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レズビアンを主人公とした小説が芥川賞にノミネート

 日本文学振興会は第161回芥川・直木賞の候補作を発表し、レズビアンが主人公の小説『五つ数えれば三日月が』が芥川賞にノミネートされました(5作品のうちの1つに選ばれました)。今回、直木賞候補がすべて女性だったということも画期的でしたが、レズビアンが主人公の小説が芥川賞候補になったことも画期的ではないでしょうか。
 
 『五つ数えれば三日月が』は、日本で働く台湾人レズビアン女性と、結婚で台湾に移住した日本人女性が平成最後の夏に5年ぶりに再会するというストーリー。二人が一緒に過ごす10時間を通じて、同性愛者として身分や国籍、言語のアイデンティティにおける問題と苦境に対する考えを映し出した、とのことです。
 
 作者の李琴峰(り・ことみ)さんは、台湾出身で、日本語と中国語の翻訳を仕事としながら、ライターとしても活躍している方です(先日の台湾での同性婚実現についても「虹がはためくのはいつか——日本と台湾のLGBT問題を考える」という熱い記事を書いています)
 実は李さんは2017年に日本語で執筆したデビュー作『独り舞』で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しています。心に傷を負って台湾から日本に渡ったレズビアンの主人公の葛藤と孤独を描いた物語で、「人間の傷の治癒、その可能性、あるいは不可能性」がテーマです。東京、台北、シドニーのパレードの様子が描かれているそうです(「隊列の先頭を行くフロートが賑やかなクラブミュージックを流しており、フロートの上で派手な衣装を身に纏うドラァグクイーン達がダンスを披露していた。」といった描写は、東京レインボープライドのことだったようです)
 なお、李さんは、自身のことを「規範的なジェンダーからの逸脱者」と表現しています(ハフィントンポスト「言語や国籍、性別や性的指向だって長い間揺らいでいた。思索の末、私がたどり着いた「真ん中」の風景」)

 
 これまでに同性愛を描いた作品が芥川賞の候補になったり受賞したりということは、全くなかったわけではありませんでした。
 1996年、高校教師と生徒との同性愛関係を描いた『バスタオル』で福島次郎さんが候補になっています。
 1997年、クィアな閻魔ちゃんと同性する主人公を描いた吉田修一さんの『最後の息子』が候補になりました。
 1999年にはトランスジェンダーの藤野千夜さんが、ゲイカップルやトランスジェンダーの人たちの群像を描いた『夏の約束』で見事に芥川賞を受賞しました。
 そして2017年には主人公がゲイである小説『影裏(えいり)』が芥川賞を受賞しています。
 
 今回の芥川賞で、もしも李琴峰さんの作品が受賞すれば(ノミネートされただけでもスゴいことです。しかも李さんにとっては母語ではない言葉です)、レズビアンが主人公の作品として初ではないでしょうか。
 賞の発表を期待して待ちましょう。

 
参考記事:
芥川賞候補に5人 直木賞は6人全員が女性 日本文学振興会が発表(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20190616/k00/00m/040/237000c
台湾出身の李琴峰さんの小説、芥川賞候補作に 「多くの人に読んでほしい」(フォーカス台湾)
http://japan.cna.com.tw/news/asoc/201906170003.aspx
著者のことば 李琴峰さん 性的少数者の境遇描く(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20180605/dde/012/070/008000c?pid=14516
日本で活躍する台湾人作家、李琴峰さんが語る台湾文学の同性愛(フォーカス台湾)
http://japan.cna.com.tw/news/asoc/201906170003.aspx


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