に考えると、みんながLGBTの素質を持っている」と語っています。(脳と性的指向の関係について言うと、1991年に脳科学者のサイモン・ルベイ博士が視床下部のIANH3という部分がストレート男性とゲイとで大きさに差があることを発見し、「同性愛が生まれつきである証拠」であるとしてセンセーションを巻き起こしました)
 
 それから、現代の男性のテストステロンがこの16年で25%も減っている(中性化が進んでいる)ということも明らかにされました。
 テストステロン減少の原因は運動不足・肥満・長期にわたるストレスだと言われてきましたが、最新の研究では、実は私たち人類の進化が深く関わっていることが明らかになってきたそうです。狩猟時代が終わって「集団社会」が形成されると、仲間と協力しあって集団社会を築ける人が生き残り、テストステロンが多くて攻撃的な男性が淘汰されるようになったといいます。
 明和政子教授は、「『こんな生き方をしなさい』と言われてた時代には、恐らく人類進化の中では中性化はブレーキがかけられていた。ストップしていた可能性があると思うんですね。今、男性・女性問わず、みんなで働こう、みんなで子育てしよう、そういったものがすごく価値として認識されてきたなかでは、これから男性の中性化、女性の中性化というのは、もっともっと進んでいく可能性がすごくあると思います」と語っています。
 菊水教授は、「生物というのは、もともと子孫を作って、その命をつないでDNAをつないでいくことで生き延びてきたわけですよね。人類は協力社会を作って、さらに文化の中で近代医療も作られてきて、生殖という生物が持っているべきことの割合がすごく減ってきているんですね。新たな進化に近いものを獲得してきたわけですね。個人個人の幸せを達成するというような社会が今できているのは、そういう背景だろうと思います」と語っています。


 今回の番組で、脳も男/女というより個人差(男女モザイク)であるということや、性的指向に関してもグラデーションになっているということ、生物学的には誰もが性的マイノリティになりえるということが明らかにされました(スゴいことですよね)。同性愛であることは別に特殊なことではないし、いまストレートだと自認している人も変わるかもしれないのです(いまシスジェンダーだと自認している人も、トランスを望むようになるかもしれません)
 ゲイにも男性的な人から女性的な人まで、性欲が強い人からそうでもない人まで、本当にいろんな人がいて、まさにグラデーションだと思いますが、それはゲイが必ずしもテストステロン値が低かったり脳が女性寄りだったりするわけではなく、個人差が大きいのだということを示しているのでしょう。
 
 男女の性差というのは実はそんなに明確ではないのに、なぜ世の中の多くのことが男/女で分けられてしまうのか、について、久保田アナは、「日本では大昔は女性も王になったりして、男女の区別をあまりしない社会だった。大宝律令で国民の徴兵や納税が義務づけられて戸籍で男女を明確に分けるようになった」と指摘し、「社会の統率や国力増強を効率的に行なおうとするために社会の仕組みとしてジェンダーが都合よく利用されてきた」と述べています。
 このことは、LGBTQにも当てはまることで、(弊社の研修でも時々お伝えしてきたように)性の多様性は自然であり普遍的なことなのに、社会の側が恣意的に同性愛を抑圧したり、性別二元論を振りかざしてきた(異性愛規範を押しつけてきた)と言えるのではないでしょうか。
 

参考記事:
ジェンダーサイエンス(1)「男X女 性差の真実」(NHK)  
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pn11RwvEEn/
「男脳・女脳」というテーマにうんざり…性別を超える“脳の多様性”を解き明かす(週刊文春)
https://bunshun.jp/articles/-/49704
“同性愛遺伝子”存在せず 国際的なグループが発表(NHK) 
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2019/08/news/news_190830-2/

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