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衆議院議員選挙で史上初めて同性婚が争点の一つに

 10月31日に投票日を迎える衆議院議員選挙が19日、公示されました。
 今回の衆院選では、人気芸能人が一斉に投票を呼びかける動画が反響を呼ぶなど、投票率を上げるための呼びかけが活発に行なわれているほか、各政党・候補者の公約・政策についても様々なメディアで情報が届けられ、見やすくなっています。そうした公約・政策の中で、同性婚やLGBT平等法についての言及が、かつてないほど多く見られます。争点の一つになっていると言っても過言ではありません。この間の衆院選関連のトピックのうちLGBTQに関するところをまとめてお伝えします。
  
 
 ロイター「情報BOX:衆院選31日投開票、主要政党の公約一覧」、日経新聞「衆議院選挙2021 与野党9党の公約特集」、時事通信「衆院選・各党公約要旨【公約比較】」によると、LGBTQ関連の公約を前面に掲げている政党は以下の通りです。
・自民党
LGBTに関する理解増進議員立法の速やかな制定を実現
・立憲民主党
LGBT平等法を制定する。同性婚を可能とする法制度の実現
・日本共産党
同性婚を認める民放改正。LGBT平等法を制定
・日本維新の会
同性婚の法制化
・社民党
LGBT差別解消、同性婚の法制化
 このように目立つかたちで公約に打ち出されていない場合も、マニフェストをよく読むと言及されていたりします。こちらの記事によると、公明、国民、れいわも同性婚に賛成だそうです。総合すると、自民党以外の主要政党全てが同性婚に賛成していることになります。ここまで同性婚への支持が広がったのは初めてのことです。
 
 
 様々な分野で活動する市民団体などの有志が主要政党に19項目計67問の公開質問状を送り、その回答を公開した「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト -衆議院選挙2021-」というサイトが立ち上げられ、注目されています。この67問の中に「同性婚の法制化に取り組みますか?」「LGBT平等法の制定に取り組みますか?」「トランスジェンダーの生活・労働環境の実態を調査・把握し、シスジェンダーとの格差・差別の解消に努めますか?」という質問が設けられています。このような一般の選挙アンケートでトランスジェンダーが直面するリアルな社会的課題に言及されたのはおそらく初めてで、画期的です。急速に厳しくなっているトランスジェンダー(特にトランス女性)を取り巻く状況を踏まえ、このような質問を設けたのでしょう(素晴らしいです)
 回答の結果を見ると、同性婚の法制化とトランスジェンダー政策は自民党が△で他の政党は全て○、LGBT平等法の制定は自民党が×で維新が△、他の政党は全て○、という結果になっています(△についての詳細も記されていますので、読んでみてください)
 
 
 全国会議員(および次期衆院選の候補者も反映される予定)の同性婚へのスタンスについては、先日「Marriage For All Japan(結婚の自由をすべての人に)」がリリースした「マリフォー国会メーター」で最新情報を知ることができるようになっています(衆議院が解散されたため、以前の衆議院議員の情報がいったん削除されましたが、候補予定者の情報は公示後、できるだけ早く公開するとのことです) 
 
 
 つい昨日のニュースですが、10月18日、日本記者クラブで9党首討論会が開かれ、2022年の通常国会に「選択的夫婦別姓を導入するための法案」と「LGBT理解増進法案」を提出することに賛成するか?との質問に対し、ほぼ全ての党首が挙手したなか、自民党の岸田総裁だけ挙手しなかったことが報じられました。SNS上では「LGBT理解増進法は自民党が提案、衆院選の公約でも「速やかな制定」と掲げているもの。公約は嘘なのか」といった批判のが上がっています。
(度々お伝えしてきましたが、念のために振り返ると、6年前から国会の超党派LGBT議連でLGBT差別解消について議論されてきましたが、野党が提出したLGBT差別解消法案に対して、自民党はLGBT理解増進法案を打ち出してきました。今年5月、LGBT差別を解消せず同性婚等の運動を抑制することが懸念される同法案に反対する緊急声明がLGBTQ+Allyコミュニティから発せられ、LGBT議連で「LGBT差別は許されない」という文言を基本理念などに盛り込むことで与野党合意を見て、コミュニティ側もそれならばと推す方向に動いたものの、与党内の審議過程で複数の議員から「道徳的に許されない」「生物学上の種の保存に反する」といった差別発言が噴出し、同法案の国会提出が見送られると報じられ、熱い抗議運動が繰り広げられました)
 
 
 それから、ソフトウェア会社「サイボウズ」の青野社長(今年の東京レインボープライドに出演したほか、オンラインブースも出展しています)は、「選択的夫婦別姓」と「同性婚」に反対する政治家に落選してもらおう!という趣旨の「ヤシノミ作戦」という斬新なプロジェクトを立ち上げました。落選運動って穏やかじゃないな…と思われるかもしれませんが、こちらのページで青野氏の思いを読んでいただければ、きっと腑に落ちることと思います。
 憲法学者の上脇博之・神戸学院大学法学部教授は、「落選運動は、これは許せない、当選させてはいけないという一点だけでよい。4年前の総選挙からこれまでに国会議員が起こした言動は忘れられているものも多い。ウヤムヤにされたり立ち消えになったりした問題は、国民にとって重要な論点です。落選運動はこうした過去を振り返り、検証することで『このままでいいのか』と考えるきっかけになるのです」と述べています。
  「4年前の総選挙からこれまでに国会議員が起こした言動」としてLGBTQコミュニティのメンバーが真っ先に思い浮かべるのは、「”生産性”のないLGBTへの支援は不要だ」と述べた杉田水脈衆院議員でしょう。杉田議員の辞職を求める抗議デモには約5000人が詰めかけ、「杉田議員への批判は見当外れだ」とする寄稿を掲載した『新潮45』は廃刊に追い込まれました。あれだけの騒動を起こしておきながらきちんとした説明や謝罪、撤回もないままです…そして今回も杉田氏は自民党の比例中国ブロックからの出馬の公認を得ています(「生物学上の種の保存に反する」発言の簗和生議員も同様に、謝罪などがないまま、栃木3区から出馬します)
 
