COLUMN

改正パワハラ防止法のポイント:公表の自由、顧客対応、就活生

改正パワハラ防止法のポイント:公表の自由、顧客対応、就活生

 こちらのニュースでお伝えしたように、6月3日、LGBT法連合会は「SOGIハラ対策の拡充・強化に向けた国会の附帯決議について」との声明を発し、今般のパワハラ防止法改正に際し、(SOGIハラやアウティングに加えて)カミングアウトの禁止・強制もパワハラに該当しうること、SOGIハラがカスハラに該当しうること、就活生に対するSOGIハラの防止も必要であるといったことが指針に明記される見込みである(附帯決議が参院で可決され、近く本会議で可決・成立の見込みである)ことを評価しました。(4日にLGBT法連合会が開いた記者会見でも、附帯決議で言い切りの形で「明記すること」と強い要望をしているのは珍しく、方向性が固まったとの認識だ、と神谷さんがおっしゃっていました)

 
 2019年5月、社内でパワハラ防止を義務づける労働施策総合推進法が可決され、SOGIハラとアウティングもパワハラであるとしてその防止に努めることが措置義務と定められました。このいわゆるパワハラ防止法は2020年6月1日に施行され(中小企業は2022年4月から施行)、すべての企業が、性的指向や性自認に関する侮辱・差別的言動や(営業から外されるなどの)「人間関係からの切り離し」などを含むハラスメント、およびSOGIに関する「機微な個人情報」を勝手に第三者に暴露するアウティングが社内で起こらないように努めることを義務づけられました。もし職場で上記のような防止策が講じられておらず、職場でSOGIハラやアウティングが発生しても何ら対処が行われない(法に違反している)場合、従業員が各都道府県の労働局に訴えることもできますし、違反した事業主は報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となります。
 このように、企業(職場)限定ではありますが、初めて法的にSOGIハラ(LGBTQ差別)とアウティングの禁止が明記されたことは、当事者の働きやすさ、生きやすさの改善という点で非常に重要な意味を持つ、歴史的・画期的な出来事となりました。(なお、このパワハラ防止法へのSOGIハラ・アウティングの明記は、LGBT法連合会の長年の政策提言活動のおかげで実現しました)

 そんなパワハラ防止法も施行から5年を迎え、一部改正がなされることとなりました。今回の改正では、「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること」、すなわちカスタマーハラスメントについての措置義務を各企業等に課すことが新たに加わっていますが(カスハラについては2024年の「東京都カスハラ防止条例」以外に防止を義務づける直接的な規定がありませんでした)、これと併せて、(SOGIハラやアウティングに加えて)カミングアウトの禁止・強制もパワハラに該当しうること、SOGIハラがカスハラに該当しうること、就活生に対するSOGIハラの防止も必要であることを法に基づく指針に明記するとの附帯決議が可決されました。LGBT法連合会は「この附帯決議によって、上記の各ハラスメントが各企業等の防止措置義務の範疇となる方向と当会は受け止め、大きな前進として評価する」としています。

 以下、今回加わった三つの改正点について、ポイントがわかるよう、少し具体的にお伝えしてみます。

<カミングアウトの禁止・強制もパワハラに該当>
 2016年に性同一性障害であることを職場に公表するよう強要されたとして愛知ヤクルト社員が提訴するという出来事がありました。この方は「40年以上隠してきたことを、突然、自分の口で説明させられた」ことの苦痛により、うつ病を発症しています。
 つい最近、長野県辰野町では学童支援員が「子どもの前でLGBTの話はするな」などと叱責され、退職を余儀なくされたハラスメント問題が問題視されました。
 職場で自身の性的指向や性自認を知られたくない方がカミングアウトを強制されないこと、逆に、性的指向や性自認を知ってほしいと思ったときにカミングアウトできることはとても重要で、(憲法13条で規定されている自己決定権の保障に当たるとも言えますが)今回、改正パワハラ防止法に明記されることで法的に保障されることには、大きな意義があります。
(2018年に国立市が制定した条例で「性的指向・性自認等を公表するかしないかの選択は個人の権利だ」として「公表の自由」が謳われていたのは慧眼でした)
 
<SOGIハラがカスハラに該当しうること>
 2017年、同性愛者が気持ち悪いから入店できないような対策を取ってほしいと投書した利用客に対してお店側が「お客さまを侮辱する方を、当社はお客さまとしてお迎えすることができません」と毅然と回答し、このことをこのお店で働いているゲイの方がTwitterで紹介したところ「すばらしい」との称賛が広がった、という素敵な出来事がありました。
 例えば百貨店や小売店の店先にゲイやトランスジェンダーの方が立って接客しているような場合にも、悪意ある客が罵詈雑言を浴びせたりいやがらせをすることも考えられますが(実際にもそのような事例が報告されているそうです)、だからといって事業主が差別的な客の側に立ってLGBTQの従業員を引っ込めるようなことは許されないですよ、顧客によるSOGIハラの防止も会社の義務です、と今回、定められることになったのです。
 
<就活生に対するSOGIハラの防止>
 トランスジェンダーの方にとっては就活に困難がつきまとう場合がとても多く、特に鬼門であった履歴書の性別記載は任意とされましたし、性別を不問とする「ブラインド採用」も増えてきてはいますが、内定後にカムアウトしたら取り消された方もいらっしゃいますし、面接の際に性別について根掘り葉掘り聞かれてしんどい思いをする方などもいらっしゃいます。トランスジェンダーだけでなく、面接の際に社長から「君はホモなのか?」と聞かれた事例も報告されています(LGBT法連合会作成の困難リスト第4版より)。そういう意味で、就活生に対するSOGIハラの防止が義務づけられることには、大きな意義があります。
 
 
 SOGIハラについてのコラムでもお伝えしていたように、もともとのパワハラ防止法では、以下のような措置をとることが求められています。
(1) パワハラがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること
(2) 相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること
(3) パワハラの相談申し出に対する事実関係の確認、被害者への配慮措置の適正実施、行為者への措置の適正実施、再発防止措置をそれぞれ講じること
(4) 相談者・行為者等のプライバシー保護措置とその周知、相談による不利益取り扱い禁止を定め周知・啓発すること

 今回の改正によって、カミングアウトの禁止・強制(公表の自由)、差別的な顧客への対応(カスハラから労働者を守る)、就活生に対するSOGIハラの防止についても、社内で周知・啓発し、相談窓口を設け、何か起こった場合は適切に対応し防止策を講じることなどが求められます。つまり、これまでやってきたことをさらにアップデートする必要が生じます。社内への周知については、改めて社内LGBTQ研修を行なったり、文書や資料などで周知を図る必要があるでしょう。
 

ジョブレインボー
レインボーグッズ