 
  この10年の国政選挙での政党・候補者のLGBTQイシューへの態度表明について振り返ってみます。
 2000年代から当事者団体が、大きな選挙のたびに政党や候補者へのアンケートを実施してきました。質問項目は同性愛者の人権、教育、同性カップルの権利保障、HIVのことなどで、意欲的な政党・候補者からは回答がいただけるものの、そうでない政党・候補者は無回答、ということが多々ありました。
 2014年の衆院選の際、社民党が初めて同性婚実現を公約に掲げ、ニュースになりました。
 2016年の参院選では、LGBT法連合会が候補者アンケートを始めたほか、朝日新聞と東京大学谷口研究室の共同による候補者アンケートの設問の一つに「同性婚」が入りました。
 2017年の衆院選でも、LGBT法連合会、朝日新聞と東京大学谷口研究室の共同調査、「JAPAN CHOICE」などで政党や候補者のLGBTイシューへの調査が実施されました。また、主要各政党の公約に「LGBT」や「性的指向・性自認」の文字が入るようになりました(多くが差別解消、自民は理解増進、社民は同性婚実現でした)
 2019年の参院選では、同性婚実現を公約に掲げる政党が立憲、共産、維新、社民と一気に4党に増えました。朝日新聞と東大谷口研究室の共同調査だけでなく、毎日新聞の「えらぼーと」などでも同性婚が盛り込まれました。LGBT法連合会は「#レインボー選挙」というキャンペーンを展開しています。国政選挙で初めて同性婚が争点として浮上した感があります。
 同性パートナーシップ証明制度のインパクトや「結婚の自由をすべての人に」訴訟、企業で社内LGBTQ施策が広がったことなどもあり、世間でLGBTQの社会的課題が認知されるにつれて、次第に政党・候補者も同性婚などのLGBTQイシューを無視できなくなってきたのでしょう。そうして2021年、衆院選で初めて選択的夫婦別姓と並んで同性婚が主要な争点の一つとして浮かび上がるに至ったのです。
 東大名誉教授の上野千鶴子氏は、「夫婦別姓、同性婚などジェンダー課題が選挙の争点になったのは、国政選挙始まって以来ではないだろうか。ジェンダーは票にならない、と言われていた通念をくつがえす動きだ」と感慨深げに綴っています。
 
 
 さて、2019年の参院選では史上最多の3名のLGBTQが立候補しましたが、今回の衆院選の候補者の中に性的マイノリティの当事者の方はどれくらいいるでしょうか。いま現在把握できているのは尾辻かな子衆院議員のみです。
 2005年に大阪府議として初めて同性愛者であることをカムアウトし、2006年にIDAHOや関西レインボーパレードの立ち上げに携わり(事務局長を務め)、2007年に同性愛者として初めて参院選に立候補し(当選に届かなかったものの、2013年に繰上げ当選を果たしています)、2017年に衆議院議員に当選した尾辻かな子氏が、再び立憲民主党公認で大阪2区から出馬します(比例は、近畿ブロックで名簿7位)。尾辻衆議院議員は、2018年のLGBT差別解消法案の国会への提出や、同性どうしの結婚を可能にする民法改正案の提出に中心的な役割を果たし、今年2月には菅首相に「息子さんが同性のパートナーと一緒になりたいと言われたら何と答えますか」と質問、「非常に複雑な心境の中で、検討に検討を重ねる立場になるだろう」との答弁を引き出し、また、衆議院法制局から同性婚の法制度化について「憲法上の要請であるとの考えは十分に成り立ち得る」との見解を引き出すなどしています。

【追記】2021.10.25
 日テレの『月曜から夜ふかし』に出演して有名になった二丁目のバー「BENCH」のゆっこママさんが、コロナ新(政権交代によるコロナ対策強化新党)の比例東京ブロックで出馬するそうです。
 
 
参考記事:
衆議院選挙2021 与野党9党の公約特集(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL161J70W1A011C2000000/
情報BOX:衆院選31日投開票、主要政党の公約一覧(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/japan-politics-manifest-idJPKBN2H40B1
とりあえずこれを見て…! あの政党はどんな意見? チェックリストが分かりやすい【衆院選】
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/choiceisyours-checklist
選択的夫婦別姓、LGBT法案に賛成なら挙手を ⇒ 自民党の岸田文雄総裁だけ挙手せず。理由は?【党首討論会】
https://www.huffingtonpost.jp/entry/kyoshu_jp_616d1a78e4b079111a4bbbfd
新しい落選運動 都議選で10人落選させた「ヤシノミ作戦」とは(NEWSポストセブン)
https://www.news-postseven.com/archives/20211014_1696625.html

